高見沢俊彦、ソロと小説で広がる“表現への情熱”「振り子の大きさが創作意欲を刺激する」

高見沢俊彦、表現への情熱

バンド、ソロ、小説で表現する“プログレッシブロック”

ーー以前のインタビューではクラシック音楽についてお話いただきましたが、「薔薇と月と太陽」ではふんだんにその要素が取り入れられています。

Takamiy:去年、一昨年と西本智実さんと一緒に『INNOVATION CLASSICS』という公演をやらせていただきました。それまでクラシックは趣味というか、個人的に好きで聴いていたものだったので、まさかオーケストラと一緒に自分がギターを弾くことになるとは思っていなかったですね。その時に僕が作った楽曲もオーケストラで演奏したのですが、そこでふと思ったのが、ちょっとオーバーに言うようですけど「自分が作ったメロディもオーケストラに合うんだな」ということでした。それからちょっと感覚が変わって、THE ALFEEの「あなたに贈る愛の歌」(2017年)もクラシック寄りに作ってみて、今度はもう少しハードなものをやってみようと思って作ったのが、今回の「薔薇と月と太陽」なんです。もともと自分の中にあったクラシック的な要素が『INNOVATION CLASSICS』で開花した感じがありますね。

ーーそれは主にメロディや旋律の部分で?

Takamiy:もちろんそうですけど、縦横無尽に積み重なるストリングスが生で聞けば聞くほど素晴らしかったので、それを自分の楽曲で活かしたいという欲求が前以上に生まれてきました。

ーー高見沢さんはこれまで、どんなクラシックに親しんできたのでしょう。

Takamiy:クラシックのアプローチは映画音楽の世界にもありましたよね。小学生の時、『ドクトル・ジバゴ』という映画のメインタイトル曲がものすごく好きになってしまって。兄貴のレコードなんですけど、一時期あればかり聴いていました。映画も見ていないのに、映像が浮かぶようなサウンド、メロディラインがあって、これがメロディの力なのかなと思いましたね。あとは、ドヴォルザーク『交響曲第9番「新世界より」 』のメインテーマの裏に入るティンパニー。あの音色がずっと自分の中で鳴っている時期があった。クラシックって自分の好きな部分が出てくるまでにすごい時間がかかるでしょ。だから途中を飛ばして、そこだけをいつもかけていました(笑)。ああいったイメージの曲などは、自分の楽曲作りに影響を与えましたね。

ーーロックの長い歴史の中で、プログレッシブロックも含め、クラシック音楽へのアプローチは脈々と受け継がれてきました。振り返ってみて、高見沢さんはどの時代のどの音楽が一番刺激的だと感じていますか? シングルとほぼ同時期に発売された小説『音叉』の中でもいろいろなロックのアーティストや楽曲が登場しますが、Yesの名作『危機』(1972年)についても書かれていましたよね。

Takamiy:僕がプログレッシブロックが好きなのは、構成も含めて、クラシックの交響曲に似ている部分があるからなんです。ポップミュージックやロックを作る上では、プログレがやっているようなことってあんまり必要ないんですよ。装飾ですから。ただ、聴いているよりも演奏するのが楽しいのがプログレなんです。僕らTHE ALFEEはプログレが3人とも好きで、プログレ的な要素の楽曲もたくさんやってきましたけど、衣装も違う3人が45年も同じステージに立ち続けているという、バンドのあり方自体もプログレなのかなと今となっては思いますね(笑)。

ーープログレにもいろいろな系統があります。これらも本の中に登場しますが、Pink Floyd、King Crimson、Yesであれば、どのグループの音楽性が高見沢さんに一番フィットしていましたか?

Takamiy:聴いていて心地いいのはPink Floyd。やっていて楽しい、悦に入るのはKing Crimson。やっていて難しいのはYesですかね。ただ、技術的な面に関してもやはりYesが一番当時から上手かった。コーラスも入っているし、ドラムもギターもキーボードも超一流の人たちが演奏していていますよね。Pink Floydはどっちかというと、サイケのイメージ押しで、テクニカルなことはあまりない。でも彼らの音楽は誰にも再現できないものです。Pink Floydは高校2年の時から毎ツアー見ていて、1994年の最後のツアーはNYのヤンキースタジアムまで行って見ましたよ。海外で見るPink Floydはとにかくすごい。「このセットは日本には持ってこれないな」と思うような規模で、球場全体がファンタスティックなアナザーワールドになっている。なんといっても一番すごいのは、メンバーにスポットライトがあまり当たらないとこ。映像と照明で作られるショーには感動した記憶があります。それから僕は照明に関してものすごく神経質になりました。同じことは再現できないけれど、かなりそれに近いようなライトデザインをやるようにはしていて。サウンド以上に照明になぜこだわるかというと、3人とも動かずに定位置で歌っていることが多いから。そこはPink Floydと同じようなものなので、後ろの方の席の方も楽しめるような照明ショーを目指してますね。

