Spotify、Apple Music、TIDAL…世界の音楽配信ここまで進んだ 各サービス現状と日本での展望

 最後はSpotifyだ。定額配信の最大手として、有料ユーザーを3000万人以上を抱えるSpotifyで注目しておきたいのは、「プレイリスト」文化の先駆者ということだろう。

 ミックステープのようにトラックを並べるプレイリストは、各サービスがすでに導入済みで、日本でも体験した人は多いはず。Spotifyのプレイリストは、音楽として流通させようとする音楽業界の考えから一步先を進み、現実世界の中まで拡張させている。

 毎週月曜に更新される「Discover Weekly」は、Spotifyユーザーに自分に合った30曲をSpotifyが個別にセレクトしてくれる、テーラーメイドの音楽発掘ツールだ。2015年からすでに50億曲をDiscover Weekly内だけで配信している。

 月曜にアプリを開けば、毎週違った曲が用意されてる、まるで自分のテイストを熟知しているレコードショップに足を運んだような気分に浸れる、気の利いたサービスだ。

 運動好きのSpotifyユーザーは、「ランニング」プレイリストを使えば、走る速度に併せて曲のテンポが自動調整され、高揚感ある曲が次々と再生される。スマートフォンの加速度センサーを活用して音楽とテクノロジーのメリットを引き合わせたこの手法は、まさにSpotifyが提示する未来のプレイリストと言える。

 これ以外にもゲーム好きや、親子で聴くための子供向けプレイリストを用意する。プレイリストが、ただ音楽を聴くだけのリストというイメージを覆している。Spotifyのプレイリストは、今風に言えば「体験」中心で音楽とユーザーをつなぎ、音楽の聴き方のデザインを変えた。

 Apple Music以外は日本では未だに利用ができないため、その存在感を体験することはできないが、音楽好きならアーティストやメディアのニュースですでに目にすることができる。大きな分岐点となりそうなのが、今アメリカで起きているYouTubeと音楽業界の対立かもしれない。プロモーション面などでは貢献するものの、収益面でアーティストやレーベルのメリットが低いYouTubeに対する風当たりが厳しくなり、これまでの関係が崩れれば、定額配信を支持する声もアーティストたちから高まるだろう。

 日本でも定額配信への関心や普及も加速の方向に向かうかもしれない。

 日本では、定額配信の違いが分からない。機能性に差がない、とよく言われる。しかし、実際にはアプリの機能やデザインだけでは伝わらない大きな違いがあり、急速に現実世界へと進出しながら、音楽の作り手とリスナーの距離を世界レベルで縮めている。かつてカセットテープやMTVが音楽の聴き方を変えてきたように、これからApple Music、TIDAL、Spotifyが日本や世界の人々の音楽の聴き方を変えていく代表的なスタイルとなっていくとすれば、それはどれだけ現実世界とリンクできるかがカギになっていくはずだ。

■ジェイ・コウガミ(All Digital Music
デジタル音楽ジャーナリスト。音楽テクノロジー・ブログ「All Digital Music」編集長。「世界のデジタル音楽」をテーマに、日本では紹介されないサービスやテクノロジー、ビジネスの最新トレンドを幅広く分析し紹介する。オンラインメディアや経済誌での寄稿のほか、テレビ、ラジオなどで活動中。デジタル音楽ビジネスに関する講演や企画に多数携わる。

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