武田と哲也は“ぽっと出の企画ユニット”ではないーーソウル・ファンクへのあふれる愛とセンス

 CHAGE&ASKA、コブクロ、テゴマス、ハルカトミユキ、井上陽水奥田民生・・・最後の例は「ユニット名」と呼んでいいか微妙なところではあるが、「メンバーの名前を並べた、もしくはもじったグループ名を持つ2人組ユニット」というのは音楽シーンにおける一つの潮流として昔から存在する。グループ名がそのグループのやりたいことや活動におけるメッセージをこめるものだとすれば、そのグループの構成要素であるメンバーの名前をそのままグループ名にするというのは自身のアイデンティティを表明するうえで最もストレートな手段と言って良いはずである。

 Skoop On SomebodyのTAKE(武田雅治)とゴスペラーズの村上てつや(村上哲也)による2人組「武田と哲也」も、そんな「メンバー名がグループ名」の系譜に連なるユニットである。武田さんと哲也さんが組んだグループだから、武田と哲也。前段の話に寄せて考えれば、何もおかしい部分はない。ただ、このユニット名からはどうしてもあの人を思い浮かべてしまうし、正直「もうちょっと他になかったのか」という気持ちにならざるを得ない。

武田と哲也 「LOVE TRACKS」トレーラー

 ただ、この武田と哲也、ぽっと出の企画ユニットではない。鈴木雅之、ゴスペラーズ、Skoop On Somebodyが中心となって開催されているライブイベント『SOUL POWER』での交流を経て結成されたのが2006年。このふざけた(とあえて言わせていただきます)ユニット名は鈴木による命名とのことだが、そんな名前にかこつけてか彼らの初めての音源は海援隊「母に捧げるバラード」のカバー(鈴木雅之とゴスペラーズの黒沢 薫によるユニット、エナメル・ブラザーズのシングルに収録)。非常にシャレが効いている。それ以降、音源のリリースはないながらもユニットとしてのライブを行い人気を博してきた。ライブでのレパートリーは必然的にカバー曲が中心となっていたが、そこで歌われていたのは鈴木雅之、久保田利伸、アイズレー・ブラザーズ、ロバータ・フラック、アース・ウィンド&ファイアー、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、ジェームス・ブラウンなど。つまり、彼らはここまでの活動を通じてソウルやファンクの歴史を辿っていくような取り組みを継続的に行ってきたと言える(彼らの企画ライブのタイトル『シルクの似合う夜』もアイズレー・ブラザーズの楽曲からつけられたものである)。

 そして結成10周年となる今年の10月5日、武田と哲也としてのデビューミニアルバム『LOVE TRACKS』がいよいよリリースされた。収録されているのは6曲のオリジナル曲(初回生産限定盤には追加で3曲のライブ音源が収録されている)。アルバムの幕開けを飾るのは、90年代のSMAP的な世界観を思わせるニュージャックスイング風味のトラックをバックに2人の力強いボーカルが交互に堪能できる「EASY LOVE」。2曲目の「NITE CRUISE」はタイトル通りのムーディーなバラードで、サビあたまで楽器がぐっと抑えられてボーカルが際立つアレンジから2人の歌唱力への自信が伝わってくる。続く「LADY CANDLE」は同じバラードでもより自由な雰囲気が印象的。フェイク気味の歌唱を基調にしながら、ウィスパーボイスから情熱的なシャウトまで様々な技が繰り出される。アイズレー・ブラザーズのJポップ的解釈とでも言うべき「4U」は今作随一の気持ち良さで、このスムースな感じはマルーン5にだって負けていないのでは。ゴスペラーズ「告白」「Get me on」あたりとのリンクも感じられる妖艶なムードの「LOVE SOUND」を経て、ラストナンバーは今作における唯一の2人の共作曲となる「HEAVEN」。浮遊感のあるミディアムテンポの楽曲が余韻を残しながらアルバムを締めくくる。

