『bonobos、現体制初の日比谷野音ワンマンを映像化プロジェクト!』
bonobos新体制は野音を終えて“一巡”へ? メンバーに訊く「今の5人だから生み出せる音楽」
「研究して再現できるようにはなりたいけど、自分の作品でそのままやるのは毛頭ない」(蔡)
――『23区』はリズムでチャレンジしているんだけど、そこに今まで通りの歌がはまってるのがすごく面白いんですよ。あのリズムって英語もしくは英語っぽくすれば、もう少し簡単に乗せられるとは思うんですけどね。
蔡:オリジナリティーじゃないけど、「日本語で歌いながら、音楽的にはそういうアプローチをしたい」となったときに、合致する点をどこに持ってくるかっていうのは常に考えながら歌詞やメロディを書いたりします。歌う時もそういうのを考えるようにはしていますね。でも、新曲でラップではないけど、少し違う歌い方をしている曲があるんですよ。いわゆるゴリゴリのヒップホップのラップというよりは、ボブ・ディランに近いトーキングスタイルというか。その方が照れもなく、かつ日本語で書いた詞でもやりやすかったんです。
森本:友部正人さんとかに近い感じだよね。
蔡:そうそう。最近だったら、ノーネーム(編集部註:シカゴ出身の女性ラッパー)はいいなって。ラップなんだけど、「喋り」みたいでしょ。あの人、MCで喋ってるときと、音楽始まってラップしているときの境界がないでしょ? ずっとニコニコしながら。でも、始まった瞬間、急に音楽になるのがすごいなと思って、あの子、超尊敬してます。ラップに関しては自分の中にその文化がなくて、リアリティがなくて、歌詞も寄せられないから。
蔡:細かく聴くと、『ULTRA』と『HYPER FOLK』の時は歌い方が太いと思うんですよ、特に『ULTRA』は。「あなたは太陽」とかも発声のしかたが違うんですよ。
森本:きれいな声で歌うのやめてた時期かも。
蔡:後ろが弦と管がバキバキで入っているので、そこでいわゆるポップな感じの歌が馴染まないというか、ある程度圧力も出さないといけない状況だった。
森本:そうだったかも。バックに何十人もいるていだったもんね。
蔡:あの時は、250トラックとかあったんで。管はとりあえず4回ずつくらい同じフレーズを吹いてもらったり。
森本:それを4人でやってもらってるから、16人いるていだよね。
蔡:場所を入れ替えて同じように吹いてもらったりして、厚みを持たせたり。ベースとか、普通のレゲエよりも暴れてたもんな、ブリブリで。
森本:後ろの厚みをドラム1人とベース1人で支えなきゃいけないから、その時にオラ弾きが身についてしまったのかも(笑)。
蔡:山梨の小渕沢の歯医者の先生のスタジオで、下で診療しているのに上でベースを録ってたら、先生が上がってきて、「ちょっと少し止めてくれないかな。振動で治療ができないから」って(笑)。それくらいすごかったよね。山の上からおじさんが抗議しに降りてきたりとか。その時々で歌い方も鳴らし方も変わってるんですけど、今はライブっぽいっていう感じはありますね。
森本:次の新しいやつはめちゃめちゃ重心をあげて録っているもんね。
蔡:楽器構成はシンプルで、基本は5人で、管が入っているものに関しては2管、3管。やってることは複雑だけどね。それぞれが持っている楽器で、せーのでやればできるようにはしてある。今は一緒になって、その瞬間を共有したいんですよ、誰かがとちって構成が変わっちゃっても、頑張ってそこはついていって、集中して演奏を作っていくというのは5人だったらできるから。
――今はほんとに、バンド感が強いですよ。
蔡:バンド感が好きなんですよ。いろいろロジック立てて、リズムを構築しても、最終的には演奏者の肉体に左右される、そのバンド感が楽しいね。
――このメンバーになって特にそうなんでしょうね。
