『Voice JAM』インタビュー
テレビ&ライブにおける“生演奏の重要性”とは 『Voice JAM』仕掛け人×J☆Dee’Z×當山みれいが語り合う
灰野氏×服部氏が仕掛ける“未来への投資”
ーーありがとうございます。ここからは服部さんと灰野さんを中心にお話を伺いますが、あらためてお二人の関係性とは?
服部英司(以下、服部):ご一緒する機会もたくさんあったし世間話をする仲ではあったんですけど、『Sound Inn “S”』(BS-TBS)のLittle Glee Monsterよりも前に、『ライブB♪』(TBS系)へJ☆Dee’Zが出演した時に、サブ(副調整室)で「どうですかね?」とグイグイくるから、率直に色々と申し上げたんです。その直後に『Sound Inn “S”』でLittle Glee Monsterに出演してもらう回があって。J☆Dee’Zの時のやりとりがあったから、遠慮なく「あそこはああした方がいいんじゃないの?」と言えたりしました。そのあとに『After School Swag』をご案内いただいて、1月の『After School Swag Vol.6』を見に行ったんです。
ーー実際にライブを見て、どうでしたか。
服部:見ていて思い出したのが、あるアーティストから伺ったことのある60年代後半~70年代の話で。アーティストやバンドはいつも一緒にいて、楽屋もいつも大部屋で、誰が新しいギターを買ったとかこの弦がいいとか、あいつが上手くなった、良い曲を書いたとか、同世代の横のつながりが良くも悪くも強かったという話なんですけど、今は確かに同世代で切磋琢磨することが少なくなっているなと。テレビの音楽番組も、基本は入れ替わり立ち替わりアーティストが登場するし、ひな壇にいることはあっても、音楽の話をするようなことは少ないですから。でも、60~70年代のヒット曲って、人の交わったところに音楽が根ざしていたからこそ特殊で、長く歌い継がれてるんじゃないかと思うんです。
『After School Swag Vol.6』を見て、灰野さんはそういう空間をプロデュースしたいんだろうなと感じました。そのうえで、手弁当でやっている大変さも伝わってきたので、終わったあとに「灰野さん、これ『手伝ってくれ』って意味ですよね?」と言って、「そういうことです」と言われたので、「じゃあ、わかりました」と『Voice JAM』のプロジェクトがスタートしたんです。共同開催というのは、どこかでトラブルになったり、お見合いも起きるし大変なんですけど、お互い長年いろんな現場を知っているから、その苦労も懸念点もわかっていて「ここはどうしますか?」みたいな話を最初から具体的にできましたね。
ーー灰野さんは事前に、「服部さんと言えば、カラオケ&当て振りが主流となった地上波音楽番組の中で、それこそ生演奏にこだわり、アレンジにこだわる数少ない音楽番組制作人、というイメージ」というコメントを出していました。
灰野:アーティストの競争はもちろんなんですけど、最終的にはライブなので、お客さん目線に立たなきゃいけないんです。でも、ついつい育成的な立場になってしまうこともあって。アーティストの出演順もわざと近いカテゴリを前後にセッティングして競わせたり(笑)。リトグリがVol.1に出た時、歌い終えたmanakaが「あの子たちより上手く歌えなくて悔しい!」と泣いたあとからどんどん成長していったのを見て、このイベントをやる意義を感じたんです(笑)。服部さんは地上波で生バンドにこだわっている方なので、絶対にわかってくれるはず、という思いでお誘いしました。
ーー具体的に『Voice JAM』は『After School Swag』から、どう変わっていくんでしょうか?
灰野:“生バンド”という枠はキープしつつ、逆に視聴者目線で数々のライブを作っている服部さんの力をお借りしながら、構成や曲順、出演順などの細かい部分をドレスアップしていただきます。
服部:アーティストが主体で、競い合うという要素も変えはしないんですけど、番組にもなるので、ドライな視聴者が見ることを想定しなければいけないですよね。出演者を知らない人にどうやって興味を持たせるかを考えないといけないし、MC部分をどうするか、司会を入れるかどうか、なんて悩んだりもして。あとはこれまでよりバンドの人数を増やしました。トランペットとストリングスを増やして、曲によって出入りすることで、聴感的に同じ音が続いて平坦にならないように意識して。出演順に関しては、灰野さんと逆で、次に誰が出てくるのかは読まれないようにしたくて。なるべく構成で刺激を与えられるものにしようと考えたりしています。
ーーエンタメとしての強度をつけることが、服部さんの役割でもあった。
灰野:あと、MCについては服部さんにアーティスト面談をやっていただくことになっています。僕らはそこまでトークに力を入れるなんて意識しなかったので、そういうのもキャリアの浅いうちから経験させないといけないな、と勉強になりました。
服部:別にテレビ的な文法を強要するわけでもないんですけど、トークにもある程度のルールは存在しますし、聴いている、見ている人に伝わりやすいように少しだけディレクションしてあげるという機会なのかもな、と思ったので。
ーー新たな要素としては、島田昌典さん、本間昭光さん、斎藤ネコさん、坂本昌之さんをはじめとする、大御所アレンジャーの方々も参加し、そこに若手のアレンジャーもいるということですが。
