柴 那典の新譜キュレーション 第9回
The xx、The Japanese House、The fin......ロンドンと日本をつなぐ“夢想”の音楽
FOLKS「クロマキードーナッツ」(北海道)
地元である北海道・恵庭に拠点を置いて活動を続ける4人組バンド、FOLKS。今年6月に自主レーベル<FOLKS RECORD>を設立した彼らが、レーベル初のシングルとして12月23日にリリースするのがこの『クロマキードーナッツ / FIN.』。透明感のあるサウンドメイキングのセンスは変わらずに肝となっているが、ドラマティックな力強さのある「クロマキードーナッツ」に、軽やかなビートの「FIN.」と好対照になっている。冬になると雪に閉ざされてしまう地方ならではの想像力が音に息づいている。
Catching Flies「Komorebi」(ロンドン)
ロンドンに拠点を置いて活動するDJ/プロデューサーのキャッチング・フライズ。彼も、とてもドリーミーなサウンドを届けてくれるミュージシャンの一人だ。2013年にEPをリリースしてから鳴りを潜めていたが、久々に届いた新曲「komorebi」がいい。おそらくこれは「木漏れ日」のことなのだろう。まさに、秋から冬の寒い時期に澄んだ空気と枯れ木を通してキラキラと光るような、そんなイメージの音を鳴らしている。
ちなみに。「komorebi」は曲名だけど、最近のロンドンには、デビューアルバム『ウォーム・オン・ア・コールド・ナイト』をリリースし先日来日も果たしたエレクトロ・デュオの「HONNE」(本音)とか、エイサップ・ロッキーをフィーチャリングした「Love$ick」が話題を呼んでいるMURA MASAとか、日本語の名前をつけるグループが増えている。
これ、一体どういうことなのだろう? ザ・ジャパニーズ・ハウスもそうだし、今、ロンドンでは「日本」がクールということになっているのだろうか。
The fin.「Heat(Ten Fé Remix)」(神戸〜ロンドン)
というわけで、エレクトロニック・ミュージックとかインディ・ポップの一番新しくて面白いところを探っていったら、なんだか日本とロンドンが微妙につながってるかもよ? みたいな感じのことを思い始めている昨今。
その辺の空気感をきっと掴んでそうなのがThe fin.。神戸出身の4人組バンドとしてデビューした彼らは、今年になって拠点をロンドンに移している。11月25日には、彼らが3月にリリースしたEP『Through The Deep』のリミックス作品『Through The Deep Remix EP』を配信リリース。もともと輪郭のぼやけた気持ちよさを持つサウンドを鳴らしていたバンドだけれど、エレクトロニック・ミュージックの先鋭たちが手掛けたリミックスによって、さらに浮遊感が増している。
特に「Heat」のTen Féによるリミックスがいい。Ten Féもロンドンを拠点にするエレクトロ・デュオだ。何かありそうな気がする。
■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」/Twitter