姫乃たま『音楽のプロフェッショナルに聞く』002 DARTHREIDER(ReiWordup)

姫乃たま、DARTHREIDERにラップのイロハ教わる「気持ちいいリズムを見つけるのが最初の作業」

Hook――ラップ入門

姫乃:ラップを始める前に、ラップとは何かを改めて整理したいですー。

DARTHREIDER:ラップは言葉をリズミカルに演奏する歌唱法です。リズミカルにするために言葉にアクセントをつけたいから、ラップでは韻を踏むんだね。正解はないから、自分にとって気持ちいいリズムを見つけるのがラップを始める最初の作業だと思います。ゆっくりがいい人も、早くやるほうがいい人もいる。言葉も自分が発して気持ちいいものを探す。最初に話したけど、ラップは情報量が多いからダイレクトに伝えたいことがたくさんあるなら便利だけど、言外に匂わせたいならベラベララップしないほうがいい。それは歌の技法として何を選ぶかの問題だから。それから、ラップはヒップホップ文化から生まれたけど、ラップ自体は歌の技法だからヒップホップに限らずどんなジャンルの音楽に乗せてもいいんです。

姫乃:リリックの内容はどうやって決めて、どうやって書き進めるんですか?

DARTHREIDER:ラップってやんなきゃいけないものではないから自分の考え……あ、アイドルとかはやんなきゃいけないこともありそうだねー。たとえば恋愛っていうテーマを与えられたらそのテーマに沿った単語をまず書き出す。ZEEBRAの「Perfect Queen」って曲は、最後が<愛してるぜ 結婚しよう>なんだけど、これが最初に思いついたら、ここまでどうやって持っていくかっていう考え方もある。僕もそうなんだけど、単語を書き出しつつ、頭から書いていく人もいるよ。「出会いは喫茶店で~」って書いて、うーん、喫茶店だったらなんだろう。「この出会いは一過性ではなく~」とかストーリーを作ることができる。漫画とか映画の台詞はメモってるよ。

姫乃:作詞と同じ感じなんですね。

DARTHREIDER:昔、杉作J太郎さんがL.L.COOL J太郎っていう名前でラップをした時は、先に書いてきてもらった歌詞を、僕が韻を踏めるように組み替えた。一回普通に文章を書いてから、ラップ用に直すっていうのもできるね。

姫乃:リリックができてから、ラップができるようになるためには、どうしたら……。

DARTHREIDER:リズムと同じくらい、ボキャブラリーを増やすことも大事。ボキャブラリーがないと手詰まりになっちゃうから。「あ」で音を揃えようと思った時に、これとこれがあるなってざっと出てくるのがいい。広辞苑を片っ端から覚えますっていうのもいいと思う。ニューヨークのラッパーでも、辞書引きながらラップしてる人いるし。ボキャブラリーは生活の中でも培えるから、育ちが下町だったらそこの言葉でやるのもいいと思う。基本的には自分にとって一番気持ちいいリズムって、普段喋ってる時のリズムなんだよね。とりあえずそれがとっかかりかな。

姫乃:ダースさんは英語だと特に際限なく単語が出てきますよね?

DARTHREIDER:英語は韻踏みやすいからねー。語尾で踏めるから、アクション、リアクション、センセーション……と無限に出てくる。韻を踏むことに適した言語。日本語とか韓国語っていうのは、また一工夫必要なんだけど、そこも楽しみのひとつだね。

姫乃:ラップの練習ってするんですか?

DARTHREIDER:するするする。一番練習してた時期は、目に入ったもので韻を踏むっていうのをやってた。

姫乃;そういえば以前、ビートがない状態で練習するとできた気になっちゃうって話していた気が。

DARTHREIDER:音がないと好きなタイミングでやっちゃうから、音と合わせた方が、言葉が足りなかったり、多すぎたりするのに気づく。こんなところに間があるのか、とか。あと速い速度でやるとうまくなった気になる。まあ、できた気になるのは大事だよ(笑)。

姫乃:練習しているうちに、自分らしいラップのスタイルが見つかるものなんでしょうか。

DARTHREIDER:うーん、そうだね。でも芸事はなんでも真似が大事だから、まず上手なラップを真似するのは大事かも。息を吸うタイミングとか、強く発音する箇所がわかるから。格好良いなって思うのは、自分のセンスに合う何かがあるってことだから、真似したうえで、自分に置き換えるといいね。最初はそのままになっちゃうかもしれないけど、自分なりに翻訳していくうちに自分のものになっていく。この人はここで息してるけど、自分は無理だなって気づくしね。

姫乃:ダースさんっていつラップ作ってるんですか?

