RHYMESTERが語る、日本語ラップが恵まれている理由 宇多丸「自らを問いなおす機会があることはありがたい」

「今回は表現の幅を広げるアルバムにしたかった」(Mummy-D)

ーーリッチ・ギャングじゃないですけど、〝リッチ〟って単語にはヒップホップ感もありますしね。そして、『Bitter, Sweet & Beautiful』の音楽性に関して、当然、目を引くのがPUNPEEのクレジットです。5曲でプロデュースを手掛け、その内、2曲ではラッパー/ヴォーカリストとしても参加していますが、最初の段階から彼にはこのように全面的に関わってもらおうと考えていたのでしょうか?

Mummy-D:PUNPEEは、最初にトラックを集め始めた時に5曲入りのやつをくれたんだけど、それがどれも凄く良くて。

宇多丸 うん、突出してフレッシュだった。

ーーああ、RHYMESTERはアルバムをつくる上で、トラックのオーディションみたいなことをやるんですね?

Mummy-D:最近はそうなってるね。まず、オレが200から300ぐらいは聴いてるんじゃないかな。その中から選んだものを皆にも聴いてもらうんだけど、とにかく、PUNPEEが気合入っててさ。あと、彼はオケをつくると同時にフックも頭の中で鳴っちゃうタイプらしくて、デモの段階でそれを仮歌で入れてきてて。だから、トラックを採用すると同時に、ヤツの声も採用せざるを得なくなるっていう。それで、PUNPEEだらけのアルバムになっちゃったんだけど(笑)。

宇多丸:でも、あのフックの感じとか、オレらからは絶対出てこないものだから面白くて、「これ、そのまま使ってもいいかもね」っていう。

ーー以前、宇多さんは『ウィークエンドシャッフル』(TBSラジオ)でPUNPEEを上手いラッパーの代表に挙げていましたよね。

宇多丸:そうそう。一緒に曲をつくり出すちょっと前ぐらいかな。ヴォーカリストって武器を1個でも持ってりゃ良くて、2個持ってるのは上手いひと、3個持ってるのは天才だと思うんだけど、あいつは3つ以上持ってる気がするな。しかも、その3つ以上のバランスの調整が見事というか、トータルで確実にクリティカルヒットしてくる。

ーー結果として、PUNPEEがアルバムの要となりました。

Mummy-D:PUNPEEという毒を食らっていいものをつくろうみたいなところはあったね。前回は(illicit)tsuboiくんにその役をやってもらったわけだけど、今回は彼に。

ーーアルバムのコンセプトにも通じる話なんですが、今回のリリックには、下の世代へのメッセージも多く含まれていますよね。「Kids In The Park」はそのものズバリですけど、「ガラパゴス」も若いラッパーに向けたラインがあります。だからこそ、PUNPEEが大々的に起用されたのかなとも思ったのですが?

宇多丸:それは、ひとつに、DとJINに子供がいるっていうのもあるんじゃない? ただ、PUNPEEに関しては「若手をフックアップ」的な意識はないね。

Mummy-D:うん。彼はもはや中堅どころの実力派みたいな位置にいると思うし。今回はヤツの才能を借りて新しさを導入したっていうより、むしろ、表現の幅を広げてもらったっていう感じかな。音楽的な許容度が高いじゃん、PUNPEEは。今回はまさにそういうアルバムにしたかったから。

ーーなるほど。では、フレッシュさではなく、SWING-Oのピアノと同じようにアルバムにおける〝リッチさ〟を担ってもらったと。

宇多丸:あとは、あいつを入れることで、風通しが良くなるっていうかね。オレらは意味意味意味、コンセプトコンセプトコンセプトでがっちりとした建築をつくっちゃいがちなんだけど、PUNPEEのヴァースで「お前、何言ってんの?!」みたいなところがあると、そこににちゃんと襖がつく。

ーー後程、詳しく訊きますけど、「SOMINSAI」のラップとか、笑わせ方を分かっているというか、結構、ロジカルなタイプなんだなって思いましたよ。

宇多丸:ベースには彼なりのロジックががっちりあったりするんだろうけどね。でも、その表出の仕方がさ、「〝加奈子〟(「SOMINSAI」のPUNPEEのパートで「忘れちゃえ 穴兄弟 過去の事 加奈子の事」というラインがある)って誰だよ? 昔、付き合ったことあるの?」「いや、ないっす」みたいな感じで(笑)。やっぱり、オレらにはない、いい意味でのルーズさがあるっていうか。あいつのヴァースが上がってきた時に、すごく感心したもん。「ラップってこれぐらい力が抜けてるほうがカッコいいってのもあるよな」「難しく考え過ぎなんだよな、オレは」みたいな。

Mummy-D:一方で、「ここはこの小節で終わってくれ」とか「この言葉は使わないでくれ」とか。そういう細かい注文も多いんだけどね。それで、喧嘩までは行かないけど、結構なやり取りをして。

ーーRHYMESTERに対してラップのディレクションをするんですか!

Mummy-D:うん。ヴァースの言葉を変えてくれとか、サイズを変えてくれって言われたのは初めてだったね。

宇多丸:最初、「Kids In The Park」の3番は16小節書いたんだけど、「8小節で終わってください」って言われて、「あ、はーい」っていう。

ーー音楽的に考えた時に、それが、彼にとってはビューティフルだと。

宇多丸:そうそう。PUNPEEなりに響く在り方っていうものがあるみたい。

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