MYTH & ROIDが語る、アニソンの理想形 「わかりやすさの中で個性を出すこと」

MYTH & ROIDが語る、アニソンの理想形

【MV】MYTH & ROID「STYX HELIX」Music Clip ショートVer.

「今までない価値観を美とするやり方に挑戦」(Tom-H@ck)

ーーそういった仕掛けが多々用意された「STYX HELIX」ですが、実はコード進行はすごくシンプルなものですよね。そこは既存のアニソンとはちょっと違うなと思うんです。

Tom-H@ck:かもしれないですね。わかりやすさという意味ではかなりわかりやすく作ったと思います。しかも洋楽的なシンプルさというよりは、90年代後半や2000年代初頭のJ-POPの雰囲気なんですよね。最近特になんですけど、本当の意味で大ヒットするアニソンというのがなくて。市場的に小さくなってきているというのもあるんですけど、そこをどうしたら壊せるかということの答えが、もしかしたら今回の曲なのかもしれない。わかりやすさの中で個性を出すことってなかなか難しいんですけど、そこを狙っていったというのが一番大きいかもしれないです。

ーーコード進行やメロディにわかりやすいシンプルさがあるのと同時に、この曲はループ感が強くて。そこもクセになるポイントな気がするんです。

Tom-H@ck:例えば3000円ぐらいの寿司と銀座とかで食べる3万円ぐらいの寿司って、事前準備とか手間ひまの掛け具合が全然違うじゃないですか。そこは音楽にも共通しているところがあって。例えば以前の曲では1番と2番のサビ最後のドラムフィルは絶対に同じものを入れないとかそういうこだわりがあったんですけど、今回はあえて同じフィルをコピペして使ってるんですよ。僕、本当はそういうことが大嫌いで、若い頃は「そんなクオリティが低いもの、自分は作りたくない!」と思って絶対にできなかったんです。でも今回はそこをあえてやることで、ループ感や中毒性を重視した。実はさっき言った90年代後半や2000年代初頭のJ-POPって、そういう作り方をしている曲が多いんです。だから今回は作家としての価値観を塗り替えて、今までない価値観を美とするやり方に挑戦したというのもありますね。

ーーそのコピペ感というかループ感が、4つ打ちサウンドにもフィットしていると。でも、だからといってダンスミュージックとも違うんですよね。

Tom-H@ck:この曲ではバスドラは全部スクエアで、ハイハットは若干前、スネアはものすごく後ろで鳴っているんですよ。そういう鳴り方で放たれるループ感が、独自のグルーヴを生み出してるんだと思います。普通の4つ打ちとは違う浮遊感は、そこが起因してるのかもしれませんね。

「あえて静かな感じで歌ったほうが緊迫感が伝わる」(Mayu)

ーー歌詞についても聞かせてください。Mayuさんはこの歌詞の世界をどのように表現しようと考えましたか?

Mayu:MYTH & ROIDの楽曲というのはひとつの強い感情を歌っているんですけど、今回の強さというのは過去2作の強さとはまた別のベクトルで。楽曲は今までと比べてハードな作風ではありませんが、その中にある芯の強さみたいなものを、この歌詞含め歌い方でも表現しているなと個人的には思ってまして。なんて言うんでしょうね、怒りのような強い感情よりも、今回のように悲しみや切なさ、やるせなさみたいなものをアニメのキャラクターの心情に重ねて表現しています。なので『Re:ゼロから始める異世界生活』を知っている人が聴いても知らない人が聴いても共感できる歌詞だと思います。作品を知ってる人が聴けば、「このキャラクターの心情なのかな?」といろいろ想像を膨らませて感情移入することができるし、知らない人が聴いても……例えば恋愛でも友情でも何でもいいんですけど、大切な人を失ったとか後悔していることがあるとかつらい別れがあったとか、そういう形で感情移入できる。そこが今作の魅力だとも思っております。

ーーサウンドから受ける無機質な印象とは相反して、歌詞からは生に対する強い思いが感じられますよね。

Mayu:そうですね。アニメの中に何回も死んでしまうという特徴的な設定があって、この楽曲にも生きていたかったとか、私が生きていられたらとか生に対する思いが表現されている。その思いの強さがあるからこそ、やるせなさや切なさもより一層引き立つんじゃないかなと思っています。

ーーカップリングの「STRAIGHT BET」は、「STYX HELIX」と対照的な内容ですね。

Tom-H@ck:Aメロでは4つ打ちをガンガン鳴らしていて、ベースも16分でダンサブルなんですけど、音のミックスはいわゆるダンス系のものではまったくない。むしろベースはローを削って中域が主体だったりするし、そういうのも含めたアンバランス感が全体的にあると思います。実はこのカップリングはリード曲以上に、アニメの作品をイメージして作ってるんですよ。絵コンテを見させていただいて、こういう場面で流れることを踏まえて作った、完全に音楽職人として作った楽曲です。なので劇伴を作る感覚に近いのかもしれません。

Mayu:「STRAIGHT BET」というタイトルや歌詞から賭け事について歌ってることはなんとなく察しが付くんじゃないかと思うんですけど、このテンポの速さは賭け事を前にした緊張感とその心拍数を表現していると思っていて。なので、逆に私はあえて抑えめに歌ってるんですね。こういった楽曲は強く歌ったり感情的に歌ったりすればいいかというと意外とそうでもなくて、あえて静かな感じで歌ったほうが緊迫感が伝わるんじゃないかなと。そういう点は私自身、このユニットをやって学んだことでもあります。

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