DARTHREIDER:なんだろうねー。でもラップはすぐできちゃうからなあ。

姫乃:すぐできるかなあ。

DARTHREIDER:そこに山があるからじゃないけど、ラップで表現したいからね。向いてるからやるとか、向いてないからやらないとか、それより前にやりたいって気持ちがあると思う。

Outro――フリースタイルバトル入門

DARTHREIDER、姫乃たま

姫乃:しかしフリースタイル流行ってますねえ! 最近、居酒屋とかで隣の席のお兄ちゃん達がラップ始めたりしますもん。

DARTHREIDER:最近は10代の子も本当に上手いよ! 中学生もやるし、それ見て小学生もやるしね。「フリースタイルダンジョン」が始まってからは、会社員もラップするし、すごいよね。

姫乃:えー、それでフリースタイルというのはーー。

DARTHREIDER:即興演奏なんだけど、本当にその場で言葉を出す人もいるし、もともと自分が持っているフレーズを出す人もいる。その場で言葉を出すことをトップオブザヘッドって言うんだけど、自分が持っている得意な歌い回しをその場の音楽に合わせて演奏するのがフリースタイルラップ。みんなで輪っかになって、ラップを回していくっていう文化が2000年代にハチ公の前で始まって、誰でもラップできるようになったね。

姫乃:しかし、誰でもといっても、フリースタイルバトルってまったくできる気がしないですよ……。

DARTHREIDER:ほらでも、たまちゃんも今喋ってるじゃん。僕が言ったことに対して、その場で言うことを決めてるわけだから、あとはそれを外に出す時に音を合わせればできるよ。それはトレーニングが必要だけど、でも頭の回転って自分でも思ってるより速いと思う。言われたことにすぐ応えられるしね! 小学生でもラップができるのは意識の問題で、特別な人じゃないとできないことではないよ。足の速い人と遅い人がいるように、得意な人とそうじゃない人がいると思うから、すごいラップがしたいなら練習は必要だけど、ただラップをするだけならば誰でもできる。

姫乃:ふむー、そっか。自分らしい言葉を使ったほうがいいって言ってたし、ラップって思ったより生活の延長線上にあるんですね。

DARTHREIDER:いまは「三枚おろし」って言葉が流行ってるんだけど、普段から三枚おろししてる人ならいいんだけど(笑)。お前してないだろう! っていう奴が言うからリアルじゃなくなっちゃうんだよね。流行りの言葉を使ってるのは、まだ真似の段階。この言葉を自分に置き換えたら何だろうって考えたほうがいい。「お前のささくれ剥いてやる!」とかさ、わかんないけどさ(笑)。

■姫乃たま(ひめの たま) 地下アイドル/ライター

1993年2月12日、下北沢生まれ、エロ本育ち。アイドルファンよりも、生きるのが苦手な人へ向けて活動している、地下アイドル界の隙間産業。16才よりフリーランスで地下アイドル活動を始め、ライブイベントへの出演を軸足に置きながら、文筆業も営む。そのほか司会、DJとしても活動。フルアルバムに『僕とジョルジュ』があり、著書に『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)がある。

■DARTHREIDER a.k.a. ReiWordup

77年フランス、パリ生まれ。ロンドン育ち東大中退。Black Swan代表。マイカデリックでの活動を経て、日本のインディーズHIPHOP LABELブームの先駆けとなるDa.Me.Recordsを設立。自身の作品をはじめメテオ、KEN THE390,COMA-CHI,環ROY,TARO SOULなどの若き才能を輩出。ラッパーとしてだけでなく、HIPHOP MCとして多方面で活躍。DMCJAPAN,BAZOOKA!!!高校生RAP選手権、SUMMERBOMBなどのBIGEVENTに携わる。豊富なHIPHOP知識を元に監修したシンコー・ミュージックのHIPHOPDISCガイドはシリーズ中ベストの売り上げを記録している。
2009年クラブでMC中に脳梗塞で倒れるも奇跡の復活を遂げる。その際、合併症で左目を失明(一時期は右目も失明、のちに手術で回復)し、新たに眼帯の死に損ないMCとしての新しいキャラを手中にする。2014年から漢 a.k.a. GAMI率いる鎖GROUPに所属。レーベル運営、KING OF KINGSプロデュースを手掛ける。ヴォーカル、ドラム、ベースのバンド、THE BASSONSで新しいFUNK ROCKを提示し注目を集めている。

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