『銀の祈誓』インタビュー

そらる、動画投稿から広がった音楽活動への思い「知ってもらえるきっかけを増やしていきたい」

 動画投稿サイトにカバー曲や自作曲を投稿する“歌い手/ボカロシーン”から登場し、作詞作曲だけでなくミックスやマスタリングまで手掛けるマルチな才能を生かした自身のソロ作品や、まふまふとのユニット・After the Rainなどで人気を集めてきたシンガーソングライター、そらる。現在、彼がアップした動画の総再生数は2億再生を突破、Twitterのフォロワー数は126万人以上。ネットを中心に大きな支持を集めながらも、大規模会場でのライブを次々に成功させるなど、音楽シーンにおいても絶大な影響力を持つアーティストとしてさらなるブレイクが期待されている存在だ。

銀の祈誓 / そらる【実写MV】

 そんな彼が活動10周年を迎えた今年、3曲入りの最新シングル『銀の祈誓』を完成させた。タイトル曲の「銀の祈誓」は、もともと原作のファンだった彼ならではの視点で作品に寄り添う魅力が加わったTVアニメ『ゴブリンスレイヤー』(TOKYO MXほか)のエンディングテーマ。加えて、カップリングにはもうひとつの新曲「ゆきどけ」と、自身の過去曲のアコースティック版「嘘つき魔女と灰色の虹 -acoustic ver.-」が収録され、これまでの歩みと今の表現の両方が、作品に詰め込まれている。この10年の歩みと、今回のシングルに込めた思いについて聞いた。(杉山仁)

聴いてくれる人がいなかったら始まっていない音楽人生

――そらるさんは今年の7月22日で活動10周年を迎えて、今回のシングル『銀の祈誓』のリリースや来年からはじまる大規模なソロツアーも予定されています。10年前、活動をはじめた頃のことを改めて振り返ってもらえますか?

そらる:当時は今みたいにネット発で活躍している人たちもそれほど多くない時代で、ライブをしたりCDを出したりという人もまだそれほどいない状態でした。そこにボーカロイドや歌ってみたの文化が出てきて、楽しそうに活動している人たちを見て、「自分もここに混ざってみたいな」と思って。それで動画投稿をはじめました。だから僕の活動は、純粋な遊びの延長線上で広がっていったものなんです。

ーー当時と今とで「変わったこと/変わっていないこと」というと?

そらる:動画投稿や配信が遊びだという感覚は今も変わっていなくて、カバー曲は今も自分が歌いたい曲をカバーしているだけなんです。そもそも、嫌だと思ったらやめようと思って続けてきたことですし。ただ、もちろん変わってきた部分もあります。10年前の自分は普通の大学生で、音楽を仕事にしようとは思っていなかった。純粋に楽しいから動画投稿をはじめて、それを続けていくうちに規模がだんだん大きくなって。CDやライブをお金を出して買ってくれる人たち/見てくれる人たちのために責任を持つようになりました。「音楽をやって生きていく」という部分で、自分がやることにより責任を持つようになってきたというか。だから、「自分は音楽をやって生きていくんだ」と思うようになったのが、一番の変化なんだと思います。

――その変化はやっぱり、曲を聴いてくれる人たちの存在が大きかったのでしょうか。

そらる:もう、それに尽きると思います。聴いてくれる人がいなかったら、活動を大きくすることはできなかったでしょうし、音楽をやって生きていこうと思うこともなかったと思うので。

――今思いつくもので大丈夫なのですが、これまでの活動の中で特に印象に残っている出来事を挙げるなら、どんなことですか?

そらる:大きなイベントとしては、2017年の『SORARU LIVE TOUR 2017~夢見るセカイの歩き方~』の横浜アリーナでのファイナル公演は、ソロとしてひとつ結果を出せたことだったし、自分の中での大きな決断/挑戦でした。あとは、活動初期のことを思い出すと、夜中の3~4時に眠れずにもぞもぞと起きて、ひとりで家で歌って、それを投稿するというライフスタイルの時期もあって。当時は聴いてくれる人のことをそこまで意識していたわけではなかったんですけど、あの頃はあの頃で今とは違うことで悩んでいて、当時の動画を観ると、そのことを思い出したりもしますね。そこからサークルを組みはじめたり、人と何かをすることの楽しさに触れて、今のようにユニットでの活動にもつながっていきました。

――クリエイターの方たちとの輪も広がっていった、と。たとえば、まふまふさんとのAfter the Rainなどでの活動が、自分のソロ活動にも返ってくる部分はあるんでしょうか。

そらる:もちろん、同じく自分がやっていることなので、それぞれに影響を与え合っている部分はあると思います。ただ、After the Rainはまふまふが中心になって曲を書いていますし、お互いがやりたい音楽を一緒にやっているという感覚です。一方でソロは、より僕自身の音楽性に焦点を当てたものになっています。その両方で自然に出てくる自分らしさのようなものはあると思います。

――活動の幅がどんどん広がっている今の状況についてはどう感じていますか?

