レジーのJ−POP鳥瞰図 第6回

AKB48、きゃりー、Shiggy Jr.ーーJ-POP界に定着した「ハロウィンソング」の現状とは?

AKB48ときゃりーぱみゅぱみゅ、ハロウィンソングを巡る代理戦争

 先鞭をつけたのはAKB48の「ハロウィン・ナイト」。10月のイベントについて歌った曲が7月に歌番組で初披露されたのは少し妙な気がしたが(「6月に選抜総選挙→7月に総選挙メンバーの楽曲披露→8月にリリース」という例年のスケジュール通りで発表された)、世の中に浸透させるためにはこのくらいの時間が必要という判断だったのかもしれない。「クラブじゃないんだ、ディスコだよ!」というキャッチコピーが掲げられたアッパーなディスコチューンには、普段のAKB48の楽曲と比べると少し淫靡なムードが漂っている。露出度の高い仮装も目立つハロウィンコスチュームとの親和性を意識したのだろうか。

 「ハロウィン・ナイト」の振付を担当したのは「恋するフォーチュンクッキー」と同じくパパイヤ鈴木。そう言えばフィリーソウル風味の「恋するフォーチュンクッキー」について、ダフト・パンク「Get Lucky」を筆頭とする「クラシカルなソウルミュージックへの回帰」というグローバルトレンドとの合致を指摘する向きがあった。今回の「ディスコ」を強調した表現も、ここ最近のディスコやソウルの影響が色濃いサウンドの隆盛(アウトプットの方向性は違うが、たとえば星野源「SUN」など)と軌を一にしていると言えなくもない。また、今作においてはアナログレコードの発売や「Disco Train」(TOKYO MXで毎週放送されている過去のディスコヒットを紹介する番組)への出演など「AKB48ファン以外の層」、もっと言えば「音楽に関心を持っている層」に向けたプロモーションも目立つ。秋元康がどこまで意識的かは不明だが、この手の取り組みからは「本当はサブカル寄りの人たちにも評価されたい」というマスを動かすヒットメーカーならではの業の深さを感じずにはいられない。

 8月26日に発売された「ハロウィン・ナイト」の1週間後にリリースされたきゃりーぱみゅぱみゅの「Crazy Party Night ~ぱんぷきんの逆襲~」は、AKB48の「淫靡さ」に対してテーマパーク的な「かわいさ」を前面に押し出した楽曲である。街中に仮装が溢れだす以前のハロウィンは主にディズニーランドなどのテーマパークの中で行われていたことを考えると、きゃりーぱみゅぱみゅがこの曲で表現している雰囲気こそ「本来の日本のハロウィンの姿」に近いのかもしれない。彼女は3年前の「ファッションモンスター」でもハロウィンをモチーフにしたPVを発表していたが、誰かのルールに縛られたくないと叫ぶ「ファッションモンスター」と<みんなで踊ろうよ>と呼びかける「Crazy Party Night ~ぱんぷきんの逆襲~」ではメッセージに大きな違いがあるように思える。この数年でハロウィンというものの価値が「みんなと違う衣装を着ること」から「みんなと違う衣装を着て、みんなで一緒にいること」に変容した証左として捉えると興味深い。

 AKB48の総合プロデューサーである秋元康と、きゃりーぱみゅぱみゅの全楽曲を手掛ける中田ヤスタカ。この2人は前述した「バレンタイン・キッス」「チョコレイト・ディスコ」それぞれの作者でもある。バレンタインデーを巡る陣取り合戦が、ハロウィンでも同じように行われていると思うと非常に面白い。世が世なら小室哲哉やつんくも参入していたかもしれないと考えると、いろいろと妄想が膨らむ。

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