大瀧詠一がインディーシーンに与えた影響 トリビュートアルバム発売を機に考える

 OLD DAYS TAILORに参加しているOkada Takuro(ex.森は生きている)の『The Beach EP』の仕上がりはA.O.Rに2018年現在のムードをたっぷり吸収させた、特異な浮遊感が漂う最新型の音像になっていた(また制作にあたっては特徴的なシンセ・サウンドとオールディーズを取り入れる方法論において『A LONG VACATION』(1981年)からの直接的な影響も明言している(2018年10月号『レコード・コレクターズ』より))。またSpoonful of Lovin’に参加しているポニーのヒサミツにはカントリーへの憧れを日本のポップスとしてどう表現するかという命題にとことん向き合う気概が感じられるし、bjonsに見て取れる60~70年代のアメリカンポップスの基盤、秘密のミーニーズにあるウエストコーストロック色濃いサウンドとコーラスワークがガロやTHE ALFEEを経由し今にリバイバルさせている姿勢など。まるで「分母分子論」が今一度リセットされたかのように現代の感覚で自らの地盤を掘り起こして確認作業を行い(分母)、どのように参照するかで今に鳴らす意味付けを見出している(分子)ような作品が生まれているのだ。

 また、大瀧詠一は、長らく<ナイアガラ・レーベル>を率い、度々自身の作品を時代と技術の発達に合わせてリマスターして送り出すなど“商品としてのポップス”に高い美意識を貫いてきた。

 そんな美意識の継承という点では、猪爪東風(ayU tokiO)を挙げておこう。自主レーベル<COMPLEX>を率いて同じくトリビュートアルバムにも参加しているやなぎさわまちこ『回転画』のプロデュースからリリースまで関わっている。自身の新作『遊撃手』では楽曲ごとに多彩なミュージシャンを配し、ストリングスを含めた立体的でリッチな音像を試みており、知識や技術がなくともカジュアルに音楽が作れてしまう現代に意識的に抗う姿勢を取っている。またプロダクトコーディネーションとして平澤直孝(なりすレコード)がクレジットされているなど作品に関わった人を丁寧に刻み込む細部へのこだわりは、『風街ろまん』(1971年)で1曲ごとにミキサーの名前まで記載しプロダクションを可視化した大瀧の製品に対するこだわりと通ずるものがある。大瀧詠一のポップスにかける美意識は、今の若い世代のミュージシャンにも、理想的なロールモデルとして確かに息づいているのだ。

 2013年の急逝から早5年。大瀧詠一の音楽とその姿勢は、5年経った今でも過去のものとして歴史の中に封印されることはない。今後も彼の築いてきたものは、本作の参加陣を始めとする新世代の「分母」となっていき、音楽シーンを活性化させていくのだろう。

■峯 大貴
1991年生まれ。大阪出身。音楽ライターとしてアンテナki-ftを拠点に活動。執筆実績は以下noteにまとめております。Twitter:@mine_cism

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