『未来のミライ』音楽プロデューサーが語る、細田守監督&山下達郎との“音楽制作の裏側”

『未来のミライ』音楽Pインタビュー

 細田守最新作『未来のミライ』が、7月20日より公開となった。

「未来のミライ」予告3

 同作は、『時をかける少女』や『サマーウォーズ』、『おおかみこどもの雨と雪』といった長編アニメーション映画を生み出してきた細田守監督の最新作。甘えん坊の4歳の男児くんちゃんと未来からやってきた妹のミライが繰り広げる不思議な冒険を通して、様々な家族の愛のかたちを描いていく。

 主題歌は『サマーウォーズ』以来、2度目のタッグとなる山下達郎。『おおかみこどもの雨と雪』や『バケモノの子』にも参加する音楽家・高木正勝が、劇中の音楽を担当した。リアルサウンドでは、『未来のミライ』をはじめ、過去の細田監督作品で音楽プロデューサーを務めた東宝ミュージック株式会社の北原京子氏にインタビュー。音楽プロデューサーの役割、細田監督や山下達郎との制作秘話など、『未来のミライ』の音楽ができるまでの過程を語ってもらった。(編集部)

「監督と音楽家、双方のコアに触れられる仕事」

北原京子

――北原さんの「音楽プロデューサー」という仕事は、具体的にはどんなものなのでしょう?

北原:私の役割は、ちょっと見えづらいお仕事というか、多分映画に携わっている人たちのなかでも、意外とわからない仕事だと思うんですよね。というのも、私のような形で「音楽プロデューサー」の仕事をしている方は、私を含めて多分片手で数えられるぐらいしかいないと思うので。

――ひと口に「音楽プロデューサー」と言っても、映画との関わり方はいろいろあるということですね。ちなみに、北原さんはどのような関わり方を?

北原:具体的には、監督やプロデューサーと音楽家や主題歌のイメージのすり合わせ選定、実際の制作~最終の仕上げ、権利処理、予算管理を行います。監督と音楽家のあいだに入って、両者の考えをすり合わせながら、映画音楽を作っていくのがメインの仕事になるのですが、私の場合は、DB(ファイナルミックス)にも立ち会います。ただ、細かなことを言うと、私の場合でも作品によっていろいろな形があるというか、様々な作品、監督がいて、音楽家がいるわけじゃないですか。しかも、音楽というのは、非常に抽象的なものでもあるわけで。なので、やり方が1つではダメなところがあるというか。そのときどきの座組に合わせて、スムースなやり方を考えているような感じですね。

――なるほど。

北原:もちろん、監督と音楽家が直接やりとりしても大丈夫だと思うし、実際そういう風に作られている作品も多いと思います。ただ、監督と音楽家の双方に話を聞いてみると、「あのときこうしたほうがいいって言ったんだけど、やってくれなかったんだよね」とか、「書いたテーマが、全然違うシーンに当てられていた」とか、そういう話をよく耳にします。私の様な役割の人間があいだに入っていたらすれ違わなくて済んだことが、すれ違ったまま終わったり……もちろん、映画なので、当初の予定とは違うシーンで使われたりすることもしばしば起こります。私があいだに入ることによって、「なぜ、そうなったのか?」演出経緯を説明して、音楽家に理解を得られることができるというか。そういう役割も担っていますね。

――監督と音楽家の双方とコミュニケーションを取りながら、調整する役割を果たしている。

北原:そういう立場の人間がいたほうが、多分円滑に行くんだと思います。監督と音楽家は、主観に寄ることが多いと思います。それを一歩引いて客観的に見れる人間がいるかどうか……特に、細田組の場合は、デリケートも含めていろいろ大変だったりもするんですけど(笑)。

――北原さんが、細田監督の映画の「音楽プロデューサー」を担当するのは、これで3作目で、いずれも高木正勝さんとタッグを組んでいるわけですが、この座組というのは、そもそもどんなふうに生まれたものなのでしょう?

