toddle 田渕ひさ子が語る、楽曲とリスナーの“距離感”「何も装わず、そのまま素直に表現している」

toddle 田渕ひさ子が語る、楽曲とリスナーとの距離感

 bloodthirsty butchersやLAMA等で活動する田渕ひさ子(G&Vo)、小林愛(G&Vo)、江崎典利(Ba)によるtoddleが約5年ぶりとなるフルアルバム『Vacantly』を完成させた。’90年代のオルタナ・ミュージックのテイストをちりばめながら、前衛とポップを自由に行き来するようなアンサンブル、穏やかで美しいメロディラインがひとつになった本作は、活動スタートから10数年を経て辿りついた最高傑作と言っていいだろう。

 今回Real Soundではバンドリーダー/ソングライターの田渕ひさ子にインタビュー。アルバム『Vacantly』の制作プロセスを軸にしながら、楽曲に対する独特のアプローチ、緩やかでいてビシッと筋が通ったバンド観について訊いた。(森朋之)

「メンバーそれぞれが考えてくれればいい」

ーー約5年ぶりのアルバム『Vacantly』、これは名盤ですね!

田渕ひさ子(以下、田渕):お、やったー。メンバー以外の人の感想を聞くのは今日が初めてなので、嬉しいです。

ーー90年代のオルタナの雰囲気を色濃く感じさせつつ、全体を通して質の高いポップミュージックとして成立していて。世代で区切るわけではないですが、40代の自分にとっても超ストライクでした。

田渕:世代もあるかもしれないですよね。“いいもの”の感じる共通点がどこかにあるというか。メンバーも大体、同じくらいの年齢なので。

ーーまずは前作『The Shimmer』以降の5年間について聞かせてください。2014年にはUSのインディーバンド、QUASIの日本ツアーに参加するなど、ライブ活動はずっと継続していましたよね。

田渕:そう、ライブはひっきりなしにやってたんですよ。“この時期はライブ、この時期はレコーディング”みたいに計画的に考えたりはしてなくて、ライブに誘われて「あ、いいね。おもしろそう」って出演させてもらったり、自分たちの企画(ライブ)をやったりしてたっていう。アルバムも3年前くらいから「そろそろ作ろうよ」と言ってたんですけどね。毎年「今年中には!」と言いながら、ずっとライブをやってる感じでした(笑)。ドラムが抜けたのも大きかったんですよね(2014年2月にドラマーの内野正登が脱退)。その後もサポートのドラムの人とライブを重ねて、お互いのプレイのなかで歩み寄って、少しずついい感じになってきて。結果的には(アルバムの制作は)このタイミングがいちばん良かったんじゃないかなと思ってます。無理にやってもしょうがないですからね。

ーー機が熟すのを待つというか。

田渕:まあ、メンバーそれぞれの仕事のペースもありますからね。toddleにどれだけ時間が割けられるかというのもマチマチだったりするので。メンバーにストレスがかかるのもイヤなんですよ。もし「スタジオ行くのイヤだな」とか「今日、ライブ行きたくないな」って思ってたら、悲しいじゃないですか。みんながtoddleを楽しんでくれてたら嬉しいし……ライブのときにメンバーをチラッと見て、楽しそうに演奏してたらこっちも嬉しくなるんですよ(笑)。それはずっと思ってますね、結成当時から。ライブのブッキングやジャケットのアートワークなんかは分担してやってるんですけど、それぞれがtoddleを楽しむために努力してるって感じなのかな。

ーー大人ですね。

田渕:そう、みんな、いい大人なので(笑)。いろいろなことを経て、いい大人になったということですね。

ーー音楽的な方向性についてはどうですか?

田渕:いつもそうなんですけど、コンセプチュアルなものを掲げて、そこに向かっていくというよりも、「やってみたらこうなった」というほうが大きいんです。メンバーもすごく個性的ですからね。たとえば私が曲のもとになるデモを持っていっても、感じることはバラバラだと思うんですよ。私から「○○っぽくしたい」なんて絶対に言わないし、それぞれが考えてくれたことを、そのままやってくれればいいんじゃないかなって。実際、曲作りのなかで「それは違うな」って思うことはないんです。ほとんど「あ、いいね」って。

ーー音楽的な感性が限りなく近いんでしょうね。

田渕:バンドを始めるときに「この人だったら」ってすごく考えて誘ってますからね。「その人が出してきたものだったら、OK」という感じに最初からなっているというか。曲を作るときもメンバーを頭に浮かべてるんです。だから「この人には合わないな」というものは出てこないんですよ。もちろん好きな音楽が重なってる部分もあるし、あとは「これ、おいしいね」みたいなことだったり、冗談が通じるとかもけっこう大事で。もしかしたら私に合わせてくれてるのかもしれないですけどね(笑)。みんな優しいから。

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