『clammbon 2016 mini album 会場限定販売ツアー』東京公演レポート

クラムボンが“産地直売”ライブで示した、音楽ビジネスの新たな可能性

原田郁子(Vo./Key.)。

 こうしたクラムボンの画期的な試みにの背景には、インターネットやSNSが爆発的に普及したことや、機材やソフトが発達し、事務所が所有するスタジオでも本格的なレコーディングが出来るようになったことなどがあるだろう。また、楽曲提供を積極的におこなっているミトにとっては、主たるクライアントであるアニメやアイドルの現場が今もパッケージ文化を大切にし、会場限定リリースやそれに付随する特典などで、独自のカルチャーを生成していることに触発された部分も、もしかしたらあるのかもしれない。なによりこれが、クラムボンのこれまでの実績と、ライブバンドとして(プレゼン出来るだけの)実力があったからこそ成立する試みであることも見落としてはならない。が、彼らほどの地位を築いたバンドであるなら、放っておいても“売れる”システムが出来上がっているはずで、それを、わざわざ壊してまで次のステージへ進もうとしている理由は、単にバンドとしての“新陳代謝”や、あくなき制作へのこだわりだけでは決してないだろう。ある部分では旧態依然とした音楽シーンへの強い危機感と、後進のバンドたちがより良い環境で音楽を奏でられるようにという、彼らなりの責任感、使命感にかられての行動でもあったはず。そうした志の高さには、ただただ脱帽するばかりである。

 なお、ワーナー在籍時の5作とコロムビア在籍時の8作については、木村健太郎によるリマスター盤として廉価でリリースされており、二社とも良好な関係が続いているという。これも彼らの人柄と、音楽に対する真摯な姿勢があってこそだろう。

 

 後半は『triology』から「yet」、『2010』(2010年リリース)から「KANADE Dance」などを披露。ミトの遠戚であり、ライブの前日が命日だったNujabesにちなんで「Folklore」(2003年『imagination』収録)を演奏すると、ひときわ大きな拍手が挙がった。

「本当に、これからだと思ってます」と、アンコールで「Slight Slight」を演奏する前に原田は言う。

「新しいことを始める時って、まずはそれを知ってもらって、一緒に何かやりとりしたり、馴染んでいったりするまでには時間がかかると思う。今日はたくさんしゃべったけど、『あ、クラムボンはこういうことをやろうとしてるんだな』、『なにか新しいこと、始めたんだな』っていうことを、持って帰ってもらえたら嬉しいです」

 キャリア20周年を迎えた今なお、「これからだ」と言い切るクラムボン。彼らの今後がますます楽しみだ。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

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