渡辺淳之介×松隈ケンタが語る、BiSHと音楽シーンのこれから「いまはトレンドがクラッシュして皆が好きなものを聴いてる」
渡辺「BISHで武道館には立たなきゃいけないと思ってます」
ーーそういう意味で「この人たち面白いことしてるな~」って感じるバンドやアーティストって誰かいますか?
渡辺:近しいところでいうと、水曜日のカンパネラ。クオリティを保ちつつ、実験的なこともやっている。サブカル層にもウケてますし、どうやって今後メジャーになっていくのかってことを考えると、100万枚CDを売るような存在にはならないと思うけど、すごく見せ方が上手いなと思います。「今これが欲しかった」的な立ち位置にいると思うし、チームでやってる感じがいいですよね。とはいっても、4年くらいくすぶってる時期を見てるので、ほんと売れてほしいなと思います。それから、ぼくのりりっくのぼうよみ。面白いというか若いというか、自分の知らない世界を見せてくれる。ぜんぜんわからないけど、なんだろうこれは?みたいな。そこをわかりたい気持ちもありつつ、刺激的ですよね。
僕的には、7~8年くらい前に出てきた神聖かまってちゃんが救世主だったと思ってるんですよ。「ロックンロールは鳴り止まないっ」を聴いた瞬間に、やっとロックスターが帰ってきたと思ったけど、そんなにメジャー級には受け入れられなかったですよね。いろいろ難しかったのかもしれない。どうしても先輩ばかりチェックしちゃいますね。THE BLUE HEARTSのヒロトさんの野音ライブの時のMC、BRAHMANのTOSHI-LOWさんのMC、そういうのを繰り返し見てます。言葉だけで、心をグッと掴むんですよね。そういう心の触れ合いをしたいなって、オジさんみたいな気持ちになっちゃうんですけど(笑)。心に訴えかけてくるものが好きです。
松隈:僕はSEKAI NO OWARIだな。ライブは観たことないけど、曲はすごくいいと思う。年末に紅白歌合戦、CDTV、ジャニーズカウントダウンとか、歌番組をずっと見てたんですよ。やっぱりロックだろうと何だろうと、「みんなが知ってる曲をやる」のが年末の歌番組なわけじゃないですか。その中で「こいつら誰だろう?」みたいなのが出てきて、みんな困惑したりする。でも、セカオワは久々にそうじゃないバンドだと思うんですよ。僕らの世代より上の世代は知らないと思うけど、子供たちはセカオワの「スターライトパレード」とか、ほぼ100パーセント知ってる。聴いていて何かイラつくとか、ムカつくとか、感想は何でもいいんです。クリエイター的には「この曲、なんか頭に残るな」っていうものを作りたいし、それでいて長く愛される曲を作りたい。そういう気持ちはずっとあります。1曲でいいと思うんですけど、そういう突き抜けた1曲を自分も作りたいです。
ーー突き抜けていくってところだと、「アイドル」って枠の中を飛び出してやるくらいの気概がないといけないのかなって気もするのですが、そのへんはどう考えてますか?
渡辺:難しいですね。ビジネス的にやりやすかったのが、アイドルっていうのはあるんです。BiSの時からそうなんですけど、アイドルと思われたいからやってる……となると、それはちょっと違うので。BiSHに関しては「アイドルなのに……」みたいなのはいつか外せたらいいなって、すごく意識してます。
松隈:でも、最近はなくなってきたよね、「アイドルなのに、こんな音なんですね」っていうのも。
渡辺:目指す場としては、AAAとかDream 5とか? アイドルとは謳ってないけど、握手会もやってますみたいな。そっちのスタイルに行きたいとは思います。AAAも紅白出てたし。だから、もしかしたらBiSHにも男が入るかもしれないですよね。
松隈:3人くらい?
