新しい地図とならどこまでも新たな挑戦ができるーー真っ白なスタートからの1年を振り返る
稲垣が主演を務める映画『半世界』が、第31回東京国際映画祭でコンペティション部門に出品されることが決定した。稲垣が演じるのは、山小屋に住む炭焼職人。無精ひげを生やし、色あせた作業着に地味なニット帽をかぶった姿は、美しい花が活けられた部屋でワインをくゆらす稲垣とは真逆をいく役柄。あまりにも彼の持つパーソナルイメージとかけ離れていることから、その公開が待ち望まれている注目作だ。
監督は『エルネストもう一人のゲバラ』『北のカナリアたち』などを手がけた阪本順治。撮影現場に密着した『AERA』(2018年5月14日号)では、稲垣が阪本監督と細かな打ち合わせを重ねて、役作りを行なっていた様子がレポートされた。口調の速さ、歩くスピード、ノックの強さ、そして回数……その一つひとつの動作に表れる感情を表現しようと模索する稲垣。
40歳を直前にした3人の男の視点を通じて、「人生半ばに差し掛かったとき、残りの人生をどう生きるか」というテーマが描かれると聞けば、新しい地図との共鳴を感じずにはいられない。不安と葛藤、仲間との絆、そして新たな希望。稲垣自身も、きっと新しい地図をスタートするときに、こんな表情をしていたのかもしれない。その主演を稲垣が務めるのは必然だったのでは、とさえ思えてくる。イメージの異なるキャラクターを演じることで、稲垣の中にあるテーマの本質が凝縮されて見えてくる予感がしてならない。
3人が今を思い切り楽しんでいるように見えるのは、きっと新たな1歩を踏み出したからこそ、彼らの中で表現することに対する喜びが溢れ出ているからだろう。そう思うと、たった1年でここまできたのだ。これから先、彼らがどんな未来を見せてくれるのか、ワクワクは膨らむばかり。そう、彼らとの旅は始まったばかり。まだまだ新しい地図は、広がり続ける。
(文=佐藤結衣)