嵐とはどういう存在か? 明治大学名物講師が“PVにおける四つの手法”から分析

「『踊る嵐』から移行しようとしているのでは」

――嵐も15周年を過ぎて、かなり変わってきましたよね。これまでとは全然違う切り口になってきていて、「こう来たか」と思うことが多くなりました。

関:恐らく「踊る嵐」から移行しようとしているのでは。ただ、まだ結論は見えてきていないと思います。そこで今回「Zero-G」以降もきちんと追ってみようと思って書いたわけです。「Zero-G」はアルバム『THE DIGITALIAN』のリード曲で、アルバムタイトルは「DIGITAL」と「VEGETARIAN」という自然の単語を組み合わせて出来ています。つまり、自然と人工の融合がテーマとしてあるわけで、実は「Your Eyes」の頃と変わっていないんです。「Your Eyes」の時、嵐は自然の方にぐっと寄っていったんですけど、この作品ではデジタルの方に巻き返して、でもいくらデジタル化してもデジタル化しきれない部分というものを表現したものだと思っています。だからあやとりのシーンがあるんですよ。デジタルによって、つながっていくことはつながっていくけれども、最終的にそれをつながりとして維持していくためには人と人とのふれあいが無ければ無理なんだということを表現したかったのではないかと。みんなで楽しめる、デジタル的なインフォメーションではなく、実際に触れ合って分かち合えるようなものとして提示されたのが「Zero-G」ダンスなのではないかと思うんです。それまでは「嵐」を表現する為のダンスだったのだけど、これはみんなと踊れるダンスということを言いたかった気がします。

――「Sakura」はどうでしょうか。

関:「Sakura」はまた新しい試みで、生田斗真さんと小栗旬さんのドラマ『ウロボロス』主題歌で、実は自分たちのドラマ以外で主題歌を歌ったのはこれが初めて。嵐の楽曲として発表しますが、このPVは明らかにドラマイメージを反映させなければいけなかったということです。映像に映し出される椅子の数が2つなのは、明らかに生田さんと小栗さんを指しているように思います。そういうことをイメージさせるのと同時に、嵐としての表現をどのようにしなければいけないのか、ということを考えていった作品であると思います。その折り合いをどのようにつけるかということで、最終的に「Lotus」でも出てきた桜をモチーフにしているのでは。嵐としての在り方と、ドラマの世界観を同時に提示した例だと思います。

――これも大きな転回点ですよね。

関:今まではメンバーの誰かのドラマ主題歌を歌ってたわけですからね。初めにドラマの主人公のメンバーが真ん中にいて、最後にまたドラマの主人公が真ん中にきて終わるというルールがあったんですよ。「Sakura」はそれに当てはまらない作品でしたので、楽曲を提供しているドラマと嵐の楽曲がどのような関係しているのかということを表現しつつ、あくまでもドラマの世界をどういう風に表現するかという、二重の構造を提示しなければいけないというのが、この作品の大きな課題でした。

――アーティストとしての位置づけも変化した作品ですよね。

関:たしかにメイキングで、アーティストとしての位置づけについても語ってましたね。

――実際にこの頃から嵐は、Hey! Say! JUMPと共演してみたり、V6のコンサートでバックダンサーとして共演してみたり、他のグループとの関わりが目立つようになりました。

関:そうですね。まさに「Zero-G」じゃないですけど、15周年で嵐としての形が完成したのかもしれません。それを今度はどうやって広げていくかってところでしょうか。そしていろんなグループと共演してどうコンビネーションしていくのかということも考えているんだと思います。

――一方で、最近の嵐は、方向性を模索しているように感じることがあります。

関:少し私も気になっていたんですけど、一つ間違えると大衆に迎合して人気をあおる体制になってしまう気がしていて。背負っているものが大きいのも分かるんですが……。私がなぜ「誰も知らない」あたりまでにフォーカスするかと言うと、あくまでも「嵐」というものを表現していると感じたからです。そこまでは、ファンの顔色を窺ったり、大衆的なものにどうやって訴えかけるかということを無視しているんですよ。「嵐」はこうなんです、とその世界観をどうやって表現するのかということだけを突き詰めた方が、それを見た人は感動して、共感しますよね。嵐の方から、みなさんとどうお付き合いしたいとか、どのように関わり合いたいということをあまり表現する必要性はないのではないかと、個人的に思います。その舵取りをどうするかが、これからの嵐の課題となるのではないでしょうか。

(取材・文=松田広宣)

■書籍情報
『「嵐」的、あまりに「嵐」的な』
発売日:12月7日(月)
著者:関修
出版社:サイゾー

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