北原:私が細田組に関わるようになったのは、『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)からなんですけど、そもそも細田監督が、高木正勝さんの音楽のファンでいらっしゃって……それで、『おおかみこどもの雨と雪』のプロデューサーから、相談があったんです。「北原さん、高木さんとお仕事したことありますよね?」って。高木さんの音楽は私も大好きで、以前別の映画で、お声掛けしたことがあったんですよ。高木さんは、いわゆる職業作家タイプではないけど、映像音楽をやっていただいたら、絶対いいことが起きるはずだって思っていたので。

――『おおかみこどもの雨と雪』の前に、すでに高木さんとはお仕事をされていたのですね。

北原:はい。ただ、いきなり丸々一本の映画をお任せするのは、未知数なところがあったので、一度「部分参加」という形でお呼びしたことがあって。そこでご一緒してみて、どんなセンスをお持ちなのか見てみたいと思ったんです。ちなみに、『そのときは彼によろしく』(2007年)という映画だったんですけど、非常にうまく行ったので、いつか高木さんと一本やってみたいと思っていました。相談の連絡があったので、まずは作品を見せて欲しい旨を伝えて……といってもアニメなので、まだ映像もできていないし、そのとき見られるものは脚本しかなかったんですけど、それをその日の夜に読んで、もう私は号泣してしまって(笑)。

――(笑)。

北原:で、「これはもう、絶対私がやる!」と思い立って高木さんにご相談したんです。「映画音楽なので、監督との調整はいろいろ必要だと思いますけど、それでもやっていただけますか?」って。そしたら高木さんも、是非やりたいと言ってくださって。ただ、『おおかみこども雨と雪』は、公開体制の大きい映画でしたし、広く世界に向けて放つ映画なので、アーティスティックな表現だけでは届かない部分もあるというか、細田監督が表現しようとしていることを考えると、違う要素も必要だなと思って。それで、足本憲治さんという、久石譲さんのもとで修行されていたオーケストレーターの方にチームに入ってもらうことを提案して。そういう座組でやってみたいという話を細田監督に話し、監督も同意ということだったので……そう、だから実は、細田組の音楽っていうのは、高木さん、足本さん、そして私っていう、そういう構えで、ずっとやっているんですよね。

――なるほど、今回の『未来のミライ』も、それと同じ座組になっているわけですね。

北原:そうなんです。『おおかみこどもの雨と雪』のときに、その座組でガッツリやって、素晴らしい音楽を作ることができたので……もちろん、大変な部分も、やっぱり多かったですよ(笑)。さっき言ったように、高木さんは、いわゆる劇伴の作曲家ではないので、簡単に物事が進まない時もあったり、細田監督も本当に音楽が好きな方なので、オーダーも難しいこともある。途中で変わったりすることもあるんですよね(笑)。細田監督に聴いてもらう前に、私と高木さんのあいだで何戦かやっていて……。高木さんがいいと思って書いてきたものが、客観的な目からすると、監督が求めていることと違う方向だったりすることもあるので、細田監督に聴いてもらう前に、まずはそこでいろいろとやりとりを行い意見交換をしています。

――その段階で、すでに微調整が入るというか、ひと揉みあるわけですね。

北原:で、それを監督に聴いてもらって、そのあとまた監督と私のあいだでも、いろいろやりとりがあるわけです。高木さんの意図を監督に伝えながら、それに対する監督の考えを、また私が高木さんにフィードバックする。そこがやっぱり、音楽という抽象的なものの制作の大変なところなんですよね。ここが違うと言っても、それがうまく伝わらないことも多々あるというか、否定ではないやり方で誘導していったほうがいい場合も結構あったりするわけで。そこで私が、いろんな手練手管を使いながら調整していくわけです(笑)。

――なるほど、北原さんの役割が、だんだんわかってきました。ある種の緩衝材であり、場合によってはサンドバッグにもなるという……。

北原:確かに、サンドバッグみたいなところはあるかもしれないですね(笑)。監督も音楽家も、お互いには直接言わないようなことも、私にはストレートに言ってくるので。で、その音楽が成功したら、それはみんなの勝利で、うまくいかなかったら、私の力不足だっていう(笑)。大変なことも多い仕事ですが東宝というメジャーな会社でやらせてもらっているのは、すごくやり甲斐のあることだとは思っています。東宝は、やはりトップを目指すクリエイターが集まってくる場所というか、その時代のトップの才能が集まってくる場所なので。そのクリエイティブのゼロ地点に自分がいるというのは、本当に面白くて刺激的なことなんですよね。監督と音楽家という、双方のコアの部分に、私は直接触れることができるわけですから。まあ、だからこそ、大変と言えば、ものすごく大変な仕事なんですけど(笑)。ただ、それがうまくいったときは、本当にものすごい達成感のある仕事ですよね。

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