ハロプロの未来を占う? 20周年オーディション密着番組『少女たちの決断』に見る新たな試み
現在、Abema TVにて、ハロー!プロジェクト新メンバーオーディションに密着した番組『少女たちの決断〜密着!!ハロー!プロジェクト20周年オーディション』が放映されている。今回のオーディションは、モーニング娘。やアンジュルムなどグループ別で募集されていたこれまでの形式とは異なり、ハロプロ全体での募集。合格者がどこのグループに所属するかまで含めたオーディションになるという触れ込みだった。
元々モーニング娘。は、テレビ東京系列のオーディション番組『ASAYAN』で放送された「シャ乱Q女性ロックボーカリストオーディション」から生まれたグループ。その伝統を受け継いで、2010年のモーニング娘。9期メンバーオーディションまで、ハロプロではオーディションの密着映像が公開されてきた。しかし、それ以降の7年間は、合格者発表後にオーディション時の映像が披露されることこそあったものの、合格者発表前に密着映像を公開する形式は取られなかった。つまり、この『少女たちの決断』は、ハロプロにとって20周年を目前に控えた原点回帰的な番組とも言えるだろう。
この7年間でハロプロ内に起こった大きな変化の一つに、研修生制度が担う役割の増加がある。現在のハロプロを構成する49名のうち、研修生を経ずにデビューしたメンバーは生田衣梨奈・飯窪春菜・石田亜佑美・佐藤優樹(モーニング娘。’17)、森戸知沙希(モーニング娘。’17とカントリーガールズを兼任)、中西香菜・上國料萌衣(アンジュルム)、宮崎由加(Juice=Juice)、小関舞(カントリーガールズ)の9名のみ(活動休止中のメンバーは除く)。その他のメンバーは、期間の長短はあるものの、全員ハロプロ研修生としての活動を経て正規メンバーへと昇格している。
ハロプロ研修生は、先輩グループのバックダンサーとしてツアーに帯同するほか、『Hello! Project 研修生発表会』として定期的に研修の成果を見せるイベントを開催。2013年から毎年恒例となっている『春の公開実力診断テスト』は、研修生一人ひとりがソロで自分の選んだ楽曲をセルフプロデュースして歌う人気イベントで、中野サンプラザという大会場で行われている。その中で、正規メンバーとも比肩する人気を博す研修生も少なくない。2015年には、つんく♂のプロデュースの下でハロプロ研修生としてのアルバム『① Let's say “Hello!”』も発表されている。
2010年以前は、メンバーそれぞれの人となりやスキルに思い入れ・期待を持たせる手段として、オーディションの密着が大きな役割を担っていた。その役割を現在は研修生制度が請け負っているとも言える。しかし、メンバーの入れ替わりが激しく、ブログ、ラジオ、番組出演といった露出の場が極端に限られている中で、研修生の動向をつぶさに追いかけるのも難しい。興味を持つきっかけとなる間口が極端に限られてしまっているのが現状ではあるだろう。そこで行われたのが、今回の「ハロー!プロジェクト20周年オーディション」だった。
現在♯7エピソードまで公開されている『少女たちの決断』では、最終候補者8名による最終審査が行われ、結果は合格者なし。各候補者にはハロプロ研修生入りの選択肢が提案され、研修生に入るかどうかの決断を追う段階へと進んでいる。この「合格者なし」という結果に、結局研修生を集めるためのオーディションだったのではないかという声があがるのは致し方ないだろう。特に、研修生の一岡伶奈をリーダーにした新グループ設立が発表されてから半年経つにも関わらず、全く新しい情報が更新されない中での結果だけに、事務所の方針に疑問を持つファンがいるのも無理はない。
ただ、一方で、ハロプロがアイドルシーンきっての老舗として、パフォーマンスに特化した側面を強く打ち出していくにつれ、メンバーに求められるスキルが年々高くなってきているのも事実だ。オーディションの密着によって個々人の個性と出発点を紹介し、研修生としての活動を通じて成長を見せることで、時間をかけて正規メンバーへと至る物語性を形作っていく。そういった道筋が、ハロー!プロジェクト20周年以降の主流となっていくのかもしれない。
原点回帰的な体裁を取ったオーディション番組の放映によって、ハロプロの伝統的な側面と、研修生が重用される今の在り方を繋げて見せていく。『少女たちの決断〜密着!!ハロー!プロジェクト20周年オーディション』は、そのような試みにもなっている。それがハロー!プロジェクトの未来に奏功するか否かは、今後の成り行き次第だ。
■青山晃大
1983年生まれ、三重県津市出身。フリーランスの音楽ライター。「ザ・サイン・マガジン・ドットコム」「Qetic」「CROSSBEAT」他で執筆しています。