西野カナの凄みは「企画×キャッチコピー」にあり “恋愛ソングの女王”の徹底した作品づくり

参考:2016年7月18日~2016年7月24日週間CDアルバムランキング(2016年8月1日付)(ORICON STYLE)

 前回の原稿(参考:前田敦子は原田知世や柴咲コウのような存在に? 女優を生業とするシンガーの系譜)で前田敦子について「女優としての地位を確立しながら音楽的にも聴きどころのある作品を発表している原田知世や柴咲コウのような存在に彼女がこの先なっていくことを期待したい。」と書いたが、最新のオリコンチャートにはその柴咲コウのカバーアルバム『続こううたう』が10位に初登場。昨年6月にリリースされた『こううたう』の続編となる今作だが、その前後のシングルでは椎名林檎作詞作曲による荘厳な雰囲気の「野性の同盟」やandropの内澤崇仁とのタッグでスペイシーなロックサウンドにチャレンジした「ラブサーチライト」など意欲的な作品を出していたわけで、そういった流れをぶった切ったうえで「無難」としか言いようがないカバー作を続けてリリースしたのにはどんな意味があるのだろうか。カラオケの域を出ないこの手の作品も多い中で『こううたう』『続こううたう』ともにアルバムとしてのクオリティは間違いなく高いのだが(『こううたう』のフジファブリック「若者のすべて」は同曲のカバーの中でおそらく一番出来が良いものだったし、『続こううたう』に関しては星野源「夢の外へ」のカバーが特に素晴らしかった)、このまま「カバー歌手路線」に行ってしまうのはあまりにも惜しい。願わくば「invitation」(2006年)や「Prism」(2007年)といったあたりで見られた「アップテンポの曲にストリングスをガンガンかぶせる“ザ・J-POPサウンド”」の更新を期待したいのだが・・・

 思わず柴咲コウの話で熱くなってしまったが、今回取り上げるのは初登場1位の西野カナ『Just LOVE』。「もしも運命の人がいるのなら」「トリセツ」「あなたの好きなところ」というヒット曲を収録した今作は(ちなみにこの3曲のオリコンでの成績はそれぞれ11位、6位、5位と意外に振るわず。「CDを買わない層」からの支持の大きさが窺えて興味深い)、2014年11月リリースの前作『with LOVE』に引き続きの首位獲得となった。

 『LOVE one.』『to LOVE』『Thank you, Love』『Love Place』『with LOVE』『Just LOVE』。これまでに彼女が発表してきたオリジナルアルバム6作のタイトルを並べてみたが、この徹底ぶりは恐れ入る。「恋愛ソングの女王」という看板に偽りなし、アルバムのテーマは徹底して「LOVE」。今作でも恋愛における様々なシーンが描かれており、「君が好き」という今までありそうでなかったストレートなタイトルの楽曲も収録されている(ちなみに前作『with LOVE』には「好き」という楽曲があった)。

 「会いたくて震える」という斬新なフレーズを例に挙げるまでもなく、西野カナの作品はその歌詞が話題になることが多い。ただ、個人的な印象として、彼女の凄みは「歌詞」というよりは「企画×キャッチコピー」というある種広告代理店的な部分にあるように思える。昨年大きな注目を集めた「トリセツ」についても、歌詞を書くにあたって複数の男女に「あなたの取扱説明書を書いてください」というアンケートをとったらしい。この曲に限らず歌詞を作る前に「コンセプトメイク→リサーチ」というプロセスを踏むことが多いようで、私小説的なスタンスから離れたところで「大衆の声」を汲み取れるところに彼女のユニークさがある。

 「アンケートをもとに歌詞を作る」などと言うと、「良識派の音楽ファン」が顔を真っ赤にして怒り出しそうである。それでは、「広告代理店」ではなく「ミュージシャン」としての西野カナはどんな存在なのだろうか。「トリセツ」に関するエピソードについて語られていたオリコンでのインタビュー(http://www.oricon.co.jp/special/49159/)には興味深い発言がいくつかある。

「(『Just LOVE』は)ちょうど、普段聴く音楽の趣味も変わっていた時期で、そういう私の“今”がすごく反映されたアルバムになっています。いつもストックがない状態で曲を作るので、年齢ごとに思うことも変わってきていて」

「(『with LOVE』収録の「Darling」は)当時はカントリーをよく聴いていたので、趣味の延長みたいな感じで作った曲」

「最新のクラブヒットチャートなんかも全部チェックするし、海外の音楽も、英語圏に限らず、もっといろんな国で流行ってる音楽も聴きたいと思うから、そういうときはひたすら調べたりすることもあります。でも最近って、チャートの傾向とかあんまりない気がします。いろんなジャンルが入り乱れていて、何でもあり」

 ここから垣間見えるのは、自らいろいろな音楽を聴いてその感触を自身の作品に反映させている「普通のミュージシャン」の姿である。『Just LOVE』においても、ハイファイなダンスチューンと「Darling」で自分のものにしたオーガニックな感触を持つ楽曲という2つの方向性がうまい具合に同居しており、ポップアルバムとして聴き心地の良いものになっている(各曲の作曲・編曲に彼女のクレジットはないが、インタビューを読む限り作品の方向性への関与度は高いと思われる)。そう言えば「Darling」リリース時に一部ミュージシャンから「西野カナの曲いいよね」という声があがっていたこともあったが、「企画性」に隠れがちな部分ではあるものの彼女の作品が音楽的な品質の高さを担保しているというのは見逃せないポイントである。

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