市川哲史の「すべての音楽はリスナーのもの」第30回
おやじロックの真髄「UDO MUSIC FESTIVAL」の愉楽と蹉跌ーー市川哲史が幻のフェスを振り返る
話が逸れた。
とにかくこのウドーちゃん祭りは、我々おっさんにとって天国のようなフェスだった。
思い起こせばまず、初日から<圧倒的な曇天>という不吉な天候が最高だ。全面アスファルトの超巨大駐車場がメイン会場なだけに、快晴だったら少なく見積もっても40人のおっさんがもれなく死んでいたはずだ。
仮設トイレではなく、すぐ傍にそびえ立つレース場のスタンドに綺麗なトイレ群が整備されてたのも、正解。だって我々の飲酒量はハンパじゃないもの。場内ではバーボンやカクテルまで売られてるし、観客が持ち込んだアルコールの量も天文学的だったし。にもかかわらず、まったく並ぶことなく用を足せるのだから、快適の一言につきる。
あれ?
はい、お察しの通り妙でしたウドーフェス。
観客が持込禁止のはずのアルコール類がほぼノーチェックでじゃんじゃん持ち込まれるばかりか、メインステージからわずか20mしか離れていない地面に場所取りのブルーシートが続々と敷かれるという、ほぼお花見&花火大会の河川敷状態。キャンプ用のテントまでステージ前下手に張られてるのだから、ディレクターズ・チェアの5脚や10脚なんて屁みたいなもんだろう。
そもそも、これだけ演奏中も客が呑み食いしまくるフェス自体、ちょっと記憶にない。
私の前方にいた40代の小太り男なんかアルコール満載のブルーシートの上で、左手にカレー右手にスプーン持って、食いながらドゥービーを聴いて踊っていた。しかも彼のカミさんとおぼしき姉ちゃんは、旦那が食い終わると全速力で新たな食い物をどこからか調達してきて、自分は食べずに手渡すのだ。鳥類の子育てを観察してしまった。
持参した食材を広げ、サンドウィッチ・パーティーを催すカップルもいた。おいおい、レバーペースト塗ってるよこいつら。
ついでに言えばパグと柴犬が各1頭、ステージで唄うクリッシー・ハインドの30m先を散歩しているのを私は目撃した。ちなみに同行したカメラマン氏は「猫もいた」と夜、うなされた。
ではなぜ、ウドーちゃん祭りはこんなに自由を満喫できたのだろうか。
答えはひとつ、誰もいままで経験したことがないほど見事なガラガラだったからだ。
ぎゃははは。
主催者発表された観客数は2日間でのべ6万人だったが、私の実測では初日6千人に2日目3千人の計1万人弱がいい線ではないか。なのでメイン会場もステージ前方50mぐらいまでは人口密度が過密っぽく映ってはいたものの、その先は人もまばらな快適巨大空間と化していたのだから。
我々取材班も鉄柵に腰掛け、望遠目線でステージを眺めつつ煙草とバーボンを愉しみ、「お、ジェフだよジェフ♡」と時折ステージ前最前付近まで出撃したものだ。それだけ自由に行き来して歩き廻れるほど、盛大に空きまくっていたのである。
正直な話、他のフェスより平均年齢が明らかに高い観客にとってはこの上なく居心地よかったが、主催者の心情を察するに余りある惨状だ。雇用主の心が折れればバイトの仕事は雑になり、何をやっても赦される奇跡の放置天国が生まれたのである。