スタージル・シンプソンが貫く“アウトロー・カントリー”とは? グラミー賞候補シンガーのスピリット
アデル、ビヨンセ、ジャスティン・ビーバー、ドレイク……。2017年のグラミー賞の最優秀アルバム部門には、錚々たるメンツがノミネートされたが、そのなかで異彩を放っていたのがスタージル・シンプソンだ。R&Bのミュージシャンが多いなか、シンプソンは唯一人のカントリー・シンガー。これまで日本盤がリリースされたこともなく、日本ではほとんど無名のシンプソンだが、実は日本と意外な接点があった。
シンプソンは1978年生まれで現在38歳。ハイスクールを卒業後に米軍に勤務して、短期間だが横須賀の米軍基地で働いていたことがあった。その後、軍を辞めて2004年にブルーグラスのバンドを結成するが芽が出ず、ソルトレイクシティの鉄道で貨物列車の作業員として働いていた。その間、音楽から離れていたが、妻や友人に支えられて音楽活動を再開。カントリーのメッカ、ナッシュビルに拠点を移して、2013年に自主制作で1stアルバム『High Top Mountain』をリリースした。その際、彼は初めてのミュージック・ビデオ「Railroad of Sin」をわざわざ東京で撮影していて、シンプソンが日本に特別な思い入れがあることが伝わってくる。
『High Top Mountain』はUSカントリー・チャートで31位を記録。トップ・ヒットシーカーズ(大きなヒットを飛ばしたことがないアーティストを中心に集計される新人発掘チャート)では11位を記録するなど、シンプソンは順調なスタートを切った。そして、その勢いにのって、2014年に2ndアルバム『Metamodern Sounds in Country Music』を発表。レコーディングとミックスを5日半で済ませ、4000ドルの経費で作り上げた手作りのアルバムは、USカントリー・チャート8位の大ヒットを記録。全米作曲家協会が選ぶ2014年のアルバムの1位に選ばれ、グラミー賞の最優秀アメリカーナ・アルバム部門にノミネートされるなどメディアからも高い評価を受けた。さらに、人気テレビ番組『レイト・ショー・ウィズ・デイヴィッド・レターマン』に出演して歌を披露したりと、シンプソンはカントリー界の時の人になった。そうなると、レコード会社がほおっておかない。各社争奪戦の結果、ワーナーと契約したシンプソンは、2016年に3rdアルバム『A Silor’s Guide to Earth / ア・セイラーズ・ガイド・トゥ・アース』で遂にメジャー・デビューを果した。
シンプソンの歌は伝統的なカントリーではなく、“アウトロー・カントリー”の系譜で語られることが多い。70年代後半に生まれたアウトロー・カントリーは、保守的なカントリー界に反旗を翻し、長髪にカウボーイハット姿で反骨精神に貫かれたカントリー・ソングを歌ったムーブメントで、そのシーンの中心にいたのは、彼が影響を受けたウェイロン・ジェニングスやウィリー・ネルソンだった。アウトロー・カントリーは、ロックンロールなスピリットを持ったカントリーともいえるかもしれない。そのアウトロー精神はシンプソンの歌のなかにも息づいていて、『A Silor’s Guide to Earth / ア・セイラーズ・ガイド・トゥ・アース』では、なんとNIRVANAの「In Bloom」をカバー。ロックやソウルを吸収した多彩な音楽性や、ストリングスやホーンをフィーチャーしたドラマティックなアレンジで、カントリーという枠を越えた独自の世界を生み出した。その結果、本作は全米チャート3位(1位と2位は急死したプリンスのアルバムが独占していた)、カントリーチャート1位を記録。そして、グラミー賞の「最優秀アルバム」と「最優秀カントリー・アルバム」にノミネートされることになる。
『A Silor’s Guide to Earth / ア・セイラーズ・ガイド・トゥ・アース』は初めて日本盤がリリースされるが、偶然か運命か、収録曲「Sea Stories」には、横須賀、新宿、渋谷、六本木など、シンプソンに馴染み深い地名が続々と登場する。そんな形で日本にラブコールを送ってくれるのを聴くと、グラミーの賞レースで肩入れしたくなるのが人情というもの。見事受賞した暁には、いや、残念ながら賞は穫れなかったとしても、ぜひ想い出の地、日本でその骨太な歌声を響かせてほしい。
(文=村尾泰郎)
■リリース情報
スタージル・シンプソン 『A Silor’s Guide to Earth / ア・セイラーズ・ガイド・トゥ・アース』
発売日:2017年02月08日(水)
価格:¥2,200(本体)+税
<収録曲>
1.Welcome To Earth(Pollywog) / ウェルカム・トゥ・アース(ポリワーグ)
2.Breakers Roar / ブレイカーズ・ロアー
3.Keep It Between The Lines / キープ・イット・ビトウィーン・ザ・ラインズ
4.Sea Stories / シー・ストーリーズ
5.In Bloom / イン・ブルーム
6.Brace For Impact(Live A Little) / ブレース・フォー・インパクト(リヴ・ア・リトル)
