渡辺淳之介×松隈ケンタが語る、BiSHと音楽シーンのこれから「いまはトレンドがクラッシュして皆が好きなものを聴いてる」
松隈「BiSHのサウンドはトレンドと関係ないところで方向性を決めた」
ーー世の中の「流行」ってものに関しては、2人はどういう距離の取り方をするタイプなんですか? ちゃんとチェックしておきたいという人もいれば、敢えて情報を遮断して自分のスタイルを極めていく人もいるじゃないですか。
松隈:今、僕は迷ってますね。遮断すべきなのか、チェックすべきなのか。揺れてます。これまでは何も考えたことなかったけど、渡辺くんが流行に敏感な人なので、そこから方向性を決めていくこともあった。でも、最近はそれもなくなってきたよね?
渡辺:そうですね。
松隈:周りもそういう流れになってきている気がして。2年くらい前だったら、トレンドを意識して「バンドだったらこういうサウンドがイケてる」とか「こういうジャンルがいい」みたいな風潮があったと思うけど、最近はそれもクラッシュして皆が好きなものを聴いてる。だから、BiSHに関しては敢えて方向性を決めたんです。楽器の数を減らして、シンセも取っ払って、シンプルな方向に行ってみようと。しかもトレンドとは関係ないところで。
渡辺:流行ってるものとか、流行りそうなもの。基本的に僕はそういうものに寄り添いたいタイプなんです。一歩先というよりは、つま先の「先」くらい。それくらいの雰囲気がいいんですけど、音楽のトレンドってところだと正直今はわからないです。細かくジャンルを分けたら、たぶんあるのかもしれないけど……。ただ、その分すごく自由に提案しやすい状況だなというのは感じますね。それこそ音楽のジャンルというよりは、生っぽいものというか、人間的なものの方が受け入れられるんじゃないかなと、僕の場合はちょっと考えていて。だから、今回のBiSHのアルバムはヴォーカルも生っぽくしてみたり、シンセを極力排除したりして。
ーー渡辺さんが昔から話してる「画一的なものに逆行したい、サウンドだけじゃなくてカルチャーも伝えていきたい」とか、その軸はずっとブレてないですよね。ただ、アウトプットの仕方が毎回異なるだけという。
渡辺:そうですね。カッコ悪いことはしたくないので。去年はそういう部分でもすごく試された1年でした。
ーー2015年は、運営側もお客さん側もライブ現場での作法みたいなものがクローズアップされることが多かったように感じます。そのへんはどう感じてますか?
渡辺:会社として個人として、自由にできるかできないかってところでいうと、2015年が勝負の年だったんですよ。5月末にデビュー、8月にTIF(TOKYO IDOL FESTIVAL)があって、初日にお客さんが暴れすぎちゃって翌日出演できなくなる事態になり……。ネットの中だと悪口ってよく聞こえるんですよ。どんなに小ちゃい声で言ったとしても、大きな声で聞こえるわけです。それを気にするくらいだったら、何も声を発さないけど僕たちを支持してくれているサイレント・マジョリティの人たちを信じる方がいい。ただ、メジャーを目指すのであれば、時にはギリギリの立ち振る舞いもできるようにならないと、メジャーになれないんじゃないかなっていう気もします。
ーー運営サイドからしてみると、敢えての「炎上」というのも手段の一つとしてあるじゃないですか。でも、「笑えないシリアスなネタ」として受け取られる可能性もある。渡辺さんはそういうバランス感覚というか、立ち回りがすごく上手なイメージなんですけど。
渡辺:コミカルなんでしょうね。僕自身、口は悪い方なので、誰かをバカにしたりすることもあるけど、ギャグっぽいのかもしれない。本気で言ってないように見えるのかも。あとは自分もバカにされていいというか、僕が矢面に立つことでアーティストの逃げ場になるわけですよ。
松隈:でも、渡辺くんはBiSHのファンとかサポートしてくれる人のことはバカにしてないやん。ちゃんと届けたい人のことは大事にする。でも、世間的にはアイドルっていうだけでバカにする人がいる。曲を適当に作って、適当に金儲けして、ファンから搾取するみたいなイメージ。実際、そういう感じの人が運営側にも多い気がするんですよね。でも、BiSやBiSHはそのイメージを逆に利用してる。「そうそう、チョロいんだよ」って(笑)。でも、絶対にバカにはしない。それがいいのかもしれないね。
ーーあと、新しいことを最初にやってるじゃないですか。BiSの時の超高額チケットもそうだし、BiSHの全曲フリーダウンロードもそう。そういうアプローチもファンからしてみると信頼できるところなんじゃないですか。
渡辺:ラッキーでしたよね。僕たちは新しいもの好きなので、前回のBiSHのアルバムで全曲フリーダウンロードをやらせてもらった時、あの企画はたぶんアイドル界では初めてだったと思うんですけど……。
松隈:CDの売り上げも下がるどころか、逆に上がったんだよね。
渡辺:数年前、PVが一曲良かったらCDを買ってくれた人たちって大勢いたんです。でも今、CDを買う人たちっていうのは自分の中のハードルが高くて、自分自身を納得させてから買う傾向にあると思うんですよ。「これは絶対にいいから俺は買う!」みたいな。そこまで納得してもらわないと買ってくれない。BiSHで全曲ダウンロードした時、「なんだこれは! そこまでやるんだったら、これは絶対にいいはずだし、買っておかないと……!」ってCDを手にしてくれた人が多かったのかもしれない。だから、完全にいいと思ってもらわないと買ってくれないところまで来ちゃったんだなと。
昔は違ったじゃないですか。試聴機で2~3曲聴いて気に入ったから買うこともあった。だけど、今はすべてにおいて満足感や安心感を得てから買ってるんだと思う。これが中高生になると、ほんと買わないわけですよ。彼らはYouTubeですべてチェックしてるので。こないだ僕が出た『ビートたけしのTVタックル』でさえ、「YouTubeで観ました!」って普通に言われる(笑)。ただ、本当にいいと思ったら彼らもCDを買うと思うんです。それを考えると、こちら側が「この音楽がいいんだよ」ってことをしっかり提示しなくてはいけない状況になってきたのかなって感じます。