小野島大の新譜キュレーション 第18回
Tim HeckerからDisclosureまで 小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜の傑作/佳作
DJミックスものを2つご紹介しましょう。UKエレクトロニカ〜ポストダブステップのデュオ、マウント・キンビー(Mount Kimbie)が、名物シリーズ『DJ-Kicks』<!K7 Records>に登場、新旧テクノの楽曲を自在にミックス。緻密に練り上げたエレクトロニカで知られる彼らが、躍動感のあるヒプノティックなダンスミュージックの世界を作り上げています。テクノの楽しさを凝縮したようなツボを心得た見事なミックス。
UKベースミュージック最重要レーベル<Hyperdub>を主宰するコード9と、UKダブステップの王者ブリアルが、これまで数々のテクノアーティストが参加してきたミックスCDシリーズの最後の作品『FABRICLIVE 100』<Fabric>に登場。契約の関係かCD、バイナル、DL配信のみでストリーミングはありません。ジューク/フットワークから、ドラムン、グライム、ベース、テクノ、ユーロトランスまで、時代・ジャンルを超えたダンストラックが荒々しくヒプノティックに融合。暴力的なまでのローのアタックとバイナル盤のスクラッチノイズも生々しいストリート感覚たっぷりの音像は、「ヤバい」という言葉しか出てきません。必聴。
The Orbのメンバーとしても活躍するジャーマンテクノの重鎮、トーマス・フェルマン(Thomas Fehlmann)の8年ぶり7枚目のアルバムが『Los Lagos』<Kompakt>。重厚で緻密でダビーなテクノ世界は見事な完成度。様々な音楽的要素を取り込みながらも一貫したフェルマンらしい世界を披露しています。まろやかでいながら強靱な音像も凄い。還暦を超えたベテランによるエレクトロニックミュージックの見事な成熟形です。素晴らしい。
マドリード出身のDJ/プロデューサー、オスカー・モレロ(Oscar Mulero)の新作が『Electric Shades EP』。ベルギーテクノの最前線<Token>からのリリース。EPといいつつ全12曲50分を超えるサイズです。ジャケット通りのクールで幾何学的なアプローチが実に魅力的なディープミニマルテクノで、ストイックで無駄な音が一切入っていない研ぎ済まれたシャープな音像は、それ自体がモダンアートのようでもあります。お見事。
ゼロ年代のミニマル・テクノの代表選手、チリのルチアーノ(Luciano)の9年ぶりのアルバムが『Sequentia, Vol.1』<CADENZA>。バイナルと配信のみのリリースで、彼の運営するレーベル<CADENZA>の15周年を記念しての作品です。ルチアーノらしい中南米の熱気が滲み出るようなトライバルでエスニックなビートが展開されますが、前作で見せたサイケデリックな呪術性のようなものが薄まって、エモーショナルなメロディが前面に出て、よりスッキリと力強く美しいディープ〜テックハウスに仕上がっています。無駄がないのにふくよかで広がりがある。いつもルチアーノは最高ですね。