ーーサウンド面では、Yesの存在が高見沢さんにとって大きいのかなと感じますがーー。

Takamiy:Yesは大きいですね。高音のコーラスもあるし、ジョン・アンダーソンの声も気持ちがいいし、そのへんのイメージはあります。Yes、Uriah Heep、Queenあたりがコーラスロックの中では好きですね。

ーーUriah Heepも『音叉』の中で効果的に描かれていますし、Queenもちょうどデビューの時の話が出てきますよね。

Takamiy:そうですね。僕たちはKISSとデビューが一緒で、Queenはちょうど僕たちの1年先輩なんですよ。

高見澤俊彦『音叉』

ーー『音叉』についてもお聞きしたいのですが、この物語はあくまでフィクションとして書かれたものなのでしょうか。

Takamiy:そうです。音楽ものでバンドが中心のストーリーにすると必ず僕と照らし合わされるだろうなと思ったので、逆に自分と一番遠い存在を書きました。THE ALFEEとストーリーに出てくるジュブナイルなんてまったくの逆。僕らは真剣にミーティングなんてしたことないですし、大学生になってから3人でしたことは麻雀だけですから(笑)。ちょっと練習しようとしても桜井(賢)が来なかったりして、全然足並みが揃わない。ある意味、僕らは遊び仲間でしたし、ジュブナイルのように上を目指していたわけではないですからね。

ーー物語の時代背景がとてもリアルに書かれていますが、改めて取材をされたのでしょうか。それともご自身の記憶で?

Takamiy:ほとんどが記憶ですね。僕らの世代の学園闘争をやっていない普通の若者、その最大公約数を一人に集約したのが主人公です。1970年の安保の自動延長で学園闘争が起こる中でも普通の人のほうが多かったですから。もちろん学生運動をやっている人もいましたけど、本当にごく一部でどんどん減ってましたからね。ただ、それでも事件は度々起きるわけですよ。特に印象に残っているのは、1974年8月30日に丸の内で起こった三菱重工爆破事件。その5日前が僕らのデビューでした。しかも銀座で発表会をやったので現場も近くて。そういった意味ではニュースとして鮮烈に覚えています。1973、74年はいろんなことが起こりましたからね。だから僕の中では……平和にむかっていく、街もファッション含めてカラフルになっていくのに、そのカラフルさと危険な要素が同居する街になっていたという記憶があった。それを具現化したのが『音叉』なんです。

ーー物語を通して、一番書きたかったことは。

Takamiy:今はネットの時代じゃないですか。自分もそうですけど、ネットがないとダメな人種になってるんです。メッセージやSNSで今は簡単に人とつながることができる。でも実際、親密につながっているようで、つながっていない。例えば対面しても恋人同士がカフェでLINEで話をしてるような状況があります。つながっていても希薄というか。ネットがなかった僕らの青春時代は連絡を取るために、緊張しながら家の電話にかけていましたよね。誰が出るかわからないので親が出たときの対処マニュアルを自分で考えたりして。あの時代の特徴です。アパートに住んでいる人に電話するときは呼び出しの時間が決まっているからその間にかけなきゃいけないし、会う場所もきちんと決め込まないと会えなかったから、会ったときの時間はかなり貴重だった。絶対に下を向いてLINEをやるようなことはなくて、対面したいわけですよ。そう考えると、あの時代のほうが人間関係は密だったのかもしれません。だからネットがなかった世代の恋愛が書きたかったというのはありますね。あと、タイトルの「音叉」もギターのチューニングをする時に使っていたものですけど、今ではほとんど使わないじゃないですか。チューニングメーターもアプリで無料のものがありますし。僕らの頃は音叉で合わせていたから、チューニングがいいやつ・悪いやつの差が激しかった。でも耳の訓練にはなっていましたね。そういったアナログの象徴として『音叉』というタイトルにしたんです。

ーー「薔薇と月と太陽」の歌詞では高見沢さんのロマンティックな言葉遣いを楽しむことができた一方、『音叉』の文章ではとてもリアリスティック、ある意味平熱のユーモアが感じられてテンポよく読ませていただきました。

Takamiy:なるほど。その部分は気をつけましたね。ミュージシャンが書く小説であるということを踏まえて、リズミカルにしよう、いわゆる読みやすくしようということは心がけたかな。僕が読んできた文学は難しかったものが多かったので、活字離れが進んでいる現代に、活字、本を気軽に読んでほしいなと。僕の本がきっかけで他の本も読もうとするならそれはそれでOKだし、そういうことは今後も考え執筆していきたいですね。

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