クラウドファンディング『11周年11月11日のコースト公演を美しい映像で残す』インタビュー
THE NOVEMBERS、激動の2016年を振り返る「想像し、信じる力は現実をここまで変える」
THE NOVEMBERSが結成11周年となる今年11月11日、東京・新木場スタジオ・コーストで単独ライブを行なった。<MAGNIPH/Hostess>が立ち上げたレーベルへ移籍し(ホステスとしては初の邦楽アーティスト)、通算6枚目のアルバム『Hallelujah』を携えたパフォーマンスは、音と光が洪水のようにとめどなく押し寄せるような圧巻の内容であり、自らの美学をストイックなまでに貫き通してきた彼らの全てが注ぎ込まれたものだった。なお、この日の模様はクラウドファンディングで募った資金を元に映像化されることが発表されており、すでに目標金額を達成している。(参考:https://camp-fire.jp/projects/view/12463)
全てが順風満帆のような彼らだが、実はアルバム制作に入る前、ボーカル&ギターの小林祐介は深い絶望の淵にいたという。そこからどのように生還し、ここまでの傑作を作り上げることが出来たのだろうか。意外にもリアルサウンド初登場のTHE NOVEMBERS。メンバー全員に話を訊いた。(黒田隆憲)
「クラウドファンディングはある種の踏み絵」(小林)
ーー先日のライブは本当に素晴らしかったです。しかも、このタイミングで『Hallelujah』というアルバムが完成したことも感慨深いですよね。
小林祐介 (以下、小林):ありがとうございます。今回、アルバムにしてもライブにしても、自分たちで「特別なものを作る」と決めて、想像して、そこに近づけていくということを「確実に」やってきた結果だと思っています。これまでの作品は、その都度やりたいことをやりたいようにやり、結果的に「まぐれ」も含めていい作品を作って来られたと思うんですよ。でも今回は、「自分たちが想像したものに近づくにはどうしたらいいのか?」とか、「この作品を出すことで、自分たちはどんな未来へ行こうと思っているのか」とか、意図的に、具体的に、確信的にやれたなという手応えがありましたね。
ーー例えば、前作『Elegance』で土屋昌巳さんにプロデュースしてもらったことや、自主企画イベント『首』で刺激的なバンドと共演しながら培ってきたものも大きいですか?
小林:全て密接に繋がっていると思います。本当、振り返ってみるとこの1年間が濃密過ぎて...…。去年11月に新木場スタジオ・コーストでワンマンをやって、12月に『Elegance』を出したなんて信じられない(笑)。
ーー怒涛の1年でした。
小林:それに今年のコーストのライブは、クラウドファンディングを活用するというのが前提にあったので、これまでチャレンジしてこなかったようなことも、勇気を出してやってみました。撮影用のクレーンを入れたのも、そんなチャレンジの一つです。前回もコーストで映像作品を作っているんですけど(『“TOUR Romance"LIVE AT STUDIO COAST』)、それとは全く違う新たな視点を獲得することが出来ました。
ーーすでに目標金額を超える資金が集まりましたね。
高松浩史(以下、高松):みんなと一緒に(映像作品を)作るという趣旨に賛同してもらい、自分たちで思ってもみなかったような金額になったことは、ほんとうに嬉しいですね。
吉木諒祐(以下、吉木):CDを買ってくれたり、ライブを観にきてくれたりっていうことも、もちろん有難いことなんですけど、それとはまた違う形で、ここまで自分たちを応援してくれている人がいるということを確認できたのは、やってみて良かったと思っていますね。
小林:未来に対して先行投資するのがクラウドファンディングだから、お金を払って今すぐ手には入らないわけじゃないですか。それって、この先に起こることに対して「信じてくれている」っていうか。僕らが提示したものに「価値」や「意味」を見出してくれて、未来のためにお金を払ってくれているんですよね。それがすごく嬉しかったですね。あと、ビジネス的な視点で言えば、「こういうものを作ります」って言った時に、それをどのくらいの人たちが欲しいと思ってくれるのかが目に見えて分かるのは、僕らとしてもリスクが少なくて済みますよね。
吉木:自分たちらしい「リターン」の内容を考えられたのも良かったです。
小林:そこも結構、考えましたね。自分たちなりに「線引き」があって、そこから外れるようなものは出したくなかった。そこを守り通した上で、ちゃんと目標金額を達成できたのも嬉しかったんです。
ーークラウドファンディングに今後の可能性を感じましたか?
