宮本英夫の日本武道館公演レポート

高橋優が、全身全霊の笑顔で届けた歌の力 『笑う約束』ツアー日本武道館レポート

 

 「未だ見ぬ星座」からは再びバンドが戻り、背後には星空を模した無数の灯りが美しく瞬く。曲が終わると静かに語り出し、秋田を離れて10年以上ずっと自分の居場所を探してきました、でも最近は“誰かの居場所になるのも、大事な目的だと思うようになりました”と前置きして歌った「おかえり」は、その包容力と共感力の高さ、飾らない親密な歌いぶりのおかげで、この日最も深く強く胸に沁みた曲の一つになった。リアルタイムシンガーソングライターというのは、デビュー当時の高橋優のキャッチコピーだが、デビュー当初に「おかえり」のような歌詞が書けたとはちょっと想像できない。今だからこそ歌うことのできる歌を作る、リアルタイムを更新してゆく。それが高橋優というシンガーソングライターのアイデンティティだ。

 “ここから熱くなろうぜ武道館”、という雄たけびと共に後半が始まり、再びバンドのロック魂に火がついた。明るい「BE RIGHT」もシリアスな「太陽と花」も、狂騒的な「オモクリ監督〜9時過ぎの憂鬱を蹴飛ばして〜」も、猛烈にラウドに激しく一気に駆け抜けてゆく。その終着点が「泣ぐ子はいねが」で、秋田名物ナマハゲの巨大な面がステージ後方で睨みを利かす中、タオルを振り回しながらステージを左右いっぱいに走り回る高橋優。アリーナ、一階、二階を巻き込んで繰り返されるコール&レスポンス。もはやライブでは絶対に欠かせない、笑顔で盛り上がる定番曲に、大歓声が鳴り止まない。そして本編を締めくくる22曲目「明日はきっといい日になる」。ベスト・アルバムに収録されていた、これが高橋優の最新の気持ちだ。吹っ切れたように明るいメロディと軽やかなビートに乗せて、明日はきっといい日になる、と歌う言葉が幸せのおまじないのように響いてくる。オーディエンスも笑顔で大合唱だ。

 

 アンコール。これもベスト・アルバムに初収録された楽曲で、ファンからのリクエストで選ばれた「リーマンズロック」。実話に基づく極めてシリアスな歌詞ながらも、さぁ胸を張れ、生きていけ、という明るい言葉が救いを生む、力ある応援歌だ。2曲目は、明るいシャッフル・ビートの「微笑みのリズム」。そして最後の1曲を歌う前に、高橋優が客席に呼びかける。

「みなさんがそれぞれの日常に戻ったあと、日常の中に今まで以上の笑いがたくさん溢れていますように、という願いを込めて」

 最後の1曲は「福笑い」だった。途中で高橋優がマイクを客席に向ける。湧き上がる今日一番の大合唱。どこを見渡してもみんな笑顔だ。『笑う約束』というテーマにふさわしく、最後にみんなが笑顔になるために全身全霊を傾けて歌われた全25曲、約3時間。歌の持つ力とはどういうものかということを、あらためて感じさせてくれるメモリアルなライブだった。

(文=宮本英夫)

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