iriが体現する、新たなソウルディーヴァの形 キャリア初ワンマンで露わになった本質的な魅力とは

 昨年デビューアルバム『Groove it』をリリースし、若手アーティストの中でも屈指の注目を集めているシンガーソングライター、iri。デビュー1周年を記念して11月17日に渋谷WWW Xで行なわれた彼女のキャリア初となるワンマンライブ『iri One Man Live 2017』は、モダンR&Bやヒップホップ、最新のビートミュージック、たおやかな弾き語りまでを自由自在に横断する彼女の唯一無二のグルーヴが会場を覆う至福の瞬間だった。

 iriの最大の特徴は、気鋭のアレンジャーとともに作り上げる楽曲の素晴らしさと、歌からラップまで多彩なスタイルを持ちながらもひとつひとつの能力が極めて高いボーカリストとしての稀有な存在感にある。そのため、ハンドマイクを手にアリシア・キーズを髣髴とさせるスモーキーでソウルフルな歌声を披露しても、ヒップホップ・ビートに乗ってラップを披露しても、ギターを弾き語りながらアコースティックでしっとりと歌い上げても、そのどれもが観客を魅了してしまう。たとえば、9月末の『SWEET LOVE SHOWER』で「MORNING ACOUSTIC」に出演した際には、朝の山中湖をバックにアコースティックな演奏を中心とした柔らかなグルーヴで観客を魅了していたことも記憶に新しい。この日の初ワンマンでも、ドラマーとDJを従えたお馴染みの編成でライブをスタート。冒頭の「無理相反」でダンサー2人を従えて登場すると、キレッキレのダンスにiriの歌声が重なって会場が一気にモダンな雰囲気で覆われていく。続く「breaking dawn」では早速ラップを披露。「Wandering」でも歌とラップが混在したスタイルでステージを広く使って華やかな雰囲気が生まれていった。アウトロからそのまま「Never end」に繋ぐと、次は一転ギターを持って「ナイトグルーヴ」へ。楽曲ごとに多彩なグルーヴで観客を魅了する雰囲気は、やはり彼女ならではだ。

 とはいえこの日、その魅力をさらに倍増させていたのが、DJのように各曲を繋げることでライブに大きな流れを生み出していく全体の構成だろう。中でもハイライトのひとつになっていたのは、「ナイトグルーヴ」のアウトロでトライバルなビートが鳴り続ける中、徐々にボーカルサンプルが割り込んできてはじまった「半疑じゃない」。ここではぐんぐん高揚する「ナイトグルーヴ」のアウトロが徐々に「半疑じゃない」へと変わり、そこにiriの声が重なった瞬間にフロアから大歓声が巻き起こる。続いて「Watashi」ではその熱気を引き継ぐように四つ打ちのハウス・ビートでフロアの熱気がさらに上昇。そのビートを引き継ぐ形でそのまま「blue hour」に移行すると、会場が一気にダンスフロアと化していく様子も圧巻だった。そもそもiriの楽曲にはケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)やmabanua、YOSA(OMAKE CLUB)、Yaffle(Tokyo Recordings)など気鋭のトラックメイカーたちがアレンジャーとして多数参加している。そうした彼女の楽曲が、クラブミュージックとしても高い機能性を持っていることを改めて教えてくれるような瞬間だった。

 また、この日は最新作『life ep』からの楽曲も多数披露。まずは中盤に「for life」を披露すると、続く「Telephone feat. 5lack」ではなんと会場に5lackが飛び入り。彼が去り際に観客に向けて「ヤバイでしょ、この人。これからに期待しちゃうよね」と告げていたのも、ジャンルを問わず様々なアーティストからも厚い支持を受けるiriならではだ。以降はふたたびダンサーが登場した「Fancy City」や、サビのボーカルドロップが特徴的な「your answer」を経て、ギターを手に取りふたたび最新EPから「会いたいわ」へ。ここでは〈会いたいわ/今すぐ会いたいわ〉という歌い出しから切ない感情が一気に溢れ出し、彼女のシンガーソングライターとしての本質的な魅力が露わになっていく。以降は「fruits」を挟んで、本編最後の「rhythm」へ。ここでグルーヴが最高潮に達し、ダンサーも登場してライブは大団円を迎えた。アンコールは「フェイバリット女子」を経て、「最後に私の大好きな曲を一曲歌って、バイバイしたいと思います」と告げて「brother」でラスト。〈会いたいけど/会えないあなた〉と歌われるこの曲は、幼い頃に亡くなった兄に捧げられた楽曲であり、ソウルから最新のビートまであらゆる要素をモダンなグルーヴに変える彼女の音楽の核にあるのが、実はとてもストレートなソウルや詩情であることを伝えるかのようだった。

 現在音楽シーンでは、DAOKOや向井太一、ぼくのりりっくのぼうよみといったポップミュージックやヒップホップ/R&B、クラブミュージックの境界線を自由に横断する若手アーティストがそれぞれに活躍し、音楽の可能性を広げている。だとするならiriは、その中でも最もブラックミュージック/R&Bからの影響色濃い歌声と最新のビートを融合させた、新しいソウルディーヴァの形を見せてくれているのではないだろうか。2018年は自身初のワンマンツアーも決定。東京公演はさらにキャパを広げて恵比寿リキッドルームでのステージが予定されている。ここからiriのポップワールドがどんな風に広がっていくのか。その無限の可能性に思いを馳せずにはいられない、素晴らしいステージだった。

(文=杉山仁)

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