渡辺:めっちゃイケメンの。
松隈:それ、アリだなぁ(笑)。
ーー(笑)今回の新譜も含めて、BiSHに何かを託しているような感覚はあるんでしょうか? 対メンバー、対自分でもいいんですけど、2人の「想い」みたいなものがどこかに投影されている……みたいな。
松隈:やっぱりBiSとBiSHにはそういう特別な感情はあるよね。
渡辺:そうですね。あと僕たち、BiSの解散ライブで横浜アリーナの舞台に立ってますし、売れた時には自分たちもステージに立つので。
松隈:だから、今は武道館のステージに立とうとしてる(笑)。
渡辺:それを確実にやるものと見据えて活動してるんですけど(笑)、BISHで武道館には立たなきゃいけないと思ってます。
松隈:前座かアンコールで(笑)。作曲を仕事にしている音楽家だったら、音楽を作る上での足かせみたいなものってあると思うんです。そういうのがようやく取り払われたというか、自信を持ってカッコいいでしょと言えるようになったかなと。今はBISHの音楽を否定されても甘んじて受け入れられるというか。もちろん、他のアーティストさんも全力でお仕事させていただいているんですけど、自分のやりたいことを明確に出しやすいのがBISHですね。田舎にいるような、手垢のついてないインディーズ・バンドと同じ感じで作れてるんですよ。そういう部分で託すというか、のめり込んでます。逆にPOPの新しい曲はアイドルっぽいものを意識して作ってみたんです。僕も渡辺くんも「これはやりすぎじゃないの?」って感じるくらいベタなものだったんですけど、世に出してみたら評判が今まで以上に良かったという(笑)。
渡辺:だから、ニーズがあるところにどう出すのかが大事かなと思っていて。例えば、思ったほどの結果が得られなかった時は、180度転換しないと切り開けない道があるかもしれない。そのいい例がPOPの新曲だったのかも。
松隈:これまでクールにカッコよく作ってきたけど、あまり面白いと思ってもらえなかったから、180度変えてみようみたいな。
渡辺:大胆に方向転換する。僕たちはそういうのが得意なんですよ。
松隈:抵抗ないもんね。
渡辺:だって、聴いてもらえない方が悲しいじゃないですか。
ーー渡辺さんはBISHやPOPに何か託していることはありますか?
渡辺:そうですね。アメリカンドリームじゃないですけど、大きな夢を感じてほしいとは思っていて。今回はBiSの時みたいに解散をコンセプトにはしてないので、僕としても新しい挑戦なんです。前は解散までのリミットがあって、その中で頑張ろうと思ってやっていたけど、今はいわゆる「天井」がない状態なので。BiSの横浜アリーナで見た何千人というお客さんの光景を一度見てしまったから、もう一回それを見させてあげたいし、僕が小さい頃から思い抱いていた「音楽業界」っていうものの中で存在感を出していってほしいというのはあります。ただ、もっと大きくなってもらわないと、それらは叶わないので……。そういったことを考えると、BiSHはメンバーのものでもあるし、僕のものでもあるし、松隈さんのものでもあるし、ファンのものでもあるわけで。
もちろん、そこに至るまでには、いろんなことがあると思うんですよ。自分の場合もBiSの時から一緒にやってきたチームの中で去年お別れがあったりとか……まあ、人生そのものだなと(笑)。自分だけじゃなくて、アーティストの人生も預かってるので。多感な年頃の女の子の土日を使って活動してるわけですからね。でも、今は人並みにお給料を渡せてるのが、BiSHだけなので、POPを含めて、そのへんはもうちょっと頑張りたいです。SCRAMBLESの皆さんは食べていけてるんですよね?
松隈:おかげさまで。だけど、13人くらいがSCRAMBLESのチームにはいるけど、全員が食べていけてるわけじゃないから。今はスタジオに常駐でいる7人くらいかな。みんなレベルも上がってきたしね。この話題もそうですけど、取材の場を通して渡辺くんがどういうことを考えているのかがわかるので、こういう機会はありがたいです。
渡辺:2人で取材を受けさせてもらうのって、今回で3回目じゃないですか。「前回よりもステージが上がってるかな?」とか、今日も取材前に考えましたね。再来年あたりは紅白の話ができるようになっていたいです(笑)。
(取材・文=上野拓朗)
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