そらる:メジャーレーベルからCDを出すこと自体は5年ぐらい前にはじまったことで、それ自体に大きな意識の変化はないんですけど、ソロで横浜アリーナでライブをさせてもらったり、After the Rainでも日本武道館やさいたまスーパーアリーナなどの大きな会場でライブをやらせてもらうようになって、これからも活動を続けていくにあたって、ひとりの力ではどうしようもない規模になってきたなという感覚はあって。これからも音楽をして生きていくのであれば、「やれるところまでやってみよう」と思うようになりました。だから今、自分のことを知ってもらえるきっかけをもっと増やしていきたいと思っているんです。やれるところまでやって、頑張ってみたい。後のことは、そのときに考えてみようと思っていますね。

登場人物の立場になってーー物語に寄り添った楽曲制作

――今回の「銀の祈誓」はTVアニメ『ゴブリンスレイヤー』のEDテーマとして第2話からオンエアされています。『ゴブリンスレイヤー』については、どんな魅力を感じていますか?

そらる:もともと原作も好きで、小説やマンガなどを読ませていただいていました。僕はゲームやファンタジーが好きなんですけど、『ゴブリンスレイヤー』もそういった雰囲気のある作品なんです。でも同時に、普通は描かれないようなところまで掘り下げて描かれている作品だと感じていました。ゴブリンという、一般的には弱いキャラクターとの戦いに焦点を当てているところがすごく面白いなと。

――『ゴブリンスレイヤー』という作品は、いわゆるモブキャラのゴブリンを倒すことだけに固執する主人公の覚悟や、そこにつながる過去が明かされていくような内容ですね。

そらる:そうですね。実際のセリフやゴブリンスレイヤーの思いを参考にしつつ、もし自分が彼の立場だったら同じ経験をしたときにどう感じるかを考えて曲を書いていきました。

――主人公のゴブリンスレイヤーはとても口数が少なく、寡黙なキャラクターということもあって、EDテーマの「銀の祈誓」がその内面を代弁してくれているかのように感じました。

そらる:寡黙なゴブリンスレイヤーがゴブリンだけに固執して、ずっとゴブリンを殺し続ける覚悟をする理由とか、本人の中にある絶対に譲れないものが、作品から伝わってきたんです。それで、本人の口数は少なくても、そこに至るまでの過去があるんだろうな、だったらそれを曲で表現できたらいいな、というところから曲のイメージを固めていって。Aメロは客観的な視点ではじまって、Bメロで感情が徐々に高まっていって、サビで爆発するような構成にしようと考えていきました。戦闘が中心の作品ですし、サビは勢いのあるものにしたかったので、本人の口からは出てこない内面的な部分を書くべきだと思ったんです。

――それであの感情的なサビが生まれたんですね。今回はサウンドも、幻想的なイントロから始まって、とても激しいギターサウンドに変化していきますね。

そらる:アニメのオンエアでは89秒しか流れないからこそ、静かなギターのアルペジオからサウンドでもストーリーをしっかり表現していきたいと思ったんです。だから今回はストレートなギターロックにするのではなく、作品のダークファンタジー的な世界観にしっかりと寄り添って、セクションごとに耳を引くような展開を作って、サビで激しいけれどもキャッチーなメロディが出てくるようなものにしたいと考えました。あと、ギターロックの中でも、幻想的で壮大な雰囲気を出していきたいというイメージはありましたね。

――タイトルはゴブリンスレイヤーがゴブリンだけを倒し続けて獲得した「銀等級」から取られていますが、タイトルにこの言葉を選んだ理由は?

そらる:ゴブリンを倒し続けて「銀等級」を獲得するというのは作品の中では「他にいないこと」として描かれているので、「銀等級」は主人公のゴブリンスレイヤーが努力をし続けた結果手に入れたものだと思うんです。そこに本人の努力や覚悟が一番表われていると思うし、「銀」はその意思の強さや努力を象徴するものだと思っていて。そこに至るまでに立てた誓いがあるという意味で、「銀の祈誓」というタイトルに決めました。原作好きとしても、よりよい形で作品に関われるように、世界観を汲み取れるような曲にしたいと思っていましたし、同時に、自分が歌うならどうすればいい形になるのか、お互いにとって一番いいものにするにはどうすればいいのかを考えていきました。

――歌詞の中で、そらるさん自身にも繋がってくるような部分はあると思いますか?

そらる:先ほどもお話したように「銀の祈誓」は、ゴブリンスレイヤーの内面を自分なりに解釈して、同じ経験をしたときに自分がどう感じるかということを歌詞にしているんです。もともと自分の作る曲は、自分の考えを物語に落とし込んで、そのキャラクターたちに語ってもらう方法を取ることが多いので、タイアップ曲でありつつ、自分の作品に近い形式、自分のこれまでのやり方でも表現することができたかなと思っています。あと、ソロではあまりロックな曲を発表してこなかったこともあって、聴いてくれた人たちに「こういう曲も書けるんだ」と思ってもらえたことがすごく嬉しかったです。

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