パスピエが考える、ポップバンドの新たな価値観 「バンドサウンドを演奏するだけでは足りない時代になった」

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「シングルにおけるカップリングの立ち位置はものすごく難しくなってきてる」(成田)

――3曲目に収録している恒例のカバーシリーズですが、ピチカート・ファイヴの「スパイ対スパイ」と、こちらも、ライブでの演奏が難しそうな楽曲ですね。バンドの編成を考えると、佐々木麻美子さんや野宮真貴さんがボーカルを取っている時代のものを選ぶのがベターだと思うのですが、なぜあえて田島貴男さんがボーカルを務めていたこの曲にしたのでしょう?

成田:個人的にピチカート・ファイヴはすべての時期が好きですし、それを言うと前回の『トキノワ』も、Corneliusさんをカバーするなら「STAR FRUITS SURF RIDER」だと思うんです。アーティストが楽曲を出すうえで、リードトラックや推し曲はあるかもしれませんが、僕らは世に触れられてないけど良い曲を、パスピエというバンドを通して「こういう面白い曲があるんですよ」とピックアップして届けたいからなんですよね。特に近年は、ストリーミングサービスの普及などで、シングルにおけるカップリングの立ち位置はものすごく難しくなってきてると思っていて。そのなかでシングルを手にとって、実際に聴いてもらえる人には新しい発見を与えたり、しっかりとしたメッセージを受け取って欲しいです。

――そのうえで「スパイ対スパイ」にした理由は?

成田:表題曲のタイトルが「裏の裏」なので、「スパイ対スパイ」で対になるかなと(笑)。あとは「スパイ対スパイ」自体、“映画のテーマソングをピチカート・ファイヴがやったら”というテーマだったので、アニメタイアップの「裏の裏」とちょうど合っているように思えたので。

――アレンジは原曲のジャズ風なアプローチから大きく変えましたね。

成田:間奏の部分をポップでもロックでもないものにしようと思っていて、やお(たくや/ドラム)が入院していたこともあり、ドラムレスでまとまる形を目指した結果、“アルゼンチンタンゴ”に辿り着きました。“アルゼンチンタンゴ”は舞踏曲のような音楽で、ギターとストリングス、アコーディオンが絡まっていたうえ、ドラムレスのものが多かったので。あと、歌詞に<スウェーデン娘>が出てくるので、スウェディッシュなポップにするのはあからさま過ぎるなと思ったのもあり(笑)。

――パスピエの楽曲で、語りを入れるのは初めてですよね?

大胡田:初めてですね。でも私、結構こういうの好きなので楽しかったです。

――原曲だとボーカルを田島さんが、語りは小西康陽さんが担当していますが、成田さんが語りを担わなかったのはなぜでしょう。

大胡田:成田さんも録ったんです。

成田:もちろん、原曲の流れを汲もうとして、一回録音したのですが…「俺の出る幕じゃないな」と(笑)。

大胡田:こんな感じで普段はしないこともどんどん挑戦できるので、カバーシリーズは現場も楽しいし、ぜひ聴いてもらいたいです。

――カバーでは、自分たちの楽曲ではなかなか出来ない、パスピエならではのアレンジ力・エディット力を見れて面白いですね。エディットといえば、成田さんがこれまでの楽曲を改めてミックスした『フェスミックスCD』を、フェスやゲスト出演するライブ会場限定で販売しています。この新たなチャレンジを始めたきっかけは?

成田:“フェス”という場にものすごく人が集まる現状を踏まえて「新たな価値観を提供したい」と考えていて。もちろんフェス会場には各CDショップさんの即売も入っているわけですが、僕らの主催ライブには来たことがないけど、YouTubeでは予習していて、フェスでライブを見てみたよというお客さんに、パスピエをより知ってもらうための1枚を提供したいと思い、このミックスCDを作りました。

――主催イベントなどで販売しない意図はなんでしょう。

成田:あくまでも僕は課外活動というか、「Fes mixed by Narita Haneda」としてクレジットもされているので、パスピエの作品ではないと思っているんです。もちろん、ファンの方からは「なんで売ってくれないんだ」という声もありますけど、買ってもらうための目的が違うんです。フェスに来る方は、基本的にライトユーザーだと思うので、極論を言うと、演奏する側としてもその場を楽しんでもらうためにアッパーな曲ばかりのセットリストをやってもいいと考えているんです。でも、それだけだと何も残らないので、このような形を取って、フェスでやる曲ではないチャンネルを知ってもらおうとしている。

――そこまで成田さんが発信の仕方を工夫する理由は?

