吉本興業、なぜダンスアカデミー設立? 最終審査の様子からその意義を読み解く

 アカデミー賞を席巻した『ラ・ラ・ランド』、3月17日公開の『SING』、先日の地上波テレビ初放送で改めて注目を浴びた『アナと雪の女王』……これらの映画作品に共通する“ミュージカル”という要素。幅広い人々が見惚れる世界として近年需要が高まっており、日本でもダンス普及率は恋ダンスブームや学校教育への採用により増加の一途をたどっている。そんな中、演劇・ミュージカル界で最高の栄誉とされるトニー賞を3度受賞したブロードウェイのトップアクター、ヒントン・バトルが吉本興業とタッグを組んだ、世界的ダンサーを育てる学校『ヒントン・バトル ダンスアカデミー』(以下HBDA)が4月に東京で開校する。筆者は3月5日に都内スタジオで行われた、このアカデミーの第1期生を決める最終オーディションを取材した。本稿では、オーディションのレポートに加えて“日本最高峰のブロードウェイダンサー養成機関”を目指すHBDAの設立意義を解く。

首謀者ヒントン・バトルとは?

 

 ヒントン・バトルとは、アフリカ系アメリカ人として初めて3度のトニー賞に輝いた人物。1975年に『ザ・ウィズ』の案山子役でブロードウェイデビューを果たし、1981年の『ソフィスティケイテッド・レディ』、1984年の「タップ・ダンス・ キッド』、1991年の『ミス・サイゴン」でトニー賞助演男優賞を受賞した。ほかに『ダンシン』『ドリームガールズ』『シカゴ』『ラグタイム』などの名だたるミュージカル作品に出演し、映画『アイドルワイルド』では振付を担当。近年はジャズシンガーとしてアルバムも2枚リリースしている。

世界の舞台で不可欠な4ジャンルのダンス

 

 そんな彼が立ち上げるHBDAの大義は、次世代を牽引するダンサーを育成すること。バレエ、モダン、ヒップホップ、リズムタップの習得をベースとした“ヒントン・メソッド”のカリキュラムを入学生は最大3年間受け、日本国内はもちろん世界で活躍できるダンサーを目指す。ヒントン自ら選出したショービジネスの第一線で活躍する外国人講師からレッスンを受けられるのもセールスポイントの1つだ。なおバレエ、モダン、ヒップホップ、リズムタップは、ブロードウェイや世界の舞台に立つために不可欠な4ジャンルとアカデミーでは考えられている。

オーディション現場で見た感激と決意の涙

 

 第1期生候補は2016年末に募集を行い、400名から日本各地での審査を経て精鋭47名が最終オーディションへと進んだ。合格者は3年間無料でレッスンを受けられるというなんとも太っ腹な待遇だ。審査はバレエ60分、モダン40分、ヒップホップ40分、タップ40分、個別チェック60分という時間割で、それぞれアシスタントダンサーから振付を教えてもらう“振り写し”の後、ヒントンの前でパフォーマンスを披露するという形式だった。全員が4ジャンルに取り組むため特定のジャンルに秀でていても合格できる保証はなく、総合的なダンススキルと表現力と精神力が要求されていた。

 結果、47名のうち34名が合格者として残った。第1期生の前でヒントンは「僕、吉本興業、そして僕が連れてくる講師一同、皆さんに本当に厳しく指導していくつもりです。入学したからといって3年間いられると限ったことではなく、上達が見られない場合には学校を去っていただくこともある。大変な努力をしてすべてのジャンルにおいて向上してもらい、素晴らしいスキルとパフォーマンスのダンサーに皆さんを鍛えていきます。その準備はできていますか?」と焚き付け、「僕はあなたたち一人ひとりを信頼しています。だから信頼に値する人間だということを証明してください。あなたたちがHBDAの名前を背負って世界でその名を轟かせる人たちになっていくのです」と話した。ダンサーのアイデンティティを刺激するこのスピーチを涙ながらに聞く合格者も少なくなかった。

 

 34名中、最年少14歳の新美たま希さんは「将来はたくさんの人を笑顔にできるようなミュージカル女優になりたい。劇団四季やブロードウェイの作品に出てみたい」と目を輝かせる。16歳の春口凌芽(りょうが)さんは「芝居もできて踊れるマルチなパフォーマーになれたら。憧れの存在は井上(芳雄)さん」と答えた。合格者は学生だけでなく、21歳のコリ伽路(かろ)さんは最近まで看護師として働いていたという社会人。「私の憧れる人は『GREE』に出演していたリア・ミシェル。(ヒントンの説明を聞いて)自分で切り開いていかなきゃと思った」と気を引き締めていた。

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