16thアルバム『INNER VOICE』インタビュー

真心ブラザーズが語る、時代の波を乗りこなす音楽哲学 「退屈に慣れておいたほうがいい」

「より言葉を大事にした作品になった」(桜井)

――桜井さん。前作からここを強化したいとか、そういうポイントは何かあったんですか。

桜井:もっと適当に、というんじゃないけど、失敗をむしろする、ぐらいの感じ? ビビッて中途半端になるんだったら、自分の実力よりちょっと上のことを、えいっ! と飛び込んで、コケた時の間違いのほうが面白いから。たとえば、ボーナストラックに入ってる「ズル」とか。

――あれ、思いっきり笑いながら歌ってますね。何だったんですか。

桜井:YO-KINGさんが、自分のギターソロが面白くて、自分で笑って、そのギターソロを最後にもう一回やるという(笑)。

YO-KING:うけたからね。笑わしにかかってる。

桜井:それで今度は、全員が笑う。

YO-KING:4人で顔を突き合わせてやってるので、4人のリアクションを見ながらできる。終わり方も決めてないから、終わるよ? みたいなタイミングで「よし、終われた」みたいな面白さもあるし。まあ、アウトテイクだからね。

――これはいいテイクですよ。スタジオの空気を、何よりも雄弁に物語る。

YO-KING:やっぱり、アウトテイクのパワーってすごくて、「本チャンはこうあるべき」という、壊す壁がまだあるなと思いましたよ。

桜井:本採用の曲も、ぎりぎりアウトかな? というのもあるからね(笑)。

――面白いといえば、「バンブー」で弾いてる桜井さんのバイオリン。前回もちょろっと弾いてましたけど、今回は大々的に弾きまくってるじゃないですか。

桜井:要所要所だけ、入れるつもりだったんですよ。で、曲を頭から流しながら、練習がてら適当に弾いてたら、「全部入れろ」ということになって。マジか? と。

――いやあ、いい味出してます。

桜井:これも面白いですよね。さすがにダビングだったんですけど、自分のバイオリンを聴いて、自分で笑いました。歌と、バンジョーと、バイオリンと、全部本業じゃないことを三つもやってる(笑)。

――最高です(笑)。こういうものに、何かが宿りますね。

桜井:やっぱり、日本のポップミュージックの主流が、プログラミングのものになっているので。90年代や80年代にこういうことをやっていたのより、今のほうがより面白く聴こえると思うんですよね。だってポップミュージックを、人間が演奏しているものとは思っていない中高生とか、たぶん多いと思うから。バンドものは別として。パンクとかいっても、今聴くとすごいしっかりしてるじゃないですか。なので、今こういうことをここまでやると、突き抜け感があるんだと思います。

真心ブラザーズ「メロディー」MVショート

――YO-KINGさん。リード曲の「メロディー」、どんな動機で書いた曲ですか。

YO-KING:長い曲にしたいとは、ぼんやり思っていて。サビは全部一緒にしちゃって、Aメロだけどんどん転がっていくような歌詞にして、最後は「作ってる俺がわけわかんなくってきたわ」という曲に落ち着いたんですよね。

桜井:落ち着いてないと思う(笑)。

――投げっぱなし?(笑)。斬新ですよ。

YO-KING:これは発明したなと思ったんだけど、まだまだもっと行けたなとは思う。「歌詞をどういうふうに考えようかな?」というところを、歌詞にしたかったんですよね。もうちょっと混沌としてよかったんだけど、結局自分を肯定して終わっちゃってるから。まあでも、俺の中では面白い遊びができたなと思いますね。ちゃぶ台返しじゃないけど、作り上げた設定を最後に壊すというか、ゴダール(ジャン=リュック・ゴダール)のカメラ目線のセリフみたいな。

桜井:ああー。

YO-KING:カメラに向かって、役者がしゃべりだしちゃうから、映画っていう設定が外れちゃうじゃんって。そういう発明があってもいいのかなと思ったんで、わざわざ設定を作っておいて、それを壊す。

――曲調的には、もろにボブ・ディラン。こういうの、得意ですよね。

YO-KING:得意ですね。

桜井:演奏してる側も、4番やって、やっと間奏だから。普通は、同じコーラスを4回繰り返すと、何か違うことをしなきゃいけないような気になってくるんですけど、やっぱり歌詞がぶっ飛んでいて、いろんなところに取っ散らかってくれるんで、こっちもそこが楽しいんですよね。ちゃんと一個ずつ盛り上げなきゃとか、そういうふうに考えるんじゃなくて、一つ一つの言葉に対して、演奏者が何か反応していく。たとえばダイ(伊藤大地)ちゃんが、〈山奥に住む男の家賃は一万六千円〉というフレーズのところに来ると、「なぜか僕、力が出るんです」と言っていて。

――よくわからないです(笑)。

YO-KING:『男の隠れ家』好きだから。毎月買っちゃってるから(笑)。

桜井:というところを、演奏陣が感じながらやるのが、歌ものをやっている歓びと言いますか。それって、ブルースをやってる楽しさなのかな。

――ああ、そうですね。シンプルなフォーマットがあって、それに乗って転がっていって、歌詞で変化をつけていくスタイル。

桜井:『INNER VOICE』というタイトルもそうですけど、より言葉が大事になっているアルバムだと思います。

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