尾崎裕哉、CDデビュー作にみる“大物の予感” 屈託のなさが生む音楽的豊かさとは

 The Beatlesがレコード・デビューした時、最年長のジョン・レノンは21歳、最年少のジョージ・ハリソンは19歳。1970年のバンド解散時、メンバーはまだ全員が20代だった。改めてこの事実を前にすると、現役のすべてのミュージシャンは途方に暮れてしまうに違いない。彼らは、20代のうちに、そして実質上たった7年間のレコーディング・アーティストとしてのキャリアのうちに、音楽シーンのすべてを、ユース・カルチャーのすべてを、そして世界そのものを変えてしまったのだ。

 1989年生まれの尾崎裕哉は現在27歳、今年の7月24日には28歳の誕生日を迎える。尾崎豊が亡くなったのは26歳の時。つまり、尾崎裕哉は父親よりも「年上」となってから、本格的に自分の音楽を世に送り出すようになったわけだ。そう考えると、わざわざThe Beatlesの時代まで遡るまでもなく、90年代(生涯現役だった尾崎豊は1992年にこの世を去った)までと比べても、音楽シーンに流れている時間のスピードが大きく変化していることを痛感せずにはいられない。一昔前まで、例えばバンドが20周年を迎えるのは偉業として称えられたが、今では90年代後半にデビューしたバンドが当たり前のように20周年を通り過ぎていく。それがいいことなのか悪いことなのかは別として、少なくともこの日本では、音楽シーンにおける「時間の流れ」そのものが、年を追うごとに引き伸ばされてきている。

 だから、昨年9月に「始まりの街」でデビュー(配信限定リリース)し、今回、同曲のニューバージョンを含んだ4曲収録のEP『LET FREEDOM RING』で初めてCDをリリースすることになった尾崎裕哉に対して、一概に「遅すぎたデビュー」と言うことはできないだろう。また、その年齢をもって「26歳の父からバトンを引き継ぐ27歳」という物語に封じ込めるのも、彼にとってあまりにも荷が重い話だろう。尾崎裕哉がデビュー前からメディアに取り上げられて、今回のCDデビューに際しても『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に2週連続(3月17日、3月31日放送回に出演)で出演したりするのは、現実的には父親のネームバリューのおかげではあるが、まずはフラットにその音楽に接するのがフェアな姿勢であることは言うまでもない。

 昨年、「始まりの街」を最初に聴いた時にも思ったのだが、今回の『LET FREEDOM RING』のリード曲「サムデイ・スマイル」を聴いて改めて強く感じたのは、尾崎裕哉というミュージシャンがロックの呪縛から自由であるということだ。尾崎豊をデビュー時から聴いていた世代として実感を込めて言わせてもらうと、彼の父親は違った。音楽家としての資質としてはフォーク・ミュージック系のシンガー・ソングライターであった尾崎豊は、しかし時代的な要請もあってデビュー時から「10代のロック・シンガー」のイメージを担わされ、本人も積極的にその役割を果たそうとしていた。そして、特にキャリアの後期においては、その呪縛に苦しんでいるようにも見えた。

 尾崎裕哉の音楽には、そういう意味での無理がない。父親譲りのその美声をできるだけ効果的に響かせるべく、どこまでも伸びやかに、どこまでも自然体に、気持ち良さそうに歌いあげていく。また、歌詞の内容も、自意識の葛藤を吐露するものや、リスナーを扇動するメッセージ性の強いものではなく、自分の中から前向きな言葉、平易で普遍的に響く言葉を絞り出そうとしている。

 「無理がない」のはそれだけではない。基本的に作詞作曲を自身で手がけながらも、歌詞においてはいしわたり淳治やSALU、編曲においては蔦谷好位置と、クリエイティブ面におけるパートナーに自身の持ち味を引き出してもらうことに対してもオープン。このようなシンガー・ソングライターのオープンなスタンスは、エド・シーランやアデルをはじめとして現在では世界の音楽シーンにおいてはスタンダードとなっているが、いまだ自作自演信仰が強い日本の音楽シーンにおいては誤解をされがち。もっとも、放っておいても様々な色眼鏡で見られてしまう宿命の尾崎裕哉、そんなことまったく気にもならないのだろう。そんな彼の屈託のなさが、本作では音楽的な豊かさへとつながっている。

 先日の『ミュージックステーション』で、尾崎裕哉は「サムデイ・スマイル」の曲中のラップ・パートについて「最初、そこの部分は語りだったんですけど、語りだと尾崎豊っぽすぎるかなと思って」と笑いながらタモリに話していた。どこまでも無理なく、どこまでも屈託のない、シンガー・ソングライター尾崎裕哉。もしかしたら彼は、日本の音楽リスナーの大部分が現在想像しているよりも「大物」なのかもしれない。

尾崎裕哉「サムデイ・スマイル」Official Music Video

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)。Twitter

■リリース情報
『LET FREEDOM RING』
発売:2017年3月22日(水)
価格:¥1,389(税抜)
1. サムデイ・スマイル
作詞:尾崎裕哉、いしわたり淳治、SALU / 作曲:尾崎裕哉、蔦谷好位置
2. 27
作詞:尾崎裕哉 / 作曲:尾崎裕哉、蔦谷好位置
3. 始まりの街 (Soul Feeling Mix)
作詞/作曲:尾崎裕哉
4. Stay by my Side
作詞:尾崎裕哉、いしわたり淳治 / 作曲:尾崎裕哉、蔦谷好位置

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