柴 那典のチャート一刀両断!
でんぱ組.incの新曲に見るグループの戦略転換 「ドキュメント」から「シンパシー」への変化を読む
そして「あした地球がこなごなになっても」は、マンガ家の浅野いにおが作詞を、釣俊輔が作曲、Tom-H@ckが編曲を担当したナンバー。8ビートのリズムにギターのカッティングを配したセンチメンタルな曲調は、やはり浅野いにおが作詞し原作漫画の映画主題歌となったASIAN KUNG-FU GENERATION「ソラニン」を想起させる。
そして、何より印象に残るのは、地球滅亡前夜という極端なシチュエーションを提示しながら「お仕事は とても順調なの」「私って結構頑張ってると思うよ」と女の子のひとりごとから描写を構成し「ぎゅっと抱き寄せて それだけなの それだけなの お願い」「きっと約束だよ 約束だよ お願い」と、ピュアな恋心に着地する歌詞の世界観だ。
今回、浅野いにおは、でんぱ組.incのメンバーに事前にインタビューし、そこで出てきた回答からこの曲の歌詞を書き下ろしたのだという。実はこれ、前山田健一が「W.W.D」や「W.W.D II」の歌詞を書いたときと同じ手法なのだが、アウトプットは真逆の方向性を持つものになっている。
吉田豪によるインタビューなどで、浅野いにおは自身の内面に「女の子への過剰な憧れ」があることを明かしている。「女子高生になりたい」という願望、性転換願望があったりすることも語っている。女装が似合わないであろう自分への落胆も吐露している。つまり、浅野いにおにとっては、今回のコラボは、自分自身がでんぱ組.incの6人に移入して「女の子の気持ちになりきる」ためのまたとない機会だったのではないだろうか。そうやって書かれた歌詞だからこそ、6人の物語ではなく、広い層の女の子の共感を誘うようなアウトプットになっているわけだ。
「ドキュメント」から「シンパシー」へ。でんぱ組.incの表現の方向性が少しずつ変わってきていることを、新曲のヒットからは読み取れる。
■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」/Twitter