栗本斉の「温故知新 聴き倒しの旅」

岡村靖幸が信奉され続ける理由は? サウンド・言葉・ダンスの独創性を再考

 ただ、岡村ちゃんにとって、こういった言葉の使い方もキレキレのダンスも、アーティストとしての自己表現であるわけで、なによりボトムとなる音楽ががっしりと揺らいでいないからこそできるわけです。彼の作り出す音楽は、いわゆるファンクの影響が濃厚です。とくにプリンスの影響が色濃いことは洋楽に詳しい人が聴けばよくわかるでしょう。とはいえ、このクールでファンキーなサウンドやメロディを肉体化し、岡村靖幸というブランドにしてしまったのは、やはり前述した言葉やダンスだったりするわけです。こういったディープなファンク・サウンドは、ともするとマニアックにとらえられがちです。実際、一部を除くと、徹底的にファンクを追求してしまうと、ポップ・フィールドから離れていってしまいます。岡村ちゃんの歌も、そのサウンドだけ抽出するとかなり作り込まれているし、一般的に聴きやすい音楽とはいいがたいかもしれません。しかし、そこに彼特有の言語感覚に満ちた歌詞をちりばめ、ダンサブルでグルーヴィーに歌うことによって、ポップスへと華麗に転換するわけです。まさに岡村マジックとしか言いようがありません。

 こういったダンサブルでファンク色の強いポップスって、実は今の音楽シーンの主流のひとつだったりします。ロック・バンドもヒップホップもアイドル系も含めて、ディスコやファンクのビートに言葉を巧みに乗せて歌うアーティストががぜん増えているような気がするのです。そして、こういったいわゆる黒っぽいJ-POPのルーツは、すべて岡村靖幸なのではないかと思ってしまうほど、その世代に岡村ちゃん信奉者が多いんですよね。Base Ball Bearの小出祐介やヒャダインこと前山田健一などが公言していることでも有名。他にもOKAMOTO'Sや在日ファンクなどのファンキー系アーティストを聴いてみると、意識的か無意識なのかはわかりませんが岡村DNAを感じさせる場面が多々あるわけです。彼のカリスマ的人気が衰えない背景には、次世代から先駆者という認識を持たれているからに違いありません。

 9月に出したばかりのシングル『ラブメッセージ』も、サウンドだけ取ればボトムの太いディスコ・タッチのダンス・ミュージックですが、聴き終えた後に残るのは岡村ちゃん特有のちょっぴりセクシーで青春風味の歌詞の世界。カップリングに収められた「ヘアー」はさらにソリッドなファンク・チューンですが、エロスだけでなくほのかに社会派メッセージを挿入しています。いずれも、彼にしか生み出せない、唯一無二のポップ・チューンであることがわかるでしょう。いくつかの事件の影響もあって、何度も浮き沈みのあった岡村靖幸ですが、50歳を迎えてもこれだけパワフルな音楽を生み出せるのはさすが。まだまだこの個性を突き進んでいってもらいたいと願いつつ、10年以上ぶりとなるオリジナル・アルバムも楽しみに待ちたいと思います。

■栗本 斉
旅&音楽ライターとして活躍するかたわら、選曲家やDJ、ビルボードライブのブッキング・プランナーとしても活躍。著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノ Special -more 160 item-』(ラトルズ)がある。

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