成田:ストリーミングサービスが盛り上がろうとしているなか、改めて考えさせられるのですが、“音楽を売る”というのはものすごく特殊な商売だと思っていて。たとえば洋服を買うにしても、本を買うにしても、ネットで買えるという手段が当たり前になってきていますが、だからといってアナログなメディアが絶滅したということは無いわけですよ。それって、アナログ的な手段やものを求めている人たちが一定数いることもあると思うのですが、残っているものには強固なブランド力があるとも考えることができて、これが重要だと睨んでいます。音楽も、少し前まではレーベルやジャンルが一定のブランド力を持っていたと思うのですが、現状は様々な音楽が良い意味でも悪い意味でも並列に聴けることによって、そのブランド規模がアーティストひとつという、一番ミニマムな状態で打ち出さなければならなくなったと感じています。

――ブランド規模がミニマムになったからこそ、パスピエという名前を広めるために、多様性のあるアクションを自覚的にやっているということですね。

成田:CDショップやレコードショップも、アイドルやバンド、シンガーソングライターやワールドミュージックなど、色々なものを販売しているし、ストリーミングも聴き放題と合わせて音楽の多様性を売りにしていて、スーパーマーケットに近い構造になってきている。でも、だからこそより音楽が手軽なものになって、絶滅する不安が逆に無くなったとも言えますよね。その時流のなかで、自分たちをより発信していくためには、ただ音源を制作してライブをするだけじゃなく、「パスピエってこういうことをやってたよね」と思ってもらいたくて色々な施策を打っているし、そのなかのひとつという認識です。

大胡田:フェスのステージで出来る曲はどうしても限られてくるので、そこで披露できない曲を、500円という価格で知ってもらえるのは良い機会ですから、興味を持ってもらえるようにもっと頑張っていきたいです。

成田:僕の中で、今の状態はまだ形態として不完全で。次の段階として、『フェスミックスCD』を流通に乗せたいと考えているんです。バンドの規模がもっと大きくなったとき、フェスが巻き起こす威力を可視化して体験したくて。たとえば、夏フェスや年末フェスの時だけ、僕らの『フェスミックスCD』がオリコンのチャートに入ったら面白いなと思いますし、そのチャートアクションでフェスの勢いを数値化してみたいんです。

――フェスミックスCDを発売するにあたって成田さんが出したコメントで、「オーディエンス」と「リスナー」を明確に切り分けて表現しているのが面白いなと思っていて。ここをあえて二元化したのはどういう意図があるのでしょう。

成田:これはライブ云々だけでなく、SNSの発展もあいまって、オーディエンスの発信力がどんどん上がっているし、彼らによって音楽が左右される時代になったと感じているんです。ポジティブな意味だと“ネットユーザーが選んだ音楽ランキング”みたいなものが見れたり、海外だとWeb媒体が選んだ年間TOPチャートや“来年期待の新人50選”など、データ化やランキング化したものが増えたうえに画一化されていないからこそ、それぞれのアーティストにスポットが当たりやすくなっている。でも、本来は音楽って“聴く”というアクションをした後で、“誰かに紹介する”というフローだったはずなんですよね。需要と供給のバランスがこれまでにない状態になりつつあるなかで、“フェスやイベントでしか買えない”という限定条件でお客さんがどういう反応をするのか見てみたかった。

――大胡田さんは『フェスミックスCD』をいちリスナーとしてどう感じていますか?

