乃木坂46とけやき坂46の舞台公演に感じた、坂道シリーズ“演劇路線”の新展開

 4~5月にかけて、乃木坂46による『星の王女さま』(東京・天王洲銀河劇場)、けやき坂46による『あゆみ』(東京・AiiA 2.5 Theater Tokyo)と、“坂道シリーズ”による演劇公演が相次いで催された。『星の王女さま』は乃木坂46の3期生が出演、一方の『あゆみ』は欅坂46のうちけやき坂46が出演と、いずれも各グループの若手メンバーが舞台経験を積む場となった。

 この二つの公演からは、乃木坂46と欅坂46/けやき坂46がそれぞれに培ってきた志向の違いがはからずも見えてくる。いわばそれは、「個」としての成長を模索する乃木坂46と、「群」としての表現を武器にしてきた欅坂46/けやき坂46という対比である。

 畑雅文脚本・演出の『星の王女さま』には、乃木坂46の3期生メンバーのうち20thシングル表題曲「シンクロニシティ」の選抜メンバー4名を除く8名が出演した。3期生たちは昨年、『3人のプリンシパル』や『見殺し姫』といった舞台公演を通じて、乃木坂46が育んできた舞台演劇への志向を受け継ぐ、次代メンバーとしての役割を果たした。

 『星の王女さま』に出演した8名は今回、1・2期生と合流しての活動も本格的になる一方で、昨年から3期生がひとつのチームのように機能しつつ担ってきた路線をさらに継続させたことになる。

 物語はアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ『星の王子さま』をモチーフにしつつ、宇宙飛行士のリンドバーグ(梅澤美波)と王女さま(伊藤理々杏)が惑星巡りの旅をしながら進行する。メンバー演じる各惑星の登場人物がそれぞれ特徴的な属性をもち、一人一人がその属性にちなんだ振る舞いを劇中で見せてゆく点は、昨年3期生個々人に当て書きされた舞台『見殺し姫』とも通じる。

 今回の『星の王女さま』についていえば、これまでの乃木坂46主導の舞台作品の中でも、個々のキャラクター造形にスポットを当てる仕方としてはシンプルなスタイルだったといえるだろう。それだけに、乃木坂46の別働隊的にチームとしての力を伸ばしてきた3期生それぞれが、個々人としていかに成長を見せ、個性を高められるかがさしあたっての鍵となる。

 たとえば、旅を先導していく宇宙飛行士リンドバーグを演じた梅澤が、主役然とした佇まいを身につけていたことは、この直後に相次いで予定されている梅澤の舞台出演を見据えるうえでも大きな収穫といえる。あるいは向井葉月が、「オタク」的なキャラクターのどれみ役を適切に演じたことなども明るい展望をみせるものだった。バラエティ番組ではトリックスター的にインパクトを残す向井だが、今作では一見コミカルでありながらも、コミュニケーションにやや難のある人物としての立ち居振る舞いを細やかに描写し、役を成立させていた。

 このように3期生個々人が演者として発展してゆくことは、キャリア豊富な1・2期生と同列に並んでの仕事が増えていく今後にとって喫緊の課題でもある。『星の王女さま』のキャストの中では伊藤理々杏と梅澤が6月から始まる乃木坂46版ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』に1・2期生とともに出演、さらに梅澤は7月に『七つの大罪 The STAGE』で外部舞台出演も予定されている。梅澤にとっては、個人としてのプレゼンスを高める重要な契機だ。

 もとより、個人として存在感の強いメンバーを数多く育成できたことが、今日の乃木坂46隆盛を支える大きなアドバンテージである。3期生もまた、キャリア7年目を迎える先輩メンバーに伍してゆくため、本格的に個々の存在感を高める季節を迎えた。

関連記事