 『LOVE TRACKS』は彼らがこれまでもライブで表現してきたソウルやファンクへの愛が存分に詰め込まれた作品である。「ソウル・ファンクテイスト」というのは昨今のJポップにおけるちょっとしたトレンドになっている流れでもあるが、そんな中でも武田と哲也が異彩を放っているのは、サウンドだけでなくボーカルにまでソウルフィーリングがしっかりと溢れている点である。パワフルな中低音からスイートなファルセットまでオールマイティでこなす哲也と、安定した発声をベースとしながらも中音域から高音域に移行するところで切なさ成分が増幅する武田。ともにソウルテイストの楽曲を歌わせれば日本でも有数のボーカリストであり、そんな二人が組んでいるユニットだからこそ単に心地よいだけではない聴きごたえのあるアルバムになっている。一方で、歌が前面に出ている作品でありながらも「圧倒的な歌唱力を力技で押し付ける」というような構造に陥らずにバランスの良いポップミュージックとして着地しているところに、ゴスペラーズとSkoop On Somebodyというそれぞれの活動母体で長年このジャンルの音楽と向き合ってきた彼らならではのセンスを感じることができる。

 シーンの流れと絶妙にリンクしながらも、付け焼刃ではないリアルなソウルミュージックを聴かせてくれる武田と哲也。「変な名前のお遊びユニット」と侮れない存在感を放つ2人の今後の活躍に期待するとともに、『LOVE TRACKS』が一部のボーカルグループ好きだけでなく幅広いタイプの音楽好きの耳に届くことを願いたい。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。

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■ライブ情報
『SOUL POWER presents “シルクの似合う夜 part5”』
2016年10月5日(水)東京・ディファ有明
OPEN18:00/START18:30
2016年10月6日(木)Zepp Nagoya
OPEN18:00/START18:30

全席指定¥5,800(税込・ドリンク代別)

2016年10月5日(水)
東京・ディファ有明『SOUL POWER presents “シルクの似合う夜 part5”』終演後21:00~予定
2016年10月6日(木)
愛知・Zepp Nagoya『SOUL POWER presents “シルクの似合う夜 part5”』終演後21:00~予定
<イベント内容>
ハイタッチ会
※LIVE入場には別途チケットが必要になります。
※LIVEのチケットをお持ちでない方も、ハイタッチ会にはご参加頂けます。
<イベント参加方法>
下記対象商品に封入されているイベント参加券をお持ちの方を対象に、ライブ終了後武田と哲也とのハイタッチ会にご参加頂けます。1枚に付き年齢に関係なく1名様がハイタッチ会に1回ご参加頂けます。ハイタッチ会は列が途切れ次第終了、またはイベント開始から1時間半後においても列が続いている場合でも終了とさせて頂きますので予めご了承ください。

2016年10月7日(金)
兵庫県・阪急西宮ガーデンズ4Fスカイガーデン 木の葉のステージ18:30~
<イベント内容>
ミニライブ&ハイタッチ会
※ミニライブの観覧は無料となっております。
<イベント参加方法>
下記対象商品に封入されているイベント参加券をお持ちの方を対象に、ミニライブ終了後武田と哲也とのハイタッチ会にご参加頂けます。1枚に付き年齢に関係なく1名様がハイタッチ会に1回ご参加頂けます。ハイタッチ会は列が途切れ次第終了とさせて頂きますので予めご了承ください。

■リリース情報
『LOVE TRACKS』
発売:10月5日(水)
価格:初回生産限定盤(CD+DVD)¥3,000+税
※三方背スリーブ仕様
通常盤初回仕様(CD)¥2,000+税

<初回生産限定盤 CD収録内容>
全9曲収録
M1. EASY LOVE
M2. NITE CRUISE
M3. LADY CANDLE
M4. 4U
M5. LOVE SOUND
M6. HEAVEN
M7. 新大阪(LIVE)
M8. Nice’n Slow(LIVE)
M9. 母に捧げるバラード(LIVE)
※LIVE @ Zepp Sapporo(2008.9.16)

<DVD収録内容>
特典映像『武田と哲也のBBQ打ち上げ』

<通常盤 CD収録内容>
全6曲収録
M1. EASY LOVE
M2. NITE CRUISE
M3. LADY CANDLE
M4. 4U
M5. LOVE SOUND
M6. HEAVEN

■関連リンク
武田と哲也オフィシャルホームページ

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