RIP SLYMEの魅力を改めて考えるーー変幻自在な音楽性と突き抜けた明るさ
3rdアルバム『TIME TO GO』では『TOKYO CLASSIC』から一新。「ONE」などで聴かせていたフォーキーな要素を排除し、電子音中心のスムースで洗練されたトラックを聴かせている。また、『MASTERPIECE』では、レイドバックした電子音とオーガニックな生音を多用した高密度な楽曲を収録した。この2作では『TOKYO CLASSIC』へのカウンターかのような攻めた音作りがされている。一方、徐々に変化する日常への不安を描いた「STRANGE」や、葛藤を抱えながらも突き進もうとする「TIME TO GO」など内省的なリリックが目立つ。サウンドにもどこか物悲しさが漂っていた。そんなシリアスな一面は、当時のRIPSLYMEの魅力でもある。軽快なラップのなかで時折見せる不安や寂しさに、心揺さぶられるものがあったのだ。
病気療養で一時活動から離れていたDJ FUMIYA復帰後の5thアルバム『EPOCH』では、スティールパンを使用したトロピカルなサウンドを加味し心地の良い柔らかいアルバムに。『EPOCH』以降、彼らの音楽性は成熟を迎える。8thアルバム『STAR』ではシンセやエレクトロを導入し、フロア感を演出。本作の主軸となる「センス・オブ・ワンダー」のリリックでは、主観的視点から徐々に俯瞰的視点へと移していくという新たな手法をとった。それから約2年後にリリースした9thアルバム『GOLDEN TIME』では、音数を削りクラシックでシンプルな音作りがされている。また、ラップにこだわらず歌に比重を置いている点もこのアルバムの特徴だろう。
10枚目となるアルバム『10』は彼ら史上最も自然体なアルバムだ。〈笑って歌えれば何とかなるって思えりゃコッチのもんだ〉というラインが印象的な「ピース」や、〈誰もいない 何もしない/成り行き任せのままでいたい〉という「青空」など。本作には「何事も考えすぎなくていいのかも」と思わせてくれるような説得力があった。かつてのシリアスさとは異なる力の抜け加減や軽やかさは、年を重ねて経験を積んだからこそ生まれたものなのだろう。