『高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけど“遂に”メジャーデビュー。』ツアーファイナルレポ
Creepy Nuts、対バンツアーファイナルに見た“清々しい闘争本能”
自身たちをメインに置きつつも、サンボマスターやフレンズ、四星球など、主にバンドサイドを招聘しての対バンツアーとして進行した、Creepy Nutsの全国ツアー『高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけど“遂に”メジャーデビュー。』。ツアーの最終日が、3月21日に渋谷O-EASTにてSANABAGUN.を迎えて行われた。
いまさらその例えは年寄りっぽい……と言われてしまいそうだが、この最終日の対バンは、今から16年前に行われた、『PRIDE.21』においての高山善廣 VS ドン・フライ戦のぶん殴り合戦のような感触を覚えた。
当然ながらこの対バンがバイオレンスな流れではあった訳ではないし、勿論流血もない。ここで言いたいのは、この日の両者のライブが「決闘」であったということだ。お互いに持てる力を完全に出し切り、ぶつけ合い、相手に負けんとする。しかし、その拳には、愛情とリスペクトの火が灯され、だからこそお互いに一歩も引かずに全力でぶつかり合う事ができる。そういった、清々しい闘争本能が、この対バンには溢れていた。
まずこの日の先行はSANABAGUN.。黒で統一した出で立ちで登場し「俺たちがレペゼンゆとり教育! SANABAGUN.だ味わえ!」という宣言の元、「SANABAGUN. Theme」、「M・S」でライブはスタート。ラッパーの岩間俊樹が「クリーピーのファイナルだろ! 上がっていけよ!」と観客を煽り、粘着性の高いジャズ・ファンクサウンドで観客を刺激する。
その意味では、縦ノリ曲がライブの中心になっている現在のCreepy Nutsと、ジャズやファンクを基調にするSANABAGUN.という、ヒップホップという起点は同じながら、その表現の進め方は実はかなり異なる二組。そして、SANABAGUN.の対バンが発表になる前からソールドアウトになっていた本公演は、彼らにとってはアウェイであるといえるだろう。しかし「8 manz」などの楽曲を通し、無理矢理な煽りをしなくとも、楽曲のテンションとパフォーマンスのクオリティで、会場を自分たちのカラーに塗り替えてしまうような勢いは、会場がうねるほどの観客の手の上がり具合からも感じさせられた。また、岩間俊樹のラッパーとしてのアピールやタフさ、高岩遼のボーカリストとしての力量と完全にどうかしてる(褒めてる)シアトリカルなパフォーマンス性、そしてバンドのグルーヴィーなセッション感といったカラフルさは、SANABAGUN.ならではの魅力だろう。ギターの隅垣元佐もラップで参加し、3MC体制となる「デパ地下」の披露も、1MCのCreepy Nutsでは出せない部分を表現したアピールともいえる。
そして新曲となる「FLASH!」は、サルソウルディスコを感じさせる軽やかでポップな一曲。基本的にはヘビーなサウンドが多かったSANABAGUN.の中で、欠けていたポイントが埋まるような楽曲であり、そのまま同じように疾走感のある“人間”でライブは終了。終わった後の会場のざわめきが、そのライブの充実度を物語る。
そういった挑戦状のようなエールを贈られたCreepy Nuts。1MC&1DJのユニットでは、DJブースがやけに後ろにある、なにか主従関係のようにも見えてしまうセッティングが時々散見されるが、Creepy Nutsのセッティングは、DJブースもMCと同じステージ前線に置かれ、彼らの考える1MC&1DJのスタイル、Creepy Nutsのスタイルを、見た目としても表すようなセッティングとなっていた。
「メジャーデビュー指南」でライブはスタート。R-指定はリリックの中にSANABAGUN.へのメッセージを折り込みつつ、「サナバはスゴいリリシスト(岩間)とロマンチスト(高岩)がいる。でも今日一番ラップが上手いのは俺や!」と宣言し、ヒップホップ的なボースティングで、Creepy Nutsの存在性をアピールする。ロッキッシュな「爆ぜろ!!」では、DJ松永もスクラッチをパフォーマンスに折り込み、会場のテンションを一気に上げていく……のだが、続くMCではなぜか、日本のAVと洋物ポルノの違いを特に結論の無いままダラダラと話し出す。なぜ格好つけきれないのか……。R-指定がその会場の雰囲気に気づいて「あ、めっちゃひいてるわ」と言っていたが……当然だろ!