蔡:今、自然と何やっても心地いいし、昔こういうことをやりたいと思っていたなってことを思い出して、梅とかに提案するとレスポンスも早いから、すぐにやってくれるのも楽しくて、最高ですね。16分の出し方みたいなのがよりストレスなく出せるしね。
小池:今の蔡くんがやりたいことに今のメンバーはマッチングしてる感じはするよね。俺も蔡くんのおかげで可能性が広がってきているというか、そもそもエレキギタリストじゃないし、そこから広げてくれてるわけだから。
蔡:16分のコントロールができるようになったから、テンポが遅くてもグルーヴを出せるようになったし、ほんとに今の5人が良いし、梅が入ったのが大きいですね。ハットが8分でも、全体に16分に聴こえるようにとかがうまくできるんで、落ち着いたテンポで演奏できるから。出音で聴くと、テンポが遅いとか速いとかじゃなくて、グルーヴしているようにしか聴こえないというか。かなりゆっくりでもグルーヴできるような演奏が更にできるようになればいいなって。
小池:梅って、複雑なことやってもイケてる感じがするんだよね。
森本:キャッチ―さもあるしね。出すビートがキャッチーなんじゃないかな。
蔡:『23区』とか、今回もそうだけど、今っぽいやり方をやっていると、昔好きだった音楽を聴き始めた頃に好きだったThe Beatlesとかニューウェイブ系に近いものをやっている感じというか。Talking Headsのいかがわしいアフリカンな感じ、ああいうものが根本にある、ジョナサン・リッチマン、The Monochrome Setのような混ざり具合が好きで。bonobosも黒っぽいのをやるんだけど、ベースが違うとか、フレーズの積み方とかもちょっと変なのを入れたくなっちゃうのはニューウェイブ感といえるのかも。
――リズムとか部分部分で要素は取り入れていても、洋楽のコピーをしてる感じにならないのがいいと思うんですよ。
蔡:レゲエをやってても、まんまにならないんですよね。bonobosをやり始めの頃って、大阪にはスカバンドがいっぱいいて、一番上にはDETERMINATIONSがいて、近いところだとThe Miceteethとか、ミリオン・バンブーとかいて。どのグループも好きだったんですけど、bonobosにはオーセンティックスカをそのままやる様式美はあまりなくて。同じように、ブラックミュージックをやるにしても研究して再現できるようにはなりたいけど、自分の作品でそのままやるのは毛頭ないっていうか。
小池:俺らもbonobosでレゲエやるときに、裏打ちなり、ドラムのワンドロップなり、ここは押さえておいた方がいいみたいなことはあって、そこはきちんとやってるからね。自分たちはレゲエバンドをやりたいわけじゃないけど、そこはマナーとして知ってた方がいいし、梅とか佑司にはいっぱい聞けって言っちゃうよね。
森本:言っちゃうよね。
蔡:鍵盤の裏打ちとかも細かいことなんだけど、そこが大事なんだよね。
森本:そうなんだよ、裏に入ってればいいってもんじゃないだよって。ハカセさんとも一緒にやっていたことがあって、ハカセさんとの極上を経験してしまってるから。
蔡:ハカセさんの裏打ちはエグいもんね。
――そういうディテールを研究してちゃんと取り入れる感じが、bonobosの魅力に繋がっているんですね。
小池:原理主義じゃないとか言いつつ、そこはね。
森本:こだわりまくってるよね。
――だから、『23区』でもいろんなリズムをやっても、それっぽいものにはなってない。
小池:押さえるところは押さえてるけど、まんまになるのは違うって思ってるから。
森本:だけど、“なんちゃって”も許せない(笑)。
小池:ある程度勉強して、それを違う方向に落ち着かせるというか、そこがbonobosの面白いところなのかもなと思いますね。
(取材・文=柳樂光隆/撮影=林直幸)
■プロジェクト情報
bonobos、現体制初の日比谷野音ワンマンを映像化プロジェクト!