フェス至上主義は終わりを迎えるか? パスピエ、SHISHAMOが挑む“フェスの外”へのアプローチ

フェス至上主義の終わり?

『&DNA』が示すパスピエの真の姿

 活況だった2016年の日本の音楽シーンのムードを引き継ぐかのように、2017年に入ってからも刺激的な動きが各所で勃発している。昨年からブレイクの兆しのあったSuchmosが新作『THE KIDS』で派手なチャートアクションを見せたかと思えば、一方では小沢健二の19年ぶりのシングルリリースという歴史的と呼んでも大げさでないような出来事もあった。そんな流れの中のトピックの一つとしてピックアップしたいのが、1月25日にリリースされたパスピエの4枚目となるフルアルバム『&DNA』である。

「アルバムの制作では、ライブでは再現できないこともたくさん出来るじゃないですか。いままでのアルバムはそういう“実体かどうかわからないおもしろさ”を意識して制作してきたんですけど、今回は“バンド・パスピエ”が出来る、いちばんソリッドな音作りを意識して。このメンバーで出し得る、いちばん新しくて、いちばん良いものが今回のアルバムだと思います」(インタビュー:パスピエが表現した、バンドとしての“最新バージョン” 「5年間の遺伝子が形になってきた」

 成田ハネダのこのコメントにもある通り、『&DNA』は「5人のロックバンド」として表現できる範囲を押し広げていくような素晴らしい作品である。ループするタッピングが不思議な浮遊感を生む「DISTANCE」や細かなドラムフレーズと鍵盤による奥行きのあるイントロから8ビートのサビに向かっていく「スーパーカー」では、バンドサウンドとエレクトロやニューウェーブ的なサウンドを自在に行き来するパスピエならではの質感が堪能できる。他にも、今まで意外と取り組んでこなかった王道ガールポップ調のアレンジにジャジーなピアノソロがアクセントになっている「マイ・フィクション」、バンドのキッチュな側面を思いっきり押し出した「おいしい関係」など、「バラエティに富んだ」という表現では言い尽くせないような様々な楽曲が並んでいるこのアルバム。「印象派×ポップロック」という今までにない組み合わせで新しいサウンドを生み出そう、というバンド結成のきっかけとなった音楽的な探究心がそのままピュアに表現された作品になっている。

 アルバムタイトルの『&DNA』は書き下すと「ANDDNA」という回文調の表記となる。かつては『わたし開花したわ』『ONOMIMONO』『演出家出演』と定番になっていた回文タイトルを久々に解禁したところにバンドとしての原点回帰への気概を感じるが、さらにそこで使われているのが「DNA」という人や組織の本質的な特徴を表す単語だというのも示唆的である。また、そんなタイトルが冠せられたこのアルバムは、<永すぎた春が終わりを告げたの><等身大の自分なんて何処にも居なかった>などここまでのキャリアを総括する言葉が並ぶ「永すぎた春」で始まって<正しい夜明けを迎えませんか>と次なるステージを見据える「ヨアケマエ」で終わるという構成になっている。これらの事実は、『&DNA』こそがパスピエというバンドの真の姿であり、それと同時に今作がこの先の活動の基点になっていくということを示しているのではないだろうか。ロックバンドというフォーマットを維持しながら「あらゆる音を鳴らせるバンド」としての立ち位置をより盤石なものにしたパスピエが、今作以降どんな場所に音楽を届けていくのか非常に楽しみである。

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