BOØWY、“最強のライブバンド”としての姿ーー『“GIGS” CASE OF BOØWY』完全版を徹底分析

 ギター、ベース、ドラムだけのシンプルなバンド編成。エッジを効かせた縦ノリの8ビートにキャッチーな歌メロディ、サビは英語。マイクスタンドを使ったパフォーマンスを見せるロックボーカリストが多い中、ハンドマイクを華麗に操るーー。

 今でも多くの日本のロックバンドが当たり前のようにやっていることの多くは、BOØWYが雛形を作ったと言っても大袈裟ではないだろう。「ロック=不良」のイメージが強かった80年代。ツッパリ、メタラー、パンクス……、俗世から離れた連中がやるようなものだったロックバンドを、カッコよくスタイリッシュにキメたのがBOØWYだった。人より目立つために奇抜なメイクや派手な衣装を纏っていたバンドシーンは、BOØWY以降、カッコつけるためのメイクと衣装に変わっていった。『“GIGS” CASE OF BOØWY』の衣装を提供したジャン=ポール・ゴルチエは、多くのバンドマンやロックファンたち御用達の定番ブランドになった。

 『“GIGS” CASE OF BOØWY』とは、BOØWYが人気絶頂の1987年夏に神戸と横浜で、その唯一無二の存在を世の中に知らしめた特別なライブだ。その後、活動に終止符を打った88年以降もますます高まる人気の中で、日本のロックバイブルとなっていったのが、映像作品としての『“GIGS” CASE OF BOØWY』だった。(参考:BOØWYの真骨頂はライブにあり 伝説の『“GIGS” CASE OF BOØWY』を振り返る

誰もが思い描いていたBOØWYサウンドがここに

 今回リリースとなった『“GIGS” CASE OF BOØWY -THE ORIGINAL-』は神戸と横浜両公演の完全版である。コレクターズアイテムのようにも思える今回のリリース。だが、本作はこれまでの『“GIGS” CASE OF BOØWY』関連タイトルとはまったく違うものだ。それは一聴してわかる、丁寧にトラックダウンし直された音像である。

 2001年の初CD化のときは正直「テープ劣化なく、繰り返し聴くことができる」程度だったし、2007年の『“GIGS” CASE OF BOØWY COMPLETE』は、音量、音圧、低音が増強されていたが、とりわけ「音が良くなった」という印象はなかった。しかし、今回の『-THE ORIGINAL-』は明らかにこれまでとは違う。打ち鳴らされるビート、かき鳴らされるギター、突き抜けるようなボーカル、そのすべてがありありと鮮明に耳に届くのだ。ただ、旧譜のリマスタリングとは目指したところが根本的に異なるようで「音質が良くなった」というよりも「聴こえ方が変わった」という趣だ。音量や音圧を大きく持ち上げることはしておらず、リバーブを足すなどの音処理もほぼ施されていない。『COMPLETE』に比べると派手さもなく低音などの迫力は欠けるのだが、そのぶん自然なバンドサウンドが響いている。これまでのライブ音源では聴いたことのない音像であるが、誰もが思い描いていたBOØWYサウンドがそこにある。言うなれば、当時ライブ会場のスピーカーから放たれていたであろう音が再現されている……、そう思わせてくれるのだ。

 それを象徴しているのはギターサウンドだ。布袋寅泰のただでさえ鋭利なプレイがさらに研がれたような切れ味で蘇っている。誰もがシビれた「BAD FEELING」のリフや「JUSTY」のトリッキーなイントロ、「FUNNY-BOY」のザクザク突き刺さってくるバッキングに再び心踊らされるなんて思ってもいなかった。今なお、布袋サウンドを、とくに『“GIGS” CASE OF BOØWY』のサウンドを研究しているギタリストも多いかと思うが、KORG OVD-1(当時、布袋が使用していたエフェクトペダル)のセッティングを見直したほうがいいかもしれない。

BOØWYの集大成とも言える39曲

 「過去のレパートリーをすべて演奏する」とされたこのライブは全39曲、二部構成で4時間近くに及んだ。BOØWYのライブは通常、アンコール含めて1時間半であり、そこからもこのライブが特別なものであったかがおわかりいただけるだろう。

 収録されているのは、一部二部の間やアンコール待機時間などが省かれているので『at Kobe』が約2時間31分、『at Yokohama』が約2時間32分である。まったく同じセットリストとはいえ、楽曲のBPMとライブの構成が秒単位で計算しつくされているようだ。「今日は、いつものライブと違って、“CASE OF BOØWY”、……だぜ?(at Yokohama)」といった、完全版だからこそはじめて聴くことができたヒムロックの煽りや曲紹介が妙に新鮮だ。

 ライブの定番人気曲「DREAMIN’」「NO.NEW YORK」、ヒットシングル「ONLY YOU」、神戸公演の9日前にリリースされたばかりの「MARIONETTE」、といったエッジを効かせたビートロックナンバー。スネアのショットとギターストロークのアクセントが重なるたびにゾクゾクする。「WORKING MAN」からそのまま「B・BLUE」へとつなぐスリリングな流れは何回聴いても鳥肌モノだ。「ホンキー・トンキー・クレイジー」やこのときライブ初披露となった「“16”」では小粋なシャッフルでこれまでの日本のロックバンドとは一味違うテイストを見せつける。二部の幕開け「DANCING IN THE PLEASURE LAND」「ROUGE OF GRAY」「RUNAWAY TRAIN」の無機質で反復するリズム、インダストリアルなナンバーの流れは、当時からBOØWYが他とは別の次元にいたことを思い知らされる。

 “ミスター8ビート”高橋まことと、“直立不動のダウンピッキング”松井恒松(現・常松)の強靭で安定のリズム隊。その上を布袋が様々なサウンドとフレーズを変幻自在に操りながら楽曲を彩っていく。「1994 -LABEL OF COMPLEX-」で複雑なリズムとアバンギャルドなフレーズを描き、“BOØWY史上最もドラマチックなギターソロテイク”と呼び声の高い神戸公演の「わがままジュリエット」、そして「CLOUDY HEART」では美しく咽び泣く。フラメンコの旋律から狂気の調べへと豹変する「JUSTY」はエレキギターという楽器の可能性を余すことなく引き出し、まさに“クレイジーギター”の神髄を見せていく。そんな3人を背に、クールながらも熱く、ハスキーながらも艶のあるセクシーな歌声を持つ氷室京介のボーカリスト&フロントマンとしての存在が、BOØWYがこの4人でなければならない理由をさらに際立たせるのだ。

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