太田省一『ジャニーズとテレビ史』第三十回:知性派ジャニーズの活躍
嵐 櫻井翔、NEWS コヤシゲ、稲垣吾郎……テレビで活躍の場を広げる知性派ジャニーズたち
もうひとり、NEWSには知性派がいる。小説家としても活躍する加藤シゲアキである。その加藤と小山がMCとして出演し、昨年4月からレギュラー化された『NEWSな2人』(TBS系)は、二人の知性派としての魅力が存分に生かされた番組だ。
この番組は、現代社会にあるさまざまな偏見の被害者や問題の当事者が怒りを訴え、その解決策を考える「デモバラエティ」である。バラエティではあるが、家庭内暴力、監視社会、待機児童、LGBTなどのテーマについてかなり踏み込んでいる点が最大の見どころだ。たとえば、小山が父親の家庭内暴力について悩みを持つ若者に対し、自らの同様の経験を告白したうえでアドバイスを送ったり、加藤が実際にLGBTのカップルを取材したうえで学校教育の場を通じた理解の重要さを説いたりした場面はそれを象徴するものだ。
この二人のバランスもいい。小山が時には対立する意見のまとめ役としてキャスターで培った手腕を発揮するかと思えば、加藤は文学的な繊細さで相手の心情に出来る限り入り込もうとする。そしてさまざまな悩みを持つ人々に対し、ただ同情するのではなく、自分の見解を述べ、よりよい方向を模索する。そうした二人の力量もあって、『NEWSな2人』は、ジャニーズとテレビの関わり方のこれまでにはなかった新しい一歩を思わせる番組になっている。
加藤シゲアキは、現役作家に創作の裏側を聞く『タイプライターズ~物書きの世界~』(フジテレビ系)のMCをピース・又吉直樹とともに務めている。これが作者の側から本の世界を深掘りする番組だとすれば、読者の側からそれをするのが、稲垣吾郎がMCを務める『ゴロウ・デラックス』(TBS系)である。
この番組では、毎回一冊の本の著者を招き、その本と著者の魅力を掘り下げていく。2011年のスタート以来、深夜の放送ということもあって落ち着いた雰囲気が現在のテレビにはあまりない貴重な味わいだ。たとえば、稲垣吾郎がその回の本の好きな一節を朗読するコーナーなど、ラジオ番組のような風情が醸し出されている。
この番組を支えているのは、稲垣の懐の深さだ。佐藤愛子のような大御所作家の著作や芥川賞作家の純文学小説から始まって、みうらじゅんと宮藤官九郎の下ネタ満載の本、さらにはロバート・秋山竜次のお笑いネタ本にいたるまで、硬軟取り混ぜた多彩なジャンルの本の著者からその作品への思いや意外なエピソードを引き出していく。それでいて自分を見失わず、必要以上に合わせたり、過剰に盛り上げたりはしない。その自然な感じが絶妙だ。
そこには、『SMAP×SMAP』出演時から次第に発揮されるようになっていた確かなポジショニング能力が見て取れる。SMAPの「中間管理職」という言い方でグループ内での自分の立場を表現していた稲垣だが、裏を返せばそれは、しっかり場の空気を読んだうえで、言うべきことは言うということだろう。その能力は、相手との対話の面白さと自分なりの感想や意見が同時に求められるこうしたタイプの番組でこそ生きるものであることが、この番組を見ていて感じられる。
そうした稲垣吾郎と番組の相性の良さもあり、『ゴロウ・デラックス』は本の多面的な魅力を伝える番組として最近特に充実してきたように思う。現在全国ネットにはなっていないようだが、そうしておくのがもったいない番組のひとつである。
以上、知性派ジャニーズとして何人かをみてきたが、共通するのはぶれなさと柔軟さを兼ね備えている点だろう。こうした分野へのジャニーズの進出は、スポーツなどと比べればまだ新しく、まだ始まったばかりとも言える。それだけに、これからどのような展開があるのか目が離せない。
■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『SMAPと平成ニッポン 不安の時代のエンターテインメント』(光文社新書)、『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』(双葉社)、『中居正広という生き方』(青弓社)、『社会は笑う・増補版』(青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』、『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。