乃木坂46運営・今野義雄氏が語る、グループの“安定”と“課題” 「2016年は激動の年になる」

 2015年の乃木坂46は、初のアルバム『透明な色』発売に始まり、シングルリリースの好調さや全国ツアーの拡大、さらにはテレビ、雑誌、広告といった各メディアでのめまぐるしい活躍など、女性アイドルシーンの顔ともいえる大躍進を見せてきた。また、年末にはグループの歩みを振り返るミュージックビデオ集『ALL MV COLLECTION~あの時の彼女たち~』をリリース、そして12月31日には念願の紅白歌合戦初出場を果たし、乃木坂46のキャリアはひとつの区切りを迎えた。その流れを受けての2016年、まずは1月31日放送のテレビ番組『乃木坂工事中』(テレビ東京系)で、今年初の楽曲リリースとなる14枚目シングルの選抜メンバーが発表され、新たな布陣が明らかになる。

 今回、リアルサウンドでは乃木坂46運営委員会委員長・今野義雄氏にインタビューを行なった。MV集リリースに至った経緯や、多方面に大活躍を見せた昨年のグループの裏側、さらには順風満帆だからこそ気になる今年の乃木坂46の舵取りまで、幅広く話を聞いた。(香月孝史)

「僕の方で、もう一回かき乱すようなことをしなきゃいけないのかな」

――シングルCDリリースを13枚積み重ねて、このタイミングでMV集を出すことになったのはなぜでしょう?

今野義雄(以下、今野):グループ初期の頃からいろいろな場所にカメラは常に入れているので、商品企画はいろんなかたちで立てられる状態ではあったんです。けれど、秋元(康)先生の考えもあって、ある程度乃木坂46が大きくなって、多くのファンがついて、誰もが「もっと乃木坂を見たいんだ!」となる、そんなエネルギーが充満するタイミングまでは、商品化せずに我慢しようよと。それで気づいてみれば結局、57曲も入れることになりました(笑)。

――乃木坂46のMVについて今野さんが以前から仰っているのは、制作クリエイターの意向を最大限優先するということです。人気グループの映像制作には多くの制約があるはずですが、それでもそこにこだわろうとするのはなぜでしょうか?

今野:MVを制作する場合、ある程度の方向性と設計図をお伝えしたら、あとは思いっきりおまかせにしないと、作品がこちらの想像を超えてくれない。思い通りに全部指定してしまうと、それは僕らの想像した範囲内のクリエイティブで収まってしまうので。ですから、いかにクリエイターに120%の力を出していただけるかがチームの手腕になってくる。そのクリエイターの力の半分も引き出せなかったとしたら、その瞬間に負けなので。

――初めて関わる監督などもいる中で、手放しでおまかせすることには怖さも伴うのでは?

今野:たとえば丸山健志監督のように、どんな球を投げても素晴らしいものを返してくれるとわかっている監督には、デビューから毎シングル一本は撮っていただいてるんです。丸山監督のような方にずっとお願いできるからこそ、初めての方に監督をお願いすることもできる。そこでたとえば山戸結希監督のように見事な、見たこともないものが生まれたりするわけです。

――柳沢翔監督や湯浅弘章監督など、ドラマ性の強いMVが乃木坂46のひとつのイメージですが、丸山監督はそれとは別のスタイルで、ハイレベルの綺麗な絵作りをされていますね。

今野:しかも内容がバリエーションに富んでますよね。丸山監督が撮る一つ一つのビジュアル感は、乃木坂46のスタンダードになっているかなと思います。パキッとした美しさと、ファッショナブルな感じ。一方で、柳沢監督や湯浅監督など、淡い色味のドラマ作品もある。

――乃木坂46のMVはバリエーションに富みつつ、高水準で安定した作品群という印象です。

今野:ありがとうございます。ただ、今は僕の方でまたいろいろ考えなければいけない時期なのかなという気もしてるんですよ。乃木坂46のブランディングやイメージが出来上がりつつあるので、監督さんたちの中で、守らなきゃいけないものがひとりでに生まれてしまうんです。

――乃木坂46のイメージに寄せたものを作ろうとしてしまう。

今野:はい。そうなると、なんとなく既視感のある作品が生まれてしまう。ちょっとそういう時期に来ている気がしていて。僕の方で、もう一回かき乱すようなことをしなきゃいけないのかなとは思いますね。

