『100』インタビュー
w-inds.が『100』で追求した“ジャンルレスなポップス”「僕らが歩んできた道を表現できると思った」
“音楽の新たな聞かれ方”に対応したサウンド作りも
――では、今回の『100』の中で、みなさんが特に思い入れの深い曲をそれぞれ挙げてもらって、その制作風景についても教えてもらえますか?
慶太:じゃあ、僕は「Temporary」。この曲はトラックも気に入っているし、それにつられて、歌詞も「ひと夏の恋だ」とひらめきました。書きはじめたときに韻の踏み方や歌詞にまつわる状況も浮かんできて――。それがワーッと一気に湧き出てくるような感覚でした。
涼平:溢れ出てきたんだね。……歌詞の石油王。
慶太:なんだよそれ(笑)。
――「Temporary」はオルタナティブなR&Bの要素と、王道のポップスとしての要素が上手く融合した楽曲になっていると思いました。
慶太:この曲では、アンビエントなR&Bをベースにしながらも、日本のポップスで好まれるような旋律や声の響き、歌詞の世界観を入れました。そういう面でも、意識したことがすべて上手くはまった曲ですね。
――オルタナティブなR&Bでは、最近はどんな曲を聴いているんですか?
慶太:たとえばSZAはすごく好きですし、Kehlaniも好きですね。もちろん、色んな曲を聴いていて、若いプロデューサーもたくさんいますけど、その2組が断トツかもしれないです。
涼平:あと、「Temporary」はドロップの前の「コパーン!」というフィルの感じに、魂を持っていかれるような感覚があって、僕はそこが好きですね。
慶太:実はあのフィルを作るのに、めちゃくちゃ時間をかけました。この曲ではあそこのフィルが肝心だと思って、色んな音を試したし、「いや、この音じゃドロップが入ってこない」とか、色んなことを考えてみたんですよ。
龍一:慶太はそういうディテールにすごくこだわるよね。「Dirty Talk」でも、TVサイズのものと、バンドアレンジのものも含めて、同じ曲でも3パターンあるし。
慶太:ミュージシャンがプレイしたそのときのいいものを使うとか、そういうことを考えています。でも結局は、こだわり過ぎるよりも、耳で聴いてどれだけ入り込めるかを大切にしていますね。だから、曲にとって邪魔だと思う要素はすぐに捨てるし……。
龍一:すぐに変える。曲のアレンジだけではなくて、最近はライブでの出音についても、ライブ中にこまめに調整しているんです。なので、慶太がステージにいる時間があまりない(笑)。ワンフレーズ歌い終わったらそのまま階段を降りて、ずーっと慶太が帰ってこない。
涼平:それぐらい、音を出したり、引いたり、色んなことをこだわっているんです。
慶太:そういえば、今回のアルバムは、大音量で聴くと(低音の振動によって)家が揺れるらしいですよ(笑)。
龍一:まだマスタリング済みのものは僕らにも届いていないんですけど(取材時)、作業をしてくれた人が家で聴いたところ、「低音がやばい」らしくて。(冗談めかして)このアルバムが家を建てるときの強度を測る基準になるかもしれないですよ。「この家は、w-inds.の『100』を鳴らしても揺れません!」って(笑)。
慶太:「えっ、すごい。あの『100』を鳴らしても、揺れないんですか?」ってね(笑)。
――製品版では低音がかなり効いている、と(笑)。お茶の間などではローをカットすることも多いJ-POPのつくりとして挑戦的だと思いますし、とても楽しみですね。
龍一:「Sugar」にしても、個人的にはバラードであんなに低音が効いている曲を聴いたのは初めてかもしれないです。
――涼平さんの思い入れの深い曲というと?
涼平:僕は「Stay Gold」。この曲は中毒性がすごいと思うんですよ。聴いているとずっと頭に残る。それに、歌詞に慶太の人生論が出ているようにも感じられる。それは自分の考え方、生き方とはまた違うから、「なるほどね」と思うところが多いし、色んな人に置き換えて考えることができる曲だと思いますね。
龍一:自分の場合は高いパートがあって、そこが大変でした。あんなに大声を出したのは久しぶりだと思うし、これほど張った声で高いキーまで引っ張っていくのはなかなかなかったと思います。でも、それが歌詞のメッセージの強さとも合っていると思うんですよ。言葉によって伝えたいニュアンスを考えることは、3人ともかなり気を遣っているので。
――では、そんな龍一さんが今回のアルバムの中で思い入れの深い曲を教えてください。
龍一:(悩みながら)結構、日によって思うところが違ったりはするんですけど、まだ話していない曲という意味で、w-inds.初の全面英詞曲のひとつ、「We Gotta Go」にします。同じく英詞の「Celebration」もいい曲ですけど、「We Gotta Go」はラップパートもあって、3人のキャラクターがよく出ていると思うんですよ。3人それぞれの特徴が曲の中にいくつも出てきて、この1曲でグループの魅力を表現する面白さがあるというか。静かなシンセのトラックからはじまって、どんどん最後に向けて盛り上がっていく感じと、歌詞の中で描かれている恋の盛り上がりがリンクしているように感じられるところも好きですね。
涼平:メンバーそれぞれの色が、より出ている楽曲だと思います。
――「英詞で全部やってみよう」というアイデアはどんな風に生まれたんですか?
慶太:Spotifyで自分たちの曲が再生されている地域を見ると、日本の次に再生回数が多いのがアメリカなんですよ。それもあって、英詞の曲にもアプローチしようと思いました。もしかしたら、向こうの人は逆に「日本語の曲が聴きたいんだよ」って思うかもしれないですけどね(笑)。「私、あなたたちの曲で日本語を勉強してるんだけど!」って。
龍一:そういう人には「Temporary」を聴いてもらいましょう(笑)。
慶太:この曲は「音数を少なくしよう」ということを考えていました。最近の海外の曲は音数が少ないですけど、それってSpotifyに入れたときに音圧が下がっても、音数が多い曲より音量が保たれるかららしいんですよ。Spotify独自のラウドネスの規制も関係して、世界の音楽シーンで音数が少なくなっているということを知って、「それを自分たちの曲でやってみたら、どんな鳴りになるだろう?」と思いながら作りました。やっぱり、本番で勉強しないと、勉強にならないと思うんですよね。「これは練習」という気持ちで曲を作っても得るものは少ないと思うし、ライブでも、本番で試した方が得るものは大きいと思うので。