unBORDE・鈴木竜馬氏が語る、音楽シーンへのメッセージ「新しいマーケットの作り方はある」

 

「新しいマーケットの作り方はある」

ーー前回の記事を発表した直後、鈴木さんはワーナーミュージック・ジャパンの執行役員に就任されています。会社における立場が変わったことで、仕事に対する姿勢が変わった面もあったのでしょうか。

鈴木:ああ、いま言ったようなこともそうなのかもしれないですね。それと、世界ではワーナーといえば3大メジャーだけど、日本では200人くらいの小さな会社で、巨大なメーカーと比べたら舵が取りやすいと思っていて。いわば豪華客船じゃなくてクルーザーだから、その機動力は絶対に活かしたほうがいい、ということも考えるようになりました。

 人口が1億2000万~3000万人というなかで、100万枚売れて「大ヒット」と言われるような音楽産業って、そもそもニッチなんですよ。業界全体で2000億~3000億円くらいの規模。フェスでご一緒させて頂くZOZOTOWNさんなんて、一社で流通高が1000億円規模ですよ。それと比較すると本当に吹けば飛ぶような音楽産業のなかで、僕らみたいなクルーザーなら、50万ヒットが年間に何本かあれば足りる。そして、ネガティブな条件が多いと言っても、新しいマーケットの作り方はあるんです。

ーー具体的には、どのようなケースを念頭においていますか。

鈴木:例えば、去年はDREAMS COME TRUE、松任谷由実さんというエスタブリッシュされたアーティストのベスト盤が100万枚に届いたし、次世代で言えば、一昨年だけれどSEKAI NO OWARIが70~80万枚のフィジカルマーケットを作っている。そこで若い子がCDラジカセを買ってもらって、その影響で某バンドが想定外に売れたんじゃないか、なんてまことしやかに言われたりもしていて(笑)。2015年末から2016年アタマにかけては、星野源くんやback numberがヒットして、業界全体にも跳ね返していけるようなマーケットを作ってくれた。リアルサウンドさんだからあえて言うけど、ゲスの極み乙女。の今回のアルバムは、そのチャンスを“まあまあ”の結果で終わらせてしまった、というところがありました。世間の見方としては、前作より売れているし「スキャンダルがいいプロモーションになった」と言う人が多いかもしれない。でも、僕らがターゲットしていた枚数からはほど遠かったんです。もっと届くと思っていたし、結果として一連のスキャンダルはアゲインストだった。アーティストも、レーベルも、プロダクションも、責任として重く受け止めなければいけないと思うし、とは言えエンターテインメントで返すしかないから、いろいろ考えていますよ。

ーー音楽作品を出すことで、リスナーに応答する、と?

鈴木:そうですね。まだまったくのアイデア段階ですけど、世の中に返す刃はエンターテインメントしてなければいけない。そういうふうに音楽で返していければと。才能と意欲は、相変わらず溢れていますから。

 また、彼らに限らず、新しいマーケットの作り方、可能性はあると思っているから、まずは会社の責任者の一人というポジションで、チャンスを狙っていきたいですね。繰り返し申し上げているように、20~50万枚くらいの範疇であれば、やれることはある。実際にSuperflyはそれくらい売るし、クルーザーとして機動力を増すための要素はたくさんあるので。

 

ーーフィジカルのマーケットにもまだ可能性はあるということですね。一方、前回のインタビューでは「フェスやイベントとの付き合い方も考えていきたい」とおっしゃっていましたが、伸長するコンサート市場へはどんな向き合い方をしていきますか。

鈴木:例えばメディアが主催するフェスだと、ギャランティの話はプロダクションサイドに行って、プロモーションは普段からコンタクトパーソンとしてやっているのにレーベルが……という、泣き寝入り感があります。レーベルはレーベルのアイデンティティとして、フェスでの地位を高めていきたいと考えているので、そこは理解してほしいなと。もちろん、メディアにはお世話になっているし、僕らの音源を広げてくれている方々なんだけど、もっと共存共栄の関係にしたい、ということは言い続けないといけない。若手がフェスに行くと、ケータリングでごまかされちゃうんですよね(笑)。バックステージでみんなで飲んでいると、「まあいいか」と思ってしまう。

 でも、みんなもっと戦ってほしいんですよ。特にロックフィールドにアーティストを送り込んでいるレーベルの人たちは、夜に酒を飲んでグチっているだけじゃなくて、昼間にテーブルを囲んでもっと話し合うべきなんじゃないかと。われわれの先輩方がやっている日本レコード協会は、レンタルとの取り組みなど、違う次元のシステム作りをしてくれているけれど、フェスに関しては次の世代でやらないと。“レコ協・アネックス”みたいなね。上の人におんぶに抱っこで、文句ばかり言っても仕方がないから、本当にやろうかな。

ーー変化の兆しはありますか。

鈴木:例えばMETROCKなどは、主催のテレビ朝日がレーベルを立ててくれているということもあるかもしれないけれど、ストレスなくやれていて。誤解を恐れずに言うと、例えば『ミュージックステーション』は出ることによって跳ねるパワーを持っているメディアだったりするから、お邪魔することに意義がある。(『ミュージックステーション』のチーフプロデューサーで、METROCKを立ち上げた)山本たかおさんという人がスゴいのは、新人のときからライブを観に来られるんですよ。ライブに足繁く通った上で口説かれるから、こっちも気持ちがいい。レーベルとして尊重されて、コンタクトパーソンとして成立しているから健全ですよね。そうなると、最終的なギャランティの話がプロダクションサイドと進んでも、大きな枠として一緒に動けている感がある。少し前の世代だと、多くのアーティストを出演させているのに、母体のメディアが「せっかくたくさん出るから、特集として出稿しませんか」なんて言ってくることもあって、それは違うだろと。せめて、「特集を組みます!!」と言って欲しかったりしたこともあります。

 

ーー音楽ストリーミングをはじめ、ポスト・フィジカルの市場にはどう向き合いますか。

鈴木:YouTube理論は変わらず、アーティストのプロモーションとしては素晴らしいなと思っています。アメリカはシングルカルチャーになっているからまた違うけれど、日本はまだアルバムに存在意義がある。シングルのヒット曲がYouTubeで気軽に観られれば、そのアーティストを気に入って、新旧問わずアルバムを買ってくれるかもしれない。

 ダウンロードやサブスクリプションについては、相変わらず大きな見解はないけれど、サブスクはやっていこうかな、と考えています。フィジカルにおいてはマックス100万枚のニッチな業界でも、スマホの契約台数は1億4000万台。稼働しているのが6000万~7000万台だとしても、音楽を聴く環境自体はものすごく広がっている。アデルの『Hello』がリリース後1週間あまりで100万DLを超えたようなこともあったわけで、音楽がニッチじゃないところまで広がる可能性はあるでしょう。デバイスから音が聴けるんだということをもっと推進したいし、音楽業界を底上げするという意味では、サブスクリプションサービスも否定すべきものではないなと。

ーーあとは利益分配の問題ですね。

鈴木:そうですね。ダウンロードは売れただけ青天井に利益が出るけど、サブスクは会員費からのシェアだから、メーカーも会員数が増えていくようにこぞってがんばらないと。ビジネスという意味はもちろん、音楽を聴くシチュエーションを広げるという意味では、“スマホさまさま”ですよね。そういう意味ではポジティブだと思う。

関連記事