Haimがシーンに与えた影響の大きさとは? 高橋芳朗が選ぶ“欧米フィメール・ポップス”ベスト10

 ここでちょっと補足しておくと、Haimがデビューする前の2010年、実はテイラー・スウィフトが第52回グラミー賞の授賞式でスティーヴィー・ニックスと共にFleetwood Macの「Rhiannon」をパフォームしています。この年にはスカイ・フェレイラによるスティーヴィー・ニックス「Stand Back」のカバー音源が出回っていることも考えると、案外このへんがのちのFleetwood Mac再評価の布石になっているところもあるのかもしれません。テイラーとHaimの緊密な関係については先ほど触れた通りですし、スカイ・フェレーラのデビューアルバム『Night Time, My Time』(2013年)の全曲のプロデュースを手掛けていたアリエル・レヒトシェイドはHaim『Days Are Gone』のメインプロデューサーでもある事実は無視できないと思います。

 こうした状況のなかで今年3月、Fleetwood Macの1987年作『Tango In The Night』がデラックスエディションとして再リリースされたのは実にタイムリーでした。彼らのアルバムでどれか一枚となったら、定石通りにいけば当然ロードも激賞している『Rumours』ということになるのかもしれませんが、2017年の気分でいけば断然この『Tango In The Night』がしっくりくるんじゃないかと思います。セレーナ・ゴメスがカイゴとのタッグでつくった「It Ain't Me」のメロディーラインなどは「Little Lies」を参照しているような節がありますし、ここまで名前を挙げてきたようなアーティストがいかにこの時期のFleetwood Mac/スティーヴィー・ニックスに影響を受けているか、きっと発見も多いはずです。

 そしてこれもまた絶妙なタイミングなのですが、2018年の「MusiCares Person of the Year」(グラミー賞を主催するナショナルアカデミーオブレコーディングアーツアンドサイエンスがミュージシャンの芸術的功績と慈善活動に対する献身性を讃えて毎年授与している賞)にはなんとFleetwood Macが選ばれています。それに応じて、第60回グラミー賞授賞式直前の1月26日にはニューヨークのラジオシティミュージックホールで受賞を記念したトリビュートコンサートの開催が決定。ゲストにはハリー・スタイルズ(彼は9月のBBC Radio 1『Live Lounge』出演時に「The Chain」をカバーしていました)やジョン・レジェンドのほかHaimとロードも名を連ねていたりと、Fleetwood Mac、ここでもうひと盛り上がりくる可能性は大いにあります。

 最後にもうひとつ付け加えておくと、一連の女性アーティストにおけるFleetwood Mac/スティーヴィー・ニックスの影響は音楽面だけでなくファッションにも及んでいます。アメリカの『Fuse.tv』は2016年10月に「20 Spellbinding Singers Who Might Be Witches」と題してゴスファッションに身を包んだ人気シンガーのスタイリングを紹介していましたが(ロードやセレーナ・ゴメスも当たり前のように選ばれています)、記事中でそのパイオニアとして位置づけられていたのはもちろんスティーヴィー・ニックス。このなかでも取り上げられているホールジーは自身のTwitterに「今日のファッションはスティーヴィー・ニックス風にきめてみたよ!」なんてコメントと共にセルフィーをアップしていたほどで、いまFleetwood Mac/スティーヴィー・ニックスはあらゆる点においてクールな存在といえるのかもしれません。

■高橋芳朗
1969年生まれ。東京都港区出身。ヒップホップ誌『blast』の編集を経て、2002年からフリーの音楽ジャーナリストに。Eminem、JAY-Z、カニエ・ウェスト、Beastie Boysらのオフィシャル取材の傍ら、マイケル・ジャクソンや星野源などライナーノーツも多数執筆。共著に『ブラスト公論 誰もが豪邸に住みたがってるわけじゃない』や 『R&B馬鹿リリック大行進~本当はウットリできない海外R&B歌詞の世界~』など。2011年からは活動の場をラジオに広げ、『高橋芳朗 HAPPY SAD』『高橋芳朗 星影JUKEBOX』『ザ・トップ5』(すべてTBSラジオ)などでパーソナリティーを担当。現在はTBSラジオの昼ワイド『ジェーン・スー 生活は踊る』の選曲も手掛けている。

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