渡辺志保の新譜キュレーション 第11回
カーディ・B「Bodak Yellow」が全米チャート1位に シーンを騒がすフィメールラッパー6人
つい最近、USのヒップホップ業界を盛り上げるニュースが発表されました。カーディ・Bという女性ラッパーの楽曲「Bodak Yellow」が、ビルボードのシングル・チャート1位をマークし、女性ラッパー単体の楽曲が全米1位を記録するのはなんと1998年のローリン・ヒル「Doo Wop(That Thing)」以来で、まさにヒップホップ・シーンにおける快挙とも言えます。
このカーディ・B、ニューヨーク育ちのヒスパニックの女性(両親はドミニカ共和国出身)でラッパーになる前にはストリッパーとして生計を立てていたという経歴も。ストリッパー時代にSNSで発信していた「ぶっちゃけトーク」がウケ、満を持してラッパーとしてもブレイクした、という現代ならではのキャリア・パスを描いてきたラッパーでもあります。私生活でも世間を騒がせており、今年発売したアルバム『C U L T U R E』でさらなるブレイクを遂げたラップ・トリオ、ミーゴスのメンバーであるオフセットとの交際の様子も包み隠さずInstagramなどで発信。先日行われたライブでは、カーディのパフォーマンスの途中にオフセットが跪き、8カラットの指輪を渡して公開プロポーズするという出来事も! そして、彼女の返事はもちろんイエス! というわけで、何やら騒がしいヒップホップ・シーンの女性MCたちの新譜を紹介します。
噂のカーディ・Bのフィアンセであるオフセットのグループ、ミーゴスの新曲には、カーディに加えて、ヒップホップ・シーンのみならずポップスのフィールドからも絶大な支持を誇るニッキー・ミナージュが参加。カーディとニッキーの二人は、もともと不仲ではないか? と噂されていたほど。ただ、彼氏との性生活を赤裸々にラップするカーディとは反対に、明らかに同性に対するディスをぶち撒けるニッキー。そして、Twitterでは「この曲の詳細を何も知らされないまま、勝手にリリースされた!」と不平を論じています。最近では、音楽シーンにおける自身の役割を自己分析するとともに、ヒップホップ業界、ひいては音楽業界全体において女性の発言力が軽んじられている、という風潮にも鋭い意見を申し立てたニッキーですが、2000年代のラップ・クイーンとして、今後どのようにリマーカブルな行動を起こすのか、楽しみなところでもあります。
次に紹介するのは、現シーンきってのラップ巧者、ラプソディーの最新アルバムを。2015年にリリースされたケンドリック・ラマーの傑作アルバム『To Pimp A Butterfly』にも参加し、以降も新曲を発表するたびにその存在感を増していったラプソディーが待望の2ndアルバム『Laila's Wisdom』を発表しました。アンダーソン・パック、テラス・マーティン、BJ・ザ・シカゴ・キッド、ムーンチャイルド、そしてケンドリック・ラマーなどなど、現代のブラックミュージック・シーンをボーダレスに盛り上げるアーティストたちに加え、バスタ・ライムスやブラック・ソート(ザ・ルーツ)といったべテランMC勢も参加。タイトルに用いられている「レイラ(Laila)」はラプソディーのおばあちゃんの名前。アルバムの中には、女性として強く生きていくことや、アフリカに根ざす自身のルーツを重んじることなど、おばあちゃんが教えてくれたこと(=ウィズダム)が散りばめられています。冒頭を飾る表題曲は、アレサ・フランクリンの名曲「(To Be) Young, Gifted And Black」を大胆にサンプリングし、「あいつらがあなたのことを何と言おうと、惑わされないで」と力強いライムでスタート。「もうオーヴァル(大統領執務室)からブラック・マン(オバマ元大統領)は去ったのよ」と、前作のEP「Crown」にも通じる、現トランプ政権を憂うような箇所も。そして、パーソナルな思いが強く溢れた楽曲群の中でも、筆者が心を揺さぶられたのは「Black & Ugly」という一曲。Twitter上で自身の容姿を揶揄されたことがきっかけとなって作られた楽曲だそうで、本曲では「本来の自分を表現するのにルックスは関係ない、自分は醜いかもしれないけど誰よりもカッコよくキメてるわ」とラップ。BJ・ザ・シカゴ・キッドが歌うフックも「あいつらは自分のことをブラックでブサイクだ、と言うんだ。でも俺は世界中が自分のことを愛してくれるようにと頑張ってるのさ」とポジティブなメッセージを内包しています。エピローグの位置付けとなる「Jesus Coming」まで、全編を通じてラプソディーが我々リスナーに寄り添いながら悩み、諭し、鼓舞してくれるような強さを感じるアルバムに仕上がっており、自分の置かれている環境に、迷いや悩みを感じる女性にも聴いて欲しいなと思う作品です。