「宗像明将の現場批評〜Particular Sight Seeing」第27回 『寺嶋由芙 Solo Live 2016 〜わたしになる〜』

寺嶋由芙の努力はついに結実したーー25歳生誕ライブで起きた“ちょっとした奇跡”について

 グループ・アイドル全盛の現在のアイドル・シーンを少しでも知っている人なら、ソロ・アイドルがライブの動員を増やしていくことがどれほど困難なことか知っているだろう。正直なところ、25歳にしてソロでの動員記録を更新したアイドルの姿には驚かされたし、開演前に人で埋まった会場を眺めながら勝手に感極まってしまった。

 それは2016年7月8日、寺嶋由芙の25歳の誕生日に新宿BLAZEで開催されたワンマンライブ『寺嶋由芙 Solo Live 2016 〜わたしになる〜』で起きたちょっとした奇跡だ。いや、必然だったとも言えるだろう。

 寺嶋由芙は、2016年6月1日からディアステージに移籍したばかり。そして、2016年5月27日〜29日(前夜祭も含む)に開催されて、いろいろな意味で話題になったイベント『ガールズ・ポップ・フェスティバル in 淡路島』での奮闘ぶりが、BuzzFeed Japanの記事「ヒドすぎて伝説となった淡路島のフェスで、『女神』になったポジティブアイドル」で紹介され、大きな反響を呼んだ中でワンマンライブを迎えた。

 

 寺嶋由芙という人は、常軌を逸したゆるキャラ好きではあるが、奇をてらった活動をしているわけではない。どういう状況に陥っても、怒りや嘆きをほとんど表に出すことなく、笑顔とユーモア(それは多少の毒を含んでいることもある)とともに対応してきた人だ。そうした寺嶋由芙のスタンスが、ワンマンライブ直前にバズっていたことは、これまでの彼女の活動が評価されたようなものだった。淡路島からの追い風を生み出したのは、それまでの寺嶋由芙の姿勢そのものだったのだ。

 開場の様子を見ていて驚いたのは、女性の多さだった。そして、ゆふぃすと(寺嶋由芙のファンの総称)は謎の風船をフロア後方に大量に持ち込んで隠し、その後はシュッシュッと空気を入れる音が鳴っていた。そうしている間にフロアは満員に。新宿BLAZEは、寺嶋由芙のソロ・キャリアで最大キャパシティの会場だったのだ。

 

 「ゆっふぃー」という寺嶋由芙の愛称をゆふぃすとがコールし、手拍子を打つ中で会場が暗転。バナナラマの「ヴィーナス」が流れる中、白をベースにした新衣装を着た寺嶋由芙がステージに登場した。

 かつて在籍していたグループを脱退した寺嶋由芙が、ソロ・アイドルとしてステージに戻ってきたのは、2013年10月22日に渋谷duo MUSIC EXCHANGEで開催された「アイドル・フィロソフィー Vol.3」だった。そのときのオリジナル曲はわずか4曲。その1曲である「サクラノート」は、後に歌詞と曲名を変更して、ソロ・デビュー・シングルになる。それが、この日の1曲目「#ゆーふらいと」だった。<理不尽も なれっこだって / ねぇ 笑えるよ>という歌詞を書いたのは、でんぱ組.incの夢眠ねむ。それから約2年後、寺嶋由芙がでんぱ組.incと同じディアステージへ移籍することを当時の私たちは知らない。

 2曲目の「ふへへへへへへへ大作戦」は、大森靖子による歌詞が、rionosが作編曲したナイアガラ・サウンドとともに歌われる楽曲。rionosによるストリングス・アレンジが冴えまくっているサウンドでもある。rionosは、最近では花澤香菜の「あたらしいうた」でもストリング・アレンジを担当していた。

 そして、MCを挟んで「猫になりたい!」を歌い、いきなり新曲の「オブラート・オブ・ラブ」へ。初めて聴く新曲のはずなのにMIXを打つゆふぃすとに感心してしまった。この「オブラート・オブ・ラブ」は、「#ゆーふらいと」と同じく夢眠ねむが作詞。作編曲はミナミトモヤで、夢眠ねむとミナミトモヤの顔合わせには、かつてミナミトモヤがでんぱ組.incのために作曲した「電波圏外SAYONARA」の存在を思い出した。「オブラート・オブ・ラブ」は、初披露でも一気にフロアが湧きあがるような楽曲だ。

 「カンパニュラの憂鬱」とMCを挟んで、またも初披露の新曲「101回目のファーストキス」へ。真部脩一が作詞作曲した美しいミディアム・ナンバーだ。曲目は松浦亜弥の名曲「100回のKISS」をもイメージさせる。優しくも複雑なメロディーだが、ひとつひとつの音、言葉にニュアンスを込めながら繊細な歌唱をする寺嶋由芙に聴きほれた。そして、rionosの編曲による管弦楽器の音色のオーケストレーションも素晴らしい。1980年代のアイドル歌謡を彷彿とさせながらも、2016年のアイドルポップスとしての新鮮さをあわせもっている稀有な楽曲だ。

 続く「まだまだ」も初披露の新曲。ヤマモトショウが作詞作曲、rionosが編曲した楽曲で、ギター・ソロに合わせて寺嶋由芙がギターの弾きまねをする振り付けも新鮮だった。そして、続く「ねらいうち」もヤマモトショウが作詞作曲した楽曲で、アップ・ナンバーが2曲続くことに。

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