矢野利裕のジャニーズ批評
KinKi Kidsには“歌謡曲”が息づいている 『N album』で示されたグループのありかた
歌謡曲でありつつ、最新の音楽でもあること。それはすなわち、KinKi Kidsのありかたそのものと重なっている。単にまかされている曲数が多いから功労者なのではなく、吉井と同様、彼の楽曲がKinKi Kidsのありかたをよくつかんでいるからこそ、堂島孝平は『N album』における功労者なのだ。ちなみに、アウトプットされるサウンド自体は少し異なるが、これは、堂島による西寺郷太とのアイドルユニット、Small Boysの影響もあるのかもしれない。いちリスナーとして外から眺めていると、ジャニーズ音楽の熱烈なファンである西寺との活動が、アイドルにおける音楽がどのようにあるべきか、ということを意識的にさせたような印象もある。
というか、素朴なことを言ってしまうが、大事なのは対象への愛なのだろう。漏れ伝わってくる感じだと、堂島のKinKi Kidsに対する愛はとても強く深い。そういう人が、これまでのKinKi Kidsと向き合ったうえで繰り出した一手。そういう一手は、おうおうにして強いのだ。
■矢野利裕(やの・としひろ)
1983年、東京都生まれ。批評家、ライター、DJ、イラスト。東京学芸大学大学院修士課程修了。2014年「自分ならざる者を精一杯に生きる――町田康論」で第57回群像新人文学賞評論部門優秀作受賞。近著に『SMAPは終わらない 国民的グループが乗り越える「社会のしがらみ」 』(垣内出版)、共著に、大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)、宇佐美毅・千田洋幸編『村上春樹と一九九〇年代』(おうふう)など。