大胡田:初めて企画を聞いたは、どういうものなのかピンと来なかったですが、形にしてみると面白いものができたな、という感じです。ストリーミングサービスに関しては、「今の人たちってこういうのを面倒臭がらずに使えるのだなあ」と傍観しています(笑)。

成田:ストリーミングサービスに関して、業界の方々から問題視する意見が様々出ていますが、ユーザー側からそこまで出ていない、ということにもっと目を向けるべきではないでしょうか。だって、それってユーザーから求められていたということだろうし、自分が聴き手ならレンタルショップにも行くし、YouTubeも見るし、もちろんそのなかで良いと思ったものは買いますから。ただ、CDなどのメディアでしか味わえない、歌詞カードやジャケットといった文化が失われつつあるのは悲しいですけど、だからといってアーティスト側は100%諦めたりしないと思います。もし諦めざるを得ないときは、そもそもメディア自体が無くなってしまうタイミングなのでしょうね。

大胡田:私は目で見る、触ることを大事にしたいので、“もの”だけにある良さも感じていて欲しいですね。

(取材・文=中村拓海)

■リリース情報
『裏の裏』
発売日:2015年7月29日(水)
価格:【初回限定盤】(CD+CD)¥1,389(+TAX)
【通常盤】(CD)¥1,000(+TAX)

<収録内容>
・DISC-1(CD)
1.裏の裏 ※NHK Eテレ アニメ『境界のRINNE』オープニングテーマ
2.かざぐるま
3.スパイ対スパイ ※PIZZICATO FIVEのカバー楽曲(作詞:田島貴男/小西康陽 作曲:田島貴男)

・DISC-2(CD)
※初回限定盤のみ付属のボーナスディスク
パスピエ自主企画『印象D』のライブ音源を収録予定(詳細はHP等にて後日発表します)

【初回限定盤特典】
・大胡田なつき書き下ろしイラスト / 監修による豪華ダブル紙ジャケット
・自主企画イベント「印象D」のLIVE音源を収録したボーナスディスク付!

■ライブ情報
『全国ツアー タイトル(仮):パスピエ TOUR 2015』
11月04日(水)仙台Rensa
開場 18:00 / 開演 19:00
問:http://coolmine.net 022-292-1789

11月06日(金)新潟LOTS
開場 18:00 / 開演 19:00
問:キョードー北陸チケットセンター 025-245-5100

11月11日(水)高松オリーブホール
開場 18:30 / 開演 19:00
問:DUKE高松 087-822-2520

11月13日(金)広島CLUB QUATTRO
開場 18:00 / 開演 19:00
問:夢番地(広島) 082-249-3571

11月14日(土)福岡DRUM LOGOS
開場 17:00 / 開演 18:00
問:キョードー西日本 092-714-0159

11月16日(月)鹿児島CAPARVO HALL
開場 18:00 / 開演 19:00
問:キョードー西日本 092-714-0159

11月21日(土)大阪Zepp Namba(OSAKA)
開場 17:00 / 開演 18:00
問:GREENS 06-6882-1224

11月22日(日)名古屋Zepp Nagoya
開場 17:00 / 開演 18:00
問:サンデーフォークプロモーション 052-320-9100

11月26日(木)札幌PENNY LANE 24
開場 18:30 / 開演 19:00
問:WESS 011-614-9999

チケット料金:
[1Fスタンディング]¥3,500(税込)整理番号付 ※未就学児童(6歳未満)入場不可
[2F指定席]¥4,000(税込)/全席指定 ※小学生以上チケット必要
※2F指定席の販売は11/21大阪公演と11/22名古屋公演のみ。
※入場時に別途ドリンク代必要(11/06 新潟公演のみドリンク代不要)
一般発売日:9月26日(土)全公演一斉発売開始

【日本武道館公演】
出演:パスピエ
日程:2015年12月22日(火)
会場:日本武道館
時間:開場 17:30 / 開演 18:30
主催:J-wave / SOGO TOKYO
企画:パスピエ 制作 : WARNER MUSIC AGENCY / H3

<パスピエオフィシャルHPチケット先行受付中>
受付期間:7月25日(土)10:00〜9月13日(日)23:59

チケットプレイガイド発売
・チケットぴあ(Pコード:258-023 / 0570-02-9999)
・ローソンチケット(Lコード:73287 / 0570-084-003)
・イープラス http://eplus.jp
・SOGO TOKYO オンラインチケット http://www.sogotokyo.com (PC・mobile)
・楽天チケット http://ticket.rakuten.co.jp
・Yahoo!チケット http://tickets.yahoo.co.jp

パスピエ オフィシャルサイト

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