服部:基本的に、譜面は全部若手陣に作ってもらいます。若いアーティストと若いミュージシャン、若いアレンジャーでやる、というのが基本的なテーマなので。8人いるんですけど、それぞれが自分の書いた譜面に責任を持って、ボーカリストにディレクションしていける環境を作ろうと。ただ、若い方に任せるうえで、もう少し奥行きが欲しくなるところもあるだろうなと思ったので、ネコさんや島田さん、本間さん、坂本さんにお願いして、添削する“先生”として関わってもらいました。直すところがなければそのまま使いますし、彼らが見るということを伝えておけば若手も意識するでしょうから。4人はそれぞれ素敵な人たちだから「これは言った方がいいのか、よくないのか」と考えながらスーパーバイジングをしてくれるでしょう。超売れっ子のプロデューサー・アレンジャーがいることも大事ですけど、そうして縦の世代の関わりを足していけると、もっと先々に広がっていくだろうなと思ったので。もしかしたら今回の出演者のなかから、参加してくれた若手のアレンジャーに曲をお願いするケースも出てくるかもしれませんから。
ーー若手のなかから4人のような名プロデューサーが生まれるかもしれませんし。どんな方たちが参加するのか気になります。
服部:岸田勇気さん、工藤拓人さん、佐々木貴之さん、佐々木望さん、須藤優さん、吹野クワガタさん、藤井洋さん、山下健吾さんの8人ですね。いずれも20~30代ながら実力のある方々です。
ーーここまでお話を伺っていて、『Voice JAM』はアーティスト・作家・お客さん・スタッフという、イベントに関わる全員の未来に投資しているような試みだなと思いました。裏を返せば、そう思わせる危機感のようなものも持っているからこそ、開催に至ったのかなと感じたのですが。
灰野:オケだけの話ではなくて、「J-POPは歌軽視が多すぎる」というのを最近感じているんです。別に歌至上主義ではないですけど、バランスが悪くなっているとは感じるので、そこを育てるための場所を提供したいなと思ったんですよね。
服部:僕の立場の危機感でいうと、音楽番組ってどうしても均質化しちゃってると思うんですよ。昔って、各番組にハウスバンドがいて、元のレコードの音とは違った演奏をそれぞれの番組で楽しめたんですよ。でも、80年代から打ち込みやアレンジへのこだわりが強くなって、アーティストが自分で楽曲を作ることも多くなったからだと思うんですけど、カラオケが増えていった結果、音楽番組のハウスバンドもなくなってしまった。それは時代の流れで仕方ないと思うんですけど、90年代はトーク主体になって、2000年代は音楽番組自体の数が減ったりもして。レーベルから預かったオケを流して歌うだけだと、どの音楽番組でも聴いている音楽はほとんど一緒になってしまう。どこにも個性を持たせることができないというのは、テレビの作り手として我慢ならなかったんです。
ーーなので、生演奏を始めたんですね。
服部:はい。自分の番組は自分のオリジナルであってほしいし、自分の番組でしか聴けないものを流すんだというプライドを持つべきだと思っているので。とはいえ、元からそんなスキルがあったわけではなくて、徐々に色んな作家先生に教えを乞うて勉強していきました。最初は「生演奏とか勘弁してくださいよ」と言われることも多かったけど、超一流のミュージシャンとアレンジャーを揃えることで、一人ずつ説き伏せていったんです。最初にありがたがってくれたのは演歌の人たちで、そのあとにミュージシャンの顔ぶれを見て、灰野さんを含めた“わかってくれる人”は「こんなメンバー集めたんですか! ぜひ出させてください!」と言ってもらえるようになってきたり。
いまでは多くの方に「服部さんに任せるよ」と言ってもらえるようになりました。それはそれでTBSの音楽番組にとってブランドになっていると思いますし、生音を番組独自のアレンジでやることに対して、結果的にこだわっている人という形で見てもらえるようになりました。あと、50~70年代って、音楽が一番発達した時期じゃないですか。そのあたりでみんなが感動していた楽曲が、打ち込みの時代になってダサくなったかと言われれば全然そうではなくて。一番エネルギーのあった時代の音楽をもうちょっと大事にしたほうがいいんじゃないのと思い、今回のアレンジ発注にあたっても「普遍的なサウンドにしましょう」ということを意識してお願いしました。
ーーここでいう普遍的は、いわゆるJ-POPのスタンダードではなく、60~70年代の音楽を基準にした、世界的な音楽のスタンダードですね。
服部:そうです。これはフルバンドみたいになっちゃうと70年代の歌謡曲みたいに聴こえてしまいがちですが、演奏しているのが平成のミュージシャンなので、ベースもドラムも辛気臭い感じにはならないんですよね。だから普遍的なサウンドを追い求めてもダサくならない。上手いミュージシャンがいれば、デモの音源が生演奏向きじゃなくても、リハで再構築して上手くいくこともあるし、一旦大きく変えてみることも、それがダメなら元に戻すこともできますから。
ーーアーティスト側としては、この『Voice JAM』でどんな挑戦をしたいですか?
MOMOKA:生バンド・生歌でマッシュアップをやろうと思っているんですよ。
當山:コード感が似てる曲があれば、2つ同時に歌ってもマッチする瞬間があって。私一人の声なら絶対できないんですけど、J☆Dee’Zのみんなとならハモれるし、2組でマッシュアップをやろうと計画中なので、楽しみにしていてください。
(取材・文=中村拓海/撮影=林直幸)
■イベント情報
『Sony Music Records×TBS Presents「Voice JAM」』
8月3日(金)
duo MUSIC EXCHANGE
開場18:00/開演19:00
一般¥3,000/学生¥1,500(税込)
チケット:ローチケ(Lコード:72580)
<出演>
Anly、City Chord、J☆Dee'Z、鈴木愛理、當山みれい、やえ、れみふぁ、わたなべちひろ
and more…
■関連リンク
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City Chord Twitter
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