7.All Around You / オール・アラウンド・ユー
8.Oh Sarah / オー・サラ
9.Call To Arms / コール・トゥ・アームズ
『2017 GRAMMY(R)ノミニーズ』
発売中
価格:¥2,500(本体)+税
<収録曲>※カッコ内はノミネートされている賞
1. BEYONCÉ / ビヨンセ
「Don’t Hurt Yourself Feat. Jack White / ドント・ハート・ユアセルフ Feat. ジャック・ホワイト」
(年間最優秀アルバム)
2. TWENTY ONE PILOTS / トゥエンティ・ワン・パイロッツ
「Stressed Out / ストレスド・アウト」
(年間最優秀レコード、最優秀ポップ・パフォーマンス(グループ))
3. SIA / シーア
「Cheap Thrills Feat. Sean Paul / チープ・スリルズ Feat. ショーン・ポール」
(最優秀ポップ・パフォーマンス(グループ))
4. DRAKE / ドレイク
「Hotline Bling / ホットライン・ブリング」
(年間最優秀アルバム)
5. ADELE / アデル
「Hello / ハロー」
(年間最優秀レコード、年間最優秀アルバム、最優秀ポップ・パフォーマンス(ソロ)、最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム)
6. JUSTIN BIEBER / ジャスティン・ビーバー
「Love Yourself / ラヴ・ユアセルフ」
(年間最優秀アルバム、最優秀ポップ・パフォーマンス(ソロ)、最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム)
7. THE CHAINSMOKERS / ザ・チェインスモーカーズ
「Closer Feat. Halsey / クローサー Feat. ホールジー」
(最優秀新人賞、最優秀ポップ・パフォーマンス(グループ))
8. KELSEA BALLERINI / ケルシー・バレリーニ
「Peter Pan / ピーター・パン」
(最優秀新人賞)
9. MAREN MORRIS / マレン・モリス
「My Church / マイ・チャーチ」
(最優秀新人賞、最優秀カントリー・パフォーマンス(ソロ)、最優秀カントリー楽曲)
10. STURGILL SIMPSON / スタージル・シンプソン
「Brace For Impact (Live A Little) / ブレース・フォー・インパクト(リヴ・ア・リトル)」
(年間最優秀アルバム)
11. ANDERSON .PAAK / アンダーソン・パーク
「Am I Wrong Feat. ScHoolBoy Q / アム・アイ・ロング Feat. スクールボーイQ」
(最優秀新人賞)
12. DEMI LOVATO / デミ・ロヴァート
「Confident / コンフィデント」
(最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム)
13. ARIANA GRANDE / アリアナ・グランデ
「Dangerous Woman / デンジャラス・ウーマン」
(最優秀ポップ・パフォーマンス(ソロ)、最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム)
14. KELLY CLARKSON / ケリー・クラークソン
「Piece By Piece (Idol Version) / ピース・バイ・ピース(アイドル・ヴァージョン)」
(最優秀ポップ・パフォーマンス(ソロ))
15. LUKAS GRAHAM / ルーカス・グラハム
「7 Years / セブン・イヤーズ」
(年間最優秀レコード、最優秀ポップ・パフォーマンス(グループ))
16. CARRIE UNDERWOOD / キャリー・アンダーウッド
「Church Bells / チャーチ・べルズ」
(最優秀カントリー・パフォーマンス(ソロ))
17. KEITH URBAN / キース・アーバン
「Blue Ain’t Your Color / ブルー・エイント・ユア・カラー」
(最優秀カントリー・パフォーマンス(ソロ)、最優秀カントリー楽曲)
18. BRANDY CLARK / ブランディー・クラーク
「Love Can Go To Hell / ラヴ・キャン・ゴー・トゥ・ヘル」
(最優秀カントリー・パフォーマンス(ソロ))
19. THOMAS RHETT / トーマス・レット
「Die A Happy Man / ダイ・ア・ハッピー・マン」
(最優秀カントリー楽曲)
20. MIRANDA LAMBERT / ミランダ・ランバート
「Vice / ヴァイス」
(最優秀カントリー・パフォーマンス(ソロ)、最優秀カントリー楽曲)
21. TIM McGRAW / ティム・マグロウ
「Humble And Kind / ハンブル・アンド・カインド」
(最優秀カントリー楽曲)