――ハイレベルで安定した作品が続けば、それはそれで安心感はあるけれども……。

今野:エンターテインメントの王道というか究極の形として、偉大なるマンネリというのはひとつの様式美としてありますよね。それを目指すことの価値はもちろんあるんですけど、僕自身の出自や内面がパンクだからでしょうね(笑)。固まり始めちゃうと壊したくなる。

――乃木坂46のMV自体がそもそも、王道のアイドルMV的ではないですよね。それがいつのまにか定着している。

今野:だから乃木坂46の場合、ベタベタにアイドルっぽいことをやった方が過激ってことになるんですよね(笑)。

4thシングル『制服のマネキン』表題曲MVより。

――初期からのMVを振り返ってみて、特に印象深いメンバーは?

今野:初期でいえば、やっぱり生駒(里奈)だと思います。生駒は映像や写真で見せるビジュアルのクオリティが最初からハイレベルだったので。4枚目シングル「制服のマネキン」MVでの生駒の表情感が出来上がるまでというのは、実はすごく戦っていたんです。モニターを見ながら、「これじゃない、これでもない」と何度も伝えて。生駒も、「もうわかんないよ!」って。けっこうやりとりを繰り返したあとに、突然生駒が「わかったかもしれない!」と。それでやってみたら、あの表情感が出てきた。あれは一言では言い表わせないですよね。ただクールなだけじゃない。孤高であり、ちょっと儚げでありながら、凛とした強い意志を持っている。ただ、生駒や歴代のセンターだけでなく、周りを飾っていくメンバーたちも表情の作り方、見せ方はそれぞれがすごいものを持っています。それは「会いたかったかもしれない」のMVからすでに、ある程度できていました。

――乃木坂46として初めて撮ったMVが「会いたかったかもしれない」ですね。

今野:MV集を買われた方は是非、これがメンバーにとって初めてのMVなんだと思いながら見ていただきたいと思います。「ああ、最初からすごいじゃん」って思っていただけるんじゃないでしょうか。

――ここから2015年の乃木坂46を振り返っていただきたいと思います。1月にはアルバム『透明な色』がリリースされました。アルバムのリード曲「僕がいる場所」は、一人称の「僕」が、愛する人を置いて死んでゆく仮定の歌詞になっています。この重いテーマを乃木坂46が歌う意図はどこにあったのでしょう?

今野:もちろん歌詞の意図は秋元先生にしかわからないので、総括的なお話はできないのですが、ただ、楽曲は個人個人の体験に結びつけられて解釈が変わってきますよね。……僕個人のことを言えばその前年、2014年に僕は癌と戦っていたんです。本当に死んでしまうかもしれない、そんな状態からの復活だったので、この曲をいただいた時は「僕のことだ……」という刺さり方でした。本当に自分が死んでしまったら、この子たちはどうなっていくんだろうっていう、自分の物語としてリアルに感じ取ってしまいましたね。とはいえ、もちろん受け取る人によっていろんな感じ方をされるものだと思います。

11thシングル『命は美しい』表題曲MVより。

――続く2015年初のシングル楽曲となった3月18日リリースの「命は美しい」も、引き続いて「生きる」ことの尊さを歌う曲です。重いテーマが続きました。

今野:「命は美しい」も重いテーマだし、タイトルも本当にこれでいくのかなども含めて秋元先生ともやりとりは重ねたんです。でも思いのほか先生には迷いがなくて、「俺はこれでいいと思ってるんだ」と。先生の方でこのテーマを乃木坂46のメンバーに歌わせる覚悟ができているのであれば、こちらとしてはそれをまっとうに見せるべきだと思いました。そこで、あの時のもう一個のテーマとして出てきたのがダンスです。当時「乃木坂46は踊れない」というイメージで語られることも多かったですよね。いや、踊れないわけじゃなくて、それを志向してないだけなんだけど……とは思っていたので、ならば踊ろうと思えば踊れますよというのを見せたいということもあって。選抜発表の時に、「乃木坂史上、最高難易度のダンスをやる」とメンバーには伝えたんです。だから、「命は美しい」はダンスをストイックに追求する姿勢と、歌詞の重いテーマとが交わって、他の曲とはぜんぜん違う色合いや重みが生まれた気がします。

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