大原櫻子が見せた、カバーとアコースティックによる新たな挑戦 『4th TOUR』Zepp Tokyoレポ

 大原櫻子が11月14日に、Zepp Tokyoにて『大原櫻子 4th TOUR 2017 AUTUMN ~ACCECHERRY BOX~』のツアーファイナルを迎えた。

 昨年、日本武道館2DAYSで幕を閉じた3rd TOURからおよそ1年ぶりとなる今回のツアーは、全国のZepp4カ所を巡るもの。追加公演として行われた本公演は、WOWOWでの生中継に加え、全国の映画館にてライブ・ビューイングが行われた。Zeppの規模には収まらない彼女の人気を証明している。

 大原は、ツアー毎に“新しい挑戦”を自身に課し、ライブに挑んでいる。昨年のツアーでは新たに「ダンス」のパフォーマンスを取り入れた。ダンスコーナー「DANCE ! CARVIVAL」から、ダンスチューン「Dear My Dream」へとキレのあるステップ、妖艶さも醸し出すその雰囲気には新たな彼女の顔を見た。そして、今回のツアーで大原が取り入れた新たな挑戦は「カバー」と「アコースティック」。『ひらり』『マイ フェイバリット ジュエル』という2枚のシングル、初の主演舞台『Little Voice』を経て、“大原櫻子”という人物はまた、より多彩な色を纏っていた。

 大原がカバーとして披露したのは、ONE OK ROCK「Wherever you are」、中島みゆき「糸」の2曲。「#さくエスト」としてTwitterでファンから募ったリクエストの数と思いが、今回の選曲に反映されているという。2曲のカバーを聞いて驚いたのが、それぞれの曲にはっきりと別の声色を乗せて披露していたことだ。「みなさんにとっての恋人だったり、家族だったり、友人だったり、心の底から大切にできる人を思い浮かべながら聞いていただきたい」と前置きをして始まった「Wherever you are」は、英詞と日本詞が交互に織り交ざったミディアムバラード。昨年の武道館を観た際、バキバキに歌い踊る大原の姿に加え、その歌唱力にも圧倒されたのを思い出す。彼女の「明るく、はつらつとした女の子」という印象が強ければ強いほど、そのギャップに驚かされることだろう。「Wherever you are」は、クライマックスとなる大サビに向けて徐々に熱を帯びていく楽曲。特に、Dメロ終わり、大サビのラストに見られる抑揚のつけ方、ブレスの長さは大原の声質を存分に活かすことのできる、選曲の妙すら感じたほどだ。大原の力強くどこまでも続くロングトーン、そしてバンドマスターとして楽曲の終わりを告げる彼女の拳が高く掲げられると、会場には惜しみない拍手と歓声が鳴り響いていた。

 もう1曲のカバーは「糸」。中島みゆきの、広い世代に愛され多くのアーティストがカバーしてきた楽曲である。この「糸」は、「Wherever you are」とは大きく異なる歌い方により披露された。例えば、ライブのオープニングを飾り、紗幕にパーカーを着たもう一人の“大原櫻子”を投影させた「ALIVE」、大サビの歌詞<間違えじゃない>をフェイクで伸ばすアレンジを加えた「サイン」は、「Wherever you are」のような声の張り上げが特徴的だ。昨年の武道館で聞き、驚かされた「サイン」を軽々と凌駕していった今回は、主演舞台『Little Voice』の成果が特に現れていた部分でもある。「(ボイストレーニングを)やり切ったことで歌の引き出しが増えたと思う」とインタビューで答えていることからも明らかだ。同じインタビューで大原は「マイ フェイバリット ジュエル」のレコーディング時、楽曲提供者の秦 基博から「流れるように優しく歌うことを伝授」してもらったことを話している。まさに「糸」では、その“流れるように優しく”歌う大原の姿があった。カバー曲への挑戦は、新しい歌い方にも挑むという意味でも “新しい挑戦”となったのではないだろうか。

 「アコースティック メドレーコーナー」として披露された「のり巻きおにぎり」「うたうたいのうた」「オレンジのハッピーハロウィン」「おどるポンポコリン」「頑張ったっていいんじゃない」の5曲も“新しい挑戦”だった。「うたうたいのうた」など久しぶりのナンバーも含めたメドレーは、行進してきた小さな音楽隊「おにぎり隊」によって披露される。大原は頭にタンパリンを乗せ、最前のファンにマイクや楽器を預けたり、時にはトイピアノを弾き、時にはタンバリンを奏でた。「Zeppはみんなとの距離が近いから、よく見えるんですよ」という一言もあったが、武道館からZeppの規模に立ち返り、ファンとの近さを味方にできる演出だったのだろう。

 そして、もう一つ。アンコールで披露された新曲「さよなら」も、大原にとって“新しい挑戦”。「さよなら」は、いきものがかりの水野良樹による“大原櫻子”初の失恋ソングだ。大原は歌い出しの前に、「どんな恋愛をしても、どんな失恋をしても、相手に『ありがとう』っていつか言える日が来たら、本当に素敵だなと思いました。みなさんにとって、忘れられない人や、大切な人を思い浮かべながら聞いてください」とコメントした。楽曲では、とてもポジティブな別れを経て、次の一歩を踏み出す主人公が描かれている。流れるようなサビのメロディ、Dメロから転調する大サビのドラマティックな展開は、シンガーとしてもこれまでを総括しながら、新たな領域に入ったことを感じさせる楽曲だ。

 彼女のステージを観る度に、大原櫻子の天井はどこにあるのだろう、と思う。アーティスト、俳優としての様々な経験をスポンジのように吸収し、目に、耳に感じ取れるアウトプットとして形にする。全力で歌い踊り、縦横無尽にステージを駆け回る姿からは、弾けるような彼女のバイタリティーを感じさせる。大学4年生として、学生生活ラストの年でもある今年。環境としてもターニングポイントを迎える次のツアーでは、どのような“新しい挑戦”を見せてくれるのだろう。

(文=渡辺彰浩/写真=田中聖太郎)

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