くるりが12人編成で届けた豊かな音楽体験 『ソングライン』ライブで再現した中野サンプラザ公演
再び朝倉がカホンを叩き、その柔らかな低音を岸田のギターが軽やかに刻んでいく「特別な日」を披露。ファンファンのトランペットと、湯浅のトロンボーンによる(レコーディング音源にはなかった)絡みが加わり、キャンディーズ「年下の男の子」を彷彿とさせる可愛らしいメロディに彩りを加えた。アコギの弾き語りから始まり、徐々にバンドが入ってくる壮大な楽曲「どれくらいの」は、アルバムの中でも最大のクライマックスだ。この日の演奏も、レイドバックしたバンドアンサンブルと壮大な管弦楽の上で繰り広げられる、ピアノとギターの壮絶なソロバトルを忠実に再現し、会場からはこの日一番の歓声が上がった。
アルバムの最後を飾る「News」を、余韻を噛みしめるように演奏した後、「falling」や「chili pepper japones」、「taurus」など、これまであまりライブでやってこなかった『坩堝の電圧』(2012年)の収録曲を披露し、ファンからは驚きの声が漏れる。これも、12人編成ならではのくるりからのプレゼントだ。さらに「さよならリグレット」、「ブレーメン」とライブの人気曲を演奏し本編は終了。アンコールでは「太陽のブルース」「虹」、「ロックンロール」を歌ってこの日の演奏は全て終了した。
これといった大きな演出やギミックもなく、ただただひたすらいい歌といい演奏を、アルバム通りに披露しただけなのに、体から音が零れ落ちそうなほど豊かな音楽体験をさせてくれたくるり。相当アルバムを聴きこんで今日は臨んだつもりだったが、生で聴くと新しい発見がたくさんあった。さあ、早く家に帰ってまた『ソングライン』を聴き返さなきゃ。
(写真=神藤 剛)
■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。