そしてその話を「この話の根っこにある意味を話すと、お客さんたちが、こんな風に思って思って来れたら嬉しい。“みんな違ってみんな良かったな”って」と超強引に話を進め、気を取り直して、「みんなちがって、みんないい。」、そして「中学12年生」と、Creepy Nutsのクラシックを展開。その流れから新曲となる「かいこ」を披露。ヒップホップや音楽シーンのみならず、目まぐるしく変わるブームや、流行の椅子取りゲームを形にしたこの曲は、彼らの置かれている現状を自己認識したような楽曲といえるだろう。
会場から集めたお題を織り込んだフリースタイルを展開するR-指定の得意技「聖徳太子フリースタイル」は、この日は〈えんぴつ/なんばグランド花月/就活/ベンチプレス/福沢諭吉/2人はプリキュア/新婚〉と7つのお題で展開させ、見事に成功。DJ松永もターンテーブル・ルーティンを披露し、お互いに根本的なスキルの異常な高さを提示する。その勢いのまま「合法的に気持ちよくなって下さい!」と「合法的トビ方ノススメ」で会場をさらに高温化させた。
その勢いをやや冷ますように、「ヒップホップやラップで、この世の中に一矢向こうと思ってた。でもあの日に羨んでた社会や同級生から見れば、俺らはどんだけラップが、DJが上手くなっても、社会的には足踏みしてるだけ。でも、そんな自分らが何者なのかを、初心に帰って振り返った時に出来た曲です」というアナウンスに続けて、「朝焼け」、「未来予想図」と展開し、「自分が何者なのか問い直して、前に進んできた。そしてメジャーデビューを通して、さらに自分に問い直した。ツアーの最後の曲はこれにします」という言葉と共に、「だがそれでいい」で、この展開に「決着」をつけ、ライブは一旦終了する。
アンコールでは、「メジャーデビューアルバム『クリープ・ショー』は、クリーピーの活動とは何なのかを分かってもらえる内容になってる。そしてそこには、自分を卑下してしまう俺らが、なんでヒップホップを選んだのか、それを表現する、俺らの原点みたいな曲も入れました』という宣言のもと、「トレンチコートマフィア」を披露。クリーピーのネガティビティや屈折、痛みが剥き出しになったこの曲に続けて、回答編といえる新曲「スポットライト」でライブを締めくくった。そういったテーマ性を超えても、ブレイクビーツで疾走させるこの曲は、サウンド的にもCreepy Nutsのミッシング・ポイントを埋める曲だろう。
「フルバンド」と「1MC&1DJ」、「バンドサウンド」と「トラック」、「全員セックスが上手そうなグループ(R−指定曰く)」と「メジャーデビューアルバムに風俗メタファーを込めたリリックを入れてしまうラッパーとヴァージニティを死守するDJ」という、非常に対象的な存在である二組。しかし、その二組が互いにエールを送り、ケツを叩き、称え、刺激し合う、そんな幸福なライブであり、これからの音楽シーンの明るさを象徴するような一夜だった。
(取材・文=高木 “JET” 晋一郎/撮影=Hiroya Brian)
■リリース情報
1stフルアルバム『クリープ・ショー』
発売:4月11日(水)
価格:¥3,000+税
<収録曲>
M1.手練手管
M2.ぬえの鳴く夜は ※リード曲
M3.助演男優賞
M4.紙様
M5.Stray Dogs
M6.新・合法的トビ方ノススメ
M7.俺から退屈を奪わないでくれ
M8.かいこ
M9.トレンチコートマフィア
M10.だがそれでいい
M11.月に遠吠え
M12.スポットライト
■ライブ情報
『Creepy Nuts ワンマンツアー「クリープ・ショー 2018」』
6月8日(金) OPEN18:00 / START 19:00
会場:神奈川 川崎クラブチッタ
info : DISKGARAGE 050-5533-0888
6月10日(日)OPEN17:00 / START 18:00
会場:兵庫 神戸Harbor Studio
info:GREENS 06-6882-1224
6月14日(水)OPEN18:30 / START 19:00
会場:茨城 水戸ライトハウス
info:エイティーフィールド 03-5712-5227
6月15日(木)OPEN18:30 / START 19:00
会場:群馬 高崎club FLEEZ
info:エイティーフィールド 03-5712-5227
6月27日(水)OPEN18:00 / START 19:00
会場:岡山 YEBISU YA PRO OPEN18:00/START 19:00
info:夢番地岡山 086-231-3531
6月29日(金)OPEN18:30/START 19:00
会場:熊本 熊本B.9 V2
info : BEA 092-712-4221
6月30日(土)OPEN18:00/START 18:30
会場:長崎 長崎DRUM Be-7
info : BEA 092-712-4221
7月5日(木)OPEN18:15 / START 19:00
会場:静岡 浜松窓枠
info:JAILHOUSE 052-936-6041
7月6日(金)OPEN18:00 / START 18:30
会場:京都 磔磔
info:GREENS 06-6882-1224
チケット価格:前売り¥3,500円(税込/ドリンク代別)※全公演共通
チケット一般発売日:4月14日(土)10:00~
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■関連リンク
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