川谷絵音手がける『ぼくは麻理のなか』劇伴の特徴は? “選曲のユニークさ”から考える

劇伴の考察③ 「川谷絵音のこれまでの作品と本作劇伴の共通点」

 最後に、川谷絵音がメンバーとして所属するindigo la End、ゲスの極み乙女。のサウンドと本作の劇伴の音楽面での共通点を挙げておきたい。

 ポイントは「鍵盤楽器」と「エフェクトの扱い」である。indigo la End、ゲスの極み乙女。の楽曲では実に多くの楽曲で鍵盤楽器が印象的に使われている。中には、鍵盤楽器が主役と言えるほどその役割に比重が置かれている楽曲、さらには鍵盤楽器に各種エフェクト加工を施したサウンドもある。

 ポップミュージックにおける鍵盤楽器としては、アコースティックピアノが主であった時代から、1950年代にギター同様に電気化、そしてのちに電子化され、またエフェクト加工も定番となり現在に至る。

 『ぼくは麻理のなか』では、数曲を除いてほとんどの劇伴で鍵盤楽器が使われている。サウンドとしては、アコースティックピアノか、それに近いサウンドに加工されたものが大部分を占める(中には、電気楽器、電子楽器ととれるサウンドもある)。そして、これらが、バンドのサウンドとの共通点として挙げた「エフェクトの扱い」を受けて楽曲を構成している。具体的には、ディレイをかけたピアノ系の音の使用により緊張感を表現している楽曲(吉崎麻理が小森功と共に、入れ替わってしまった現場を散策する第3話のシーン等)、加えて、ピアノ系の音をシンセサイザーのパディングなど他のノン・アコースティックな要素と組み合わせることにより、全体として更なるエフェクト効果を演出した楽曲(上記「ストーカー行為」をしている際の劇伴等)など、そのバリエーションは多岐にわたる。

 バンドの楽曲と劇伴では同じ音楽であってもその役割は異なるため、作家自身による「鍵盤楽器」と「エフェクト」の捉え方は異なっていて当然ではある。しかし、これらのように共通点も見えてくるとそのアーティストや作家自身の別の一面が垣間見えて興味深い。

 川谷絵音が手がける劇伴において特徴的なのは、選曲のユニークさである。連続もののテレビドラマの場合は映像自体が出来上がる前に劇伴を完成させているケースが多い。フェードアウトの箇所の多さから考えて本作も例外ではないだろう。よって、すでにある楽曲自体をどのように映像に当てていくかという部分が音楽の生かし方を左右する。その点で、選曲によってユニークさが演出されていることも、サウンドと同様に注目すべきポイントとなっている。

■タカノユウヤ
作曲家、編曲家。東京音楽大学卒業。
「映像音楽」「広告音楽」の作曲におけるプロフェッショナル。
これまでに様々な作品に携わるほか、各種メディアでも特集が組まれる。
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