文庫版『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』刊行記念企画

“解散”を迎えられたことは幸せなことでもあるーー『バンド臨終図巻』著者座談会

解散は“儀式”として大事なこと

大山:この本を頭から読むと、GSが始まった、バンドブームが始まった、という音楽の変遷も遠くに見えますね。

成松:デビュー年でまとめているから、誰と誰が芸能界的に兄さん姉さんなのかもわかるというのは面白いですね。邦楽と洋楽が並列になっているのも面白いと思います。解散の経緯をまとめて改めて思っているだけのことかもしれないし、これを初めて手に取って頂く方的には解散の理由に興味があるかもしれないですけど、再結成は増えた感じがします。

大山:僕が個人的に好きだったのは、栗原さんが書いた甲斐バンド。何度も何度も再結成してその度に『NEVER END TOUR』をやるというのには笑ったんですけど、頻繁な再結成が特別じゃなくなっていますよね。

栗原:昔に比べると、解散自体が少ないのかもしれないです。

速水:やっていることはバンドのフロントマンの個人活動でも、グループを存続したほうが名の通りも良いとなったら、解散する理由がないですもん。

大山:本人たちとファンが良ければ、解散しようと活動休止だろうか再開しようが自由なんです。
速水:ファンが続いてほしいと思うのは常だけど、ほとんど何もしないままファンクラブの会報だけ届いたり、ファンクラブだけ解散を決めたりするのが、一番中途半端。SMAPファンが本当に不憫でならないのは、区切りの気持ちの持って行き場がないというところ。せめて直接声が聞こえる場で解散しますという言葉を生で聞かないと成仏できませんよ。

大山:だからCDを買ったり新聞に広告出したりするしかないんですね。

速水:SMAPのベスト盤はファン投票で曲が選ばれましたけど、1位が「STAY」。悲痛です。

円堂:最近の解散ですごいなと思ったのは、モトリー・クルー。モトリー・クルーはドラムソロの時に、ドラムセットが回転する有名な演出があるんですけど、ラストライブでは最後の大仕掛けで、ジェットコースターが客席の上に伸びていて、そこをドラムセットが移動して観客の頭上で回転してました。

成松:だから、そうあるべきなんですよ。それ見たらファンも納得しますもん。

速水:ライブというより儀式に近い(笑)。

大山:活動休止でも解散でもどっちでも良いといった時に、解散を選ぶのは一種の男気でもある。
栗原:甲斐バンドみたいに完全終結宣言しちゃうと再結成したときに具合悪いですしね。

速水:そういえば、元19の2人が最近ラジオに出ていて、何で俺たち辞めたんだっけみたいな感じになってました。

大山:高齢化とも関係あるけど、年を重ねるとみんな丸くなって、もう一回やっても良いかなと思う人も大勢いるんでしょうね。ないだろうと思ったザ・ルースターズも再結成していますし、THE YELLOW MONKEYも再集結しました。今、解散や活動休止みたいなことがあると、ちょっとがっかりするけど、ある程度の年齢になったバンドだったら、またいつかあるかなとファンの皆さんは思うかもしれないですね。実際、再結成して細々とやっているバンドも多いです。フェスに出て、500ぐらいの規模でライブをやって……JUN SKY WALKER(S)もそうなんじゃないですかね。

速水:そうであるなら、いつかは高杢とフミヤが仲直りしてチェッカーズも再結成して欲しい。いや、高杢抜きでもいいけど(笑)。

大山:柴 那典さんがTwitterで『ヒットの崩壊』と『バンド臨終図巻』は相補完していると言っていました。特に再結成のトピックに関してはそうです。別にヒットとか関係ないし、スタジアムでやるとか、活動的に上り詰めていく必要もない。社会と関係なく100人のファン、信者がいればいつでも復活できるんですよね。

成松:ヒット曲が数曲あればフェスに呼ばれて、そこで一見の客をわーっと盛り上げることができたら、そこでまとまったお金が入ります。あとは、自分のライブを小さい箱でやって、物販と入場料でやっていけるんだったら、幸せじゃないですか。

大山:もちろん高齢化してみんなが丸くなるということもあるけど、バンドが置かれている環境自体が変わっていることが再結成多発につながっているんじゃないですか。

速水:すごいお金が動くわけでもないけど、みんなそれで納得いける額があるならやろうか、という存続の仕方ですよね。

円堂:極端な例だとグレッグ・レイクの晩年のソロ活動は、カラオケ流してギター1本で歌うだけでしたからね。演歌の流しみたいな状態。プログレって本来は高度な演奏が売りものなのに、そういう商売もありますからね。

栗原:ファンの忠誠心ってすごいですよ。何十年経っても見守り続ける人が必ずいる。

大山:そうやってスモールビジネスでも良いから活動を続けていくのが、今の音楽活動のモデルなんでしょうか。ひょっとしたらインディーズの若い子でもそういう子達がいるのかも。

成松:華やかな感じで、ちゃんとメジャーで活動しますというTHE YELLOW MONKEYのようなタイプの再結成バンドも減っていくんでしょうね。BiS的な、話し合いしてもう一回やろうぜ、戻ってきちゃいました、というノリで、でもちゃんとビジネスは維持していくというのが多いかもしれません。

速水:こうして考えても、やっぱりバンドの寿命は伸びてますよね。

栗原:特にロックに関しては現状の布陣がずっと変わらない可能性があるよね。20年先も『ROCKIN’ON』の表紙がローリング・ストーンズとかありえる。

速水:ビートルズはメンバー全員死んだらどうなるんだろう、とは思いますよね。死んでもまだまだビートルズビジネスは続くでしょうけど。

円堂:ジョン・コルトレーンとかが表紙になっていた、一時期のジャズ雑誌みたいになるのかな。
速水:マイケル・ジャクソンが死んでも、プリンスが死んでも、ビジネスとしては終わらせてくれない。『サザエさん』とか『ドラえもん』に近い存在になっている。

大山:興味があるのは、ジーン・シモンズが死んだ時に、“株式会社KISS”は残るのかですね。

円堂:残ると思います、そこらへんの話題は単行本のほうのコラムにちょっと書きました(文庫版には未収録だがこちらで読める)。まぁ、彼らの場合はメイクさえしちゃえばね(笑)。

大山:ビジネス面でも誰かが継ぐんですね。パフォーマンスだけじゃなくて。

栗原:バンドの死=ビジネスが終わった時ということなのでしょうかね。スケールの大きいバンドは利権が残るから。

成松:そう考えないと見誤る感じはありますね。ビートルズやローリング・ストーンズはメンバーが亡くなっても、ビジネスは半永久的に続く気がするので。

大山:成松さんが、単行本が出てから公式サイトに解散声明を出しているバンドを調べていたら、アクセスできなくなっているサイトがだいぶあったと言ってましたよね。それもひとつの死になるんでしょうか。

速水:切ないですね。レンタルサーバー費の支払いが、バンドの存在のすべての意味って言う。

成松:この本を書いておいてですけど、バンドの死って何をもって言うんでしょうね。

栗原:ビジネス的に死んでる大半のバンドは、解散じゃあ死ねないという。

速水:解散はやっぱり儀式として大事。まだ惜しんでくれるファンがいて、グループの実体があるからできるんだよね。その意味では、この本で取り上げた臨終しているグループは幸せかもしれない。

(取材・文=久蔵千恵、村上夏菜)

※初出時、一部表現に誤りがございました。お詫びして訂正いたします。

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