小林:これから大事なのは「いかに信頼関係を築けるか?」とか、「意味や価値を見出してもらえるか?」とか、そういうことでしかないとも思うんですよ。僕らとしても、「これだったら、相手の時間やお金を割いてでも納得してもらえる」と思えるものを出す。だからこそ当然、タダではやらないというか、そこまで言い切れるものであるのかどうか、ある種「踏み絵」みたいな部分もあるかもしれないですね、クラウドファンディングって。アーティストも試されるし、お客さんも試される。
ーー実際のライブなんですが、サウンドも照明も、こちらの時間感覚や平衡感覚までコントロールされるような感覚があって。
小林:(笑)。照明は、「ここぞ」という時にお世話になっている人にお願いしたんですけど、もう別格。ライブやっているこちらもテンションが上がる。
吉木:結構、演奏しながら面食らうことあるよね(笑)。「失神するかも...」って。
小林:なぜ、僕らがコーストというハコにこだわり、何度も挑戦しているのか。狭い会場で、お客さんの目と鼻の先で演奏する密接感、そこで叩きつけるようなギグも大好きだし、そこに見合う意味や価値っていうのもあるんですけど、僕らが今後「どのような未来へ向かいたいか?」というのを示すためには、今はまずコーストで美しい光景を提示するしかないし、それが自分たちに出来るかどうかが勝負どころだったんですよね。それを今回のチームで実現できたのは、すごく嬉しかった。
ーーなるほど。「集客力も増えてきたから、いっちょデカイところでやるか」っていう動機とは全く違うのですね。
小林:全く違いますね。広い空間で、たくさんの人がいる中、「広い音」を鳴らすっていうことが、もし今作で出来なかったらいつまでたっても出来ないだろうって思っていたし。これでようやく一段落し、新たなスタートが切れるという気持ちが今は強いですね。以前はコーストでワンマンをやるのが「一つの目標」みたいなところがあったんですけど、今はもうあくまでも「通過点」というか。早くその先へ行きたいです。
ーー以前、小林さんとマイ・ブラッディ・ヴァレンタインについて対談した時、彼らの「ノイズ」について感じたことを話してくださいました(http://www.ele-king.net/columns/003520/)。その後、3枚のアルバム制作(『Rhapsody in beauty』、『Elegance』『Hallelujah』)を経て、ノイズの捉え方、バンドでの取り込み方に変化はありますか?
小林:手法はどんどん、目的に見合うものになっていったと思います。例えば「この周波数帯域を担当するのは俺だ」とか、「この曲のこの部分はフルレンジで攻めるぞ」とか。そういうサウンドデザインが出来るようになりましたね。ただ闇雲に爆音を鳴らすのではなく、ちゃんと目的が絞られ、自覚的に鳴らすようになったと思います。そうすると、再現も可能なんですよ。「まぐれ」に期待しなくなった。
ーーサウンドデザインが明確になった分、高松さんと吉木さんのリズム隊もより前面に出てきて、グルーヴも強く感じるようになりました。
吉木:今年に入ってから、そこは決定的に違いますね。高松との助け合いが生じてきたなって(笑)。これまでは結構、「俺、追いてかれてる」って思うことがあったんですけど、高松のベースが寄り添ってくれているのを、最近はすごく強く感じて。「俺もベースに寄り添って合わせなきゃ」と思うようになりました。やっぱり、リズム隊が安定していれば、ギター二人が好きなように動けるし、それに対して「いいよ、暴れておいで」みたいな気持ちになる。それが頭でなく、体で感じられるようになりましたね。
高松:僕は、他でサポートを務めることも出てきたんですけど、それを経験してまたTHE NOVEMBERSに戻ってきたとき、プレイにはそれぞれクセがあることに気づいて。これまで11年間、一緒に演奏してきた吉木くんのクセみたいなものも、結構わかってきたし、これは自分の心境の変化なんですけど、「ドラムと一緒にグルーヴするのって楽しいな」って思えるようになりました。それと、今年になってライブにおけるメンバーの立ち位置が変わったこと(5月から9月まで毎月開催していた自主企画「首」ではステージ下手から小林、高松、吉木、ケンゴの順だった)も大きいです。リズム隊が真ん中にぎゅっと固まったんですけど、そのおかげで「あ、この人はこういう表情で演奏してるんだな」っていう新しい発見もあったりして。
ケンゴマツモト(以下、マツモト):立ち位置が変わったのはすごく大きかったね。
吉木:壁のようにギターアンプがそり立っているので、これまで顔が隠れて見られなかったんですよ(笑)。あと、僕もサポートをやって戻ってきた時、確かにグルーヴの違いを強烈に意識しましたね。
ーーそういう、各々の課外活動がバンドにフィードバックされて、そこで音楽性にも大きな影響を与えていたのかもしれないですね